アトピー周辺知識35 : 糖質制限・糖尿病(暫定)

 近年アトピー性皮膚炎やアレルギー性疾患の患者数はアジア圏にて増加傾向にあるが、同様にアジアで課題となっている疾患として糖尿病が挙げられる。

 元来アジア人はインスリン分泌と抵抗性の関係から白人と比べて体質的に糖尿病に罹りやすい。

 また昨今はアレルギー性疾患やアトピー性皮膚炎の治療の一環として糖質制限が行われ、寛解に向かう成果をあげているとの報告も多々ある。

 糖化は酸化ストレスと同様に体内炎症を増加させる要因であり、糖化によって生成されたAGEs(蛋白糖化最終生成物)が炎症性サイトカインを生み出すのに寄与するためと言われる。

 ただ疑問として残るのは痒みの原因である。炎症に加えて、皮膚にさしたる症状が無くとも生じる痒みこそがアトピー性皮膚炎の主症状と言えるが、糖化の説明からではその痒みの原因を全て説明出来ているとは言い難い。

 話を戻すが糖尿病に関わる症状として、肝障害や腎障害に基づく痒みというものがある。これは腎障害による人工透析患者等に顕著なのだが、皮脂腺や汗腺の萎縮による発汗の低下に起因する皮膚の乾燥や体表の神経伸長による神経過敏化が起きる。また血液中にオピオイドペプチドの一つであるβエンドルフィンが増加し中枢性の痒みを惹起する。この場合は抗ヒスタミン剤は無効で、μ―レセプター拮抗薬が奏効する。
 これら症状はアトピー性皮膚炎患者にも同じく当てはまり、治療としても同じものが効果を発揮する。

 端的に言えば糖尿病による肝障害や腎障害の患者とアトピー性皮膚炎患者の特に皮膚症状と関係の無い痒みは同様の原因から来る症状であり、そうでないと説明が付かない程度には症状に共通点が多い。そしてその原因とは腸内細菌叢のディスバイオシスによる血糖コントロール不良・血糖値スパイクでの高血糖であると考えられる。
 特に肝臓は高血糖やアレルギー症状、ディスバイオシスにより増殖したカンジダ菌やその毒素により大きく負担の掛かる臓器であり、それらによる炎症から痒みが起きている事は疑い様がないだろう。

アトピー性皮膚炎は生活習慣が関連しています。
私はアトピー性皮膚炎には脂肪肝の合併が多いことを報告しました。
脂肪肝がある方は、脂肪肝を改善するような食生活をしていますと、アトピー性皮膚炎も早く改善します。
アトピー性皮膚炎に脂肪肝が合併することは、その後に動物実験でも確認されました。

アトピー性皮膚炎における生活習慣の重要性

ビリルビン以外のかゆみの原因として、内因性オピオイドの関与があげられています。脳内で生成される内因性オピオイドに、かゆみを誘発するβ-エンドルフィンとかゆみを抑制するダイノルフィンがありますが、肝臓の炎症によりβ-エンドルフィンが生成され、大脳にかゆみを伝達する求心性C線維に作用し、かゆみを誘発すると考えられています

肝疾患が原因となる皮膚そう痒の病態とケア


 今まで糖尿病と言えば生活習慣病として過度な飲酒や脂質・塩分過多による肝障害・腎障害・膵臓障害等によるものが多かった。
 ただ最近ではそういった飲酒による生活習慣病ではない非アルコール性脂肪性肝疾患やインスリン分泌不全型の糖尿病が増え、また若年化の傾向も現れ始めている。

 改めて始めに触れた話に戻るが、アジア人は糖尿病と共にアトピー性皮膚炎に罹りやすい。アジア人はインスリンの分泌量が少なく、またインスリンの分泌速度も遅いためである。アトピー性皮膚炎は腸内細菌叢のディスバイオシスにより発症するが、それは同時に血糖コントロール不良も引き起こす。

 そもそも糖尿病はインスリンの分泌不足やインスリン抵抗性の増加による血糖値のコントロール不良、それによる血糖値の急変動や高血糖により発症する。そしてその上がってしまったインスリン抵抗性を低下させる事は糖尿病の治療や予防において非常に重要である。

 腸内細菌叢はポストバイオティクスによりインスリン抵抗性を低下させ、同様に腸管のバリア機能を高めて腸粘膜を保護し、リーキーガットによる糖や悪玉腸内細菌とそれに由来する毒素の血中への侵入を防ぐ。
 当然ながら腸内細菌叢のディスバイオシスはポストバイオティクスの減少をもたらし、血糖値の急変動や高血糖を惹起する。実際にアトピー性皮膚炎患者は血糖値やその変動が高い傾向にあり、余り言及されないがこの高血糖こそが慢性疲労や代謝障害と併せてアトピー性皮膚炎患者の高BMIの原因であると考えられる。


 これらの関係性についてはアトピー性皮膚炎患者の食後血糖値を大規模に調査すればすぐに判明する程度の事であるが、残念ながら一般的なアレルギーの血液検査においては血糖値は重視されていない。AST・ALT等の肝機能数値も併せて調査すればさらに原因は明確になる事だろう。



 加えて皮膚の炎症を引き起こす炎症性サイトカインもインスリン抵抗性を引き起こし、血糖コントロール不良の原因となる。さらに血糖値の乱高下は血糖値抑制のためのインスリンと血糖値上昇のためのコルチゾール双方を過剰に分泌させ、副腎疲労や膵臓疲労を招く。結果コルチゾール分泌の低下に繋がりアレルギー症状が悪化する事になる。

 また乳酸菌により分泌されるD-セリンというDアミノ酸のポストバイオティクスには、腎臓や脳を保護してその疾患を予防し、皮膚においては最も多いアミノ酸保湿成分として機能し、離乳期の抗酸化能を上げてアレルギー性疾患の発症を予防する効果も報告されている(これはポストバイオティクスによる腸脳相関の一例と言えるだろう)。
 D-アミノ酸は食物からは摂取出来ず、人体内で生産するか腸内細菌による生産に頼る以外に得る事が出来ない。近年の研究にて腸内細菌由来のD-アミノ酸が宿主の臓器に直接作用する可能性が指摘されており、これもポストバイオティクスを介した腸内細菌との強い共生関係を示すものと考えられる。


 私自身の痒みに抗ヒスタミン剤が効かず、ナイアシンアミドの高摂取が効いたのも、ナイアシンアミドによるインスリン分泌の促進と膵臓機能の改善効果によるものだったのだろう(ナイアシンアミドは1型糖尿病の治療薬としても使われ、老化による体内でのナイアシンアミド合成能の低下が糖尿病を引き起こす原因となるとの報告も有る)。


 つまるところアトピー性皮膚炎の痒みを抑えたければ糖尿病や脂肪肝とその予備軍に対する治療が同じく効果的という事であり、糖質制限による血糖値対策がアトピーに効くのは肝臓への糖質代謝や血糖値スパイク・高血糖による負担を減らすという意味合いが最も大きい(最大の要因は糖化そのものではない)。肝臓だけでなく腎臓・膵臓の機能改善効果のある治療も、アトピー性皮膚炎の症状改善に間接的に効果があるという事でもある(糖尿病患者の中枢性の痒み治療に用いられるシスクロポリンがアトピー性皮膚炎重症者の痒みにも効果的なのも、免疫抑制剤である事に加えてそれが理由と言われている、ナルフラフィンも同様)。




 当然ながら腸内細菌叢のディスバイオシスを治療する事も根本的な症状改善として非常に効果的である。ただ疾患の発端が腸内細菌叢にあったとしても、現状の症状に直接的に関わるのは肝臓等の障害による体内恒常性維持機能の機能不全であるため、症状の沈静化や寛解を目指すために先ずは肝機能の改善にこそ目を向けるべきだろう。



 加えて考慮すべき事としてアレルギー性疾患の治療薬として一般的な免疫抑制剤はインスリン抵抗性を引き起こして血糖コントロール不良を招き、長期においてはアレルギー性疾患やアトピー性皮膚炎の治療を妨げて症状を慢性化させる要因となり得る事も留意しておくべきだろう。
 この点ステロイド薬もデュピルマブ等の生物学的製剤も双方同様にマイナスに働くため、基本的に免疫抑制剤の長期使用は控え、敢えて使用するのであればデメリットを理解し副作用を抑える措置を取る必要が有る(場合によっては長期使用から血糖コントロール不良と症状悪化、薬剤での沈静化にて慢性化という悪循環から、先々破綻の見えている薬剤依存に陥る危険性も有る)。
 ステロイド外用薬が糖尿病のリスクを高める可能性があるとの研究もある上、そもそもアトピー性皮膚炎罹患者は健常者に比べて糖尿病の罹患率が高くなる傾向にある。



 …巷でのアトピー性皮膚炎に対する糖質制限治療の説明に対して不十分な物足りなさを感じていたのが、自身でこの記事に纏めて漸く充足された感はある(どの媒体も単体では情報量が足りず説明不足なものばかりであった)。

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