村上春樹 『一人称単数』
(2020年の43冊目)村上春樹の最新短編集。はじめの2編ぐらいが「ん?」って感じで(おまけに表紙の漫画チックな感じも自分の趣味にあわない)、ああ、これは残念なこと、と言っていいのだろうな、明らかに作家としてのピークが過ぎているのだろう、という感想を抱いていたのだが、中盤から盛り返してきて、最終的には面白く読んだ。「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」と「品川猿の告白」が特に良い。とくに後者は木下古栗的な意表を突くユーモアを感じさせる作品。
表題作の「一人称単数」、これは書き下ろしで、おそらくは雑誌に発表して溜まっていた作品のうち、語り手に対して、作家自身のキャラクターや人生が強めに投影されているもの(投影されているように読めるもの)をまとめる、というコンセプト(つまりは一人称単数、だ)に合わせて書き下ろされたものだと推測する。しかし、その表題作が一番村上春樹っぽくない。なんだか不気味な作品で悪い後味が残る。
「ヤクルト・スワローズ詩集」については状況が込み入っていて、これは2014年にヤクルト・スワローズの公式サイトに寄稿された文章の発展形といえるだろう。1982年に自費出版された『ヤクルト・スワローズ詩集』。これ自体がデレク・ハートフィールド的な捏造された書物であって、一種のメタフィクションなのだが、ヤクルト・ファンにしか刺さらないボルヘスみたいなものか。
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