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本の感想

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2020年に読んだ本の感想です。
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#書評

今和次郎 『日本の民家』

(2020年の37冊目)民俗学者であり、考現学のパイオニアとしてして知られる今和次郎がいまからちょうど100年ぐらい前に日本のあちこちを旅して、各地の民家を調査しまとめた本。建築史的にも、民俗学・エスノグラフィー的にも、民藝方面からも読める名著。すごく面白い。地方によって民家の形態や建築に用いられる資材が異なるというヴァナキュラーなものへの気づきは、かなり早い感覚だと思うし、調査のなかで水害が多い

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千葉雅也 『ツイッター哲学: 別のしかたで』

(2020年の48冊目)千葉雅也のTwitterの投稿を書籍として編集したもの。単行本から文庫化するにあたり再編集が加えられているという。ページを開きはじめて最初にやってくる大きな印象は「千葉雅也の本のなかでも最も自己啓発な一冊ではないか」ということ。投稿されたときの文脈から切り離されて本書に収録されたテクストは、アフォリズム性をより強固にし、読み手の意識を強く刺激してくる。予言の書や占いの本のよ

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谷崎潤一郎 『陰翳礼讃・文章読本』

(2020年の47冊目)谷崎潤一郎の随筆と文章指南書をコンパイルした文庫本を手に取る。『陰翳礼讃』については文豪による日本文化論、と聞いていたのだが、たしかにそういう本であるものの、実際に読んでみると「最近の日本のトイレは西洋式でなんだか明るくて嫌だ、やっぱり日本のトイレは薄暗い感じ、なんか母屋からはちょっと離れたところで、木や苔が生えてて自然と一体化してるようなところが良いよね」みたいなトイレ論

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乗代雄介 『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』

(2020年の46冊目)ずいぶん昔、たぶん学生の頃から折に触れて読んできたブログが書籍化、し、さらにその管理者が芥川賞の候補になるぐらいの新鋭の作家として活躍している、という事実には、何重もの驚きを隠せなかったのだが、買い求めた本書のページをめくっていても一向に読んだ記憶のある作品が出てこないのには、また驚いた。

ブログにアップロードされた短編作品たちと、長い評論のような、随筆のようなもの(「ワ

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坂口恭平 『Pastel』

(2020年の45冊目)坂口恭平のパステル画集。写真のようにも見えるし、フランス印象派の絵画にも見える。現実の風景がパステルの解像度へと縮減されることによって、心地良い情報量になって表現されているような気がする。良い本。

『伊丹十三記念館ガイドブック』

(2020年の44冊目)ちょうど2年ほど前に松山を旅行した際、伊丹十三記念館で買ってきたガイドブック。積読してあったのを読む。分厚めの文庫本のような作りなのだが、伊丹十三の全貌を知ろうとするには最高のアンソロジーになっており、単なるガイドブックに留まらない仕上がりとなっている。記念館でしか基本的には買えないので記念館に行ってお買い求めください(ゆえにAmazonへのリンクも貼らない)。伊丹十三の愛

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村上春樹 『一人称単数』

(2020年の43冊目)村上春樹の最新短編集。はじめの2編ぐらいが「ん?」って感じで(おまけに表紙の漫画チックな感じも自分の趣味にあわない)、ああ、これは残念なこと、と言っていいのだろうな、明らかに作家としてのピークが過ぎているのだろう、という感想を抱いていたのだが、中盤から盛り返してきて、最終的には面白く読んだ。「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」と「品川猿の告白」が特に

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ロブ・デサール イアン・タッターソル 『ビールの自然誌』

(2020年の42冊目)アメリカの分子系統学者と古生物学者がタッグを組んで、ビールの歴史から文化、ビール造りに重要な材料(水・大麦・酵母、そしてホップ)、発酵のプロセスや人体への影響、それからマーケットに関して……など超多分野にわたってまとめたすごい本。

ビール関連の本は面白いものが多い。もちろんそれは自分がビール飲みだからなのだが、たとえばサントリーで長年ビール製造に携わっていた人が書いた『ビ

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菊地成孔 大谷能生 『アフロ・ディズニー2: MJ没後の世界』

(2020年の41冊目)2010年に刊行された菊地成孔・大谷能生のコンビによる講義録。『アフロ・ディズニー』のほうは刊行後すぐに読んだ記憶があるが、『2』はだいぶ寝かしてしまった。でも、そのおかげで内容は熟成してまた読みごろになっており、アフロ・ディズニー、つまりは黒人カルチャーとオタクカルチャーの接近をテーマに掲げた本書は、Flying LotusやThundercatの大ブレイクを予言するかの

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ルネ・セロー 『ヘーゲル哲学』

(2020年の40冊目)最近ヘーゲルの『精神現象学』を新訳でシコシコと読み進めているのだが、昔に樫山訳で挫折したときとあんまりレベルが変わってないのでほとんどわからないまま雰囲気でページをめくっている感じなのだった。そんなんで上巻は読み終えてしまってあいだに少し入門書を挟んでみる。このルネ・セローの入門書は、ヘーゲルの哲学を哲学史の文脈上なかで位置付けつつ、そのエッセンスを解説し、さらには後世への

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プリンス・ロジャーズ・ネルソン 『The Beautiful Ones: プリンス回顧録』

(2020年の39冊目)プリンスが生前自伝を出版しようとしていたのはニュースで知っていたが、わずかな遺稿を遺して本人は急死。本書はその遺稿と、自伝出版のパートナーに選ばれたライター(編者)の手によってこの自伝プロジェクトがどのような経緯をたどって進められ、そしてどのように突如として中断されたのかを明らかにする文章、それからプリンスの自宅兼スタジオ兼ライヴハウス兼倉庫「ペイズリー・パーク」に眠ってい

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村上春樹 『猫を棄てる』

(2020年の38冊目)とても個人的な文章。後半で語られるもうひとつの猫に関するエピソードは『スプートニクの恋人』のなかで語られたものだ。このイラストレーションとの組み合わせは、どうなんだろう? 自分の好みでしかないけれど、漫画的絵がちょっと邪魔だった。

マルセル・プルースト 『失われた時を求めて 第7篇 見出された時』

(2020年の36冊目)2年半近くかけて人生で2度目(13年半ぶり)のプルースト登頂に成功。この大長編を2周した人はおそらく日本でも5000人ぐらいしかないだろう(根拠がない数字)。まずは過去に書いた感想でも並べてみよう。

2周目の感想まとめ

村上春樹 『村上T: 僕の愛したTシャツたち』

(2020年の35冊目)村上春樹が「POPYE」誌で連載していた収集しているTシャツにまつわるエッセイ集。連載の初回はたまたま雑誌で読んだ気がする。毒にも薬にもならない内容であるが、だからこそ気晴らしの読書にはちょうど良い。プリンストン大学から名誉博士号をもらったときの授賞式でとなりがクインシー・ジョーンズだった、というエピソードには驚いたけれど。なんだそのめぐりあわせは、と。

ところで村上春樹

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