gem
『転がる石』という演歌がある。
旅芝居の舞踊ではテッパン曲、
つまりどこの劇団でも常に誰かが踊っているくらいの曲だ。
旅芝居特有の(股旅や任侠芝居のismから通ずる)ニヒリズムと自己陶酔、キメやアピールがしやすいええ感じのリズム、客席から掛け声をかけてもらえやすいええ感じの箇所、色々、「あー」なポイントだらけ。
せやから踊っていて気持ちよくなるんちゃうか。
観ていてもぽぉっとキャーとなれる曲なんちゃうか。
ぽぉっとはなれへん私は劇場でいつもへぇーっと観てきた。
私的初早乙女太一(18年前4月の新開地劇場のとある日)が踊っていたのもこの曲だった。
聴きすぎて観すぎてもう何も感じもしないこの歌のことを思い出したのは、ブレイディみかこさんの新刊『転がる珠玉のように』を読んだせいかもしれない。
「読むべき時に読むべき本に出会う」
「支えになる本には必要とする時に出会うこととなっている」
そんなスピリチュアルめいたというか格言めいたことは眉唾というか「えー」「なんやねんそれ」だ。
でも、収められているひとつひとつのエッセイを一回もう一回と読み返したりもして、じぃんと来たり、こみ上げるものすらあったり、笑ったり。
元は婦人公論という老舗雑誌のWebに連載されていたもので、当時から時折読んでいた。
先月3年ぶりのエッセイ集として出されると知り、すぐに買った。
買ったときも自身のまわりで自分のことではなくばたばたいろいろが多かった。
それはその後も今これからも続いていて、
だから彼女の「日々のこと」「その日々やその人々への目と気持ち」を読ませていただけたことが、なんだか、ぐっと。今も。今日もだ。
自己と他者、自分とまわり、容れもの(体)と気持ち。
歳を重ねること、
重ねると避けては通れない自己のことやそれ以上に自己だけいられないこと。
身近な者たちとのどうしようもない繋がり、
切っても切れはしない(かもしれない)それと面倒臭さや愛しさ、
いや愛しさじゃない。そんな言葉は軽い。それじゃ言い表せない。
愛しくはない。愛おしくはないけど、愛おしくなくもない、かもしれない。
血のつながるものも、つながらないものも、
身近なものも、身近でないものも。
でも。だから。だから。でも。
……なんてことは、誰にもあり、どこにも、それぞれに転がっていて、
どうしようもないけれどそこにあり続いてゆく現実と日々は、おかしかったり、笑わなしゃあなかったり、笑えなかったり、泣かないけど泣いたり、あのこともこのこともあのひともこのひとも私も日々はgemだらけだ。
Like a Rolling Gem.
「gemってなんだ?!」という始まりからの
「あとがきにかえて」でこのタイトルはぐっと沁みてくる。正直、泣いてしまった。
旅芝居の舞踊で使われる『転がる石』は、
もうテッパンすぎてなんとなくなんとなしの型みたいすらなっているが、歌詞を改めて見るとおもしろい。
呪いと自由と憧れと現実とそれでも矜持と、
なんともならぬとなんとかなると、それでも転がり続ける日常と。
常々言っているが、旅芝居は血の演劇だ。
どれだけきれいに発信したり切り取ったりしようと逃れられない、濃いどこまでもどこまでもな血の演劇だ。
そこでこの歌が好まれもう当たり前をとおりこしたように踊られている。
全国の芝居小屋で毎日誰かが踊っている。
途方もない。ああ。転がってるなあ。日々は。人は。
*
*
新刊のことはこちらでもすこし引用しました
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【略歴や自己紹介など】
構成作家/ライター/エッセイスト、
Momoこと中村桃子(桃花舞台)と申します。
旅芝居(大衆演劇)や、
今はストリップ🦋♥とストリップ劇場に魅了される物書きです。
普段はラジオ番組構成や資料やCM書き、
各種文章やキャッチコピーなど、やっています。
劇場が好き。人間に興味が尽きません。
舞台鑑賞(歌舞伎、ミュージカル、新感線、小劇場、演芸、プロレス)と、
学生時代の劇団活動(作・演出/制作/役者)、
本を読むことと書くことで生きてきました。
某劇団の音楽監督、
亡き関西の喜劇作家、
大阪を愛するエッセイストに師事し、
大阪の制作会社兼広告代理店勤務を経て、フリー。
lifeworkたる原稿企画(書籍化)2本を進め中。
その顔見世と筋トレを兼ねての1日1色々note「桃花舞台」を更新中。
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