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第五章 春ヶ原の光と影 ガラス戸から、涼やかな夜風が流れ込んでくる。 かすかに若葉の…
でも、夏澄くんが危険な目に会うなんて……。 風花は壁にもたれた。 落ち着きなく、…
「外出禁止……」 枕をぽんぽんと、ボールのように弄びながら、飛雨がつぶやいた。 「風花…
「行、きたい……ー」 風花は肩を落とし、ひざに顔を押しつけた。 行きたい。 門限な…
「じゃあね、飛雨くん。今日もありがとう。また明日ね」 訓練が終わり、ガラス戸から出て行…
うまく、やれますように。 水色をした朝の空気の中、風花は霊泉への長い坂道を登っていた…
『風花、一歩踏み出してみて』 夏澄の声は続く。 いわれた通りにすると、周りの空間が歪んだ。 気がつくと、水の幕で覆われた空間の中にいた。霊泉の結界だ。 「来てくれてありがとう」 結界の中で、夏澄は飛雨と並んで立っていた。 「ううん、わたしのほうこそ、呼んでくれてありがとう。スーフィアさんは?」 「春ヶ原に優月を迎えに行っているよ」 笑顔でいた夏澄は、ふいにふしぎそうな顔をした。 「風花、緊張しているの?」 「うん、まあ……。春ヶ原のこと、うまくでき
優しい……。 夏澄にもらった言葉を、心の中で繰り返した。 わらいを堪えようとしたが…
「だいじょうぶ? 優月」 隣に立つスーフィアが、不安気にする。 こんなときでも、優月…
『いきなり、ごめんなさい。みんな』 優月と話をつづけながら、スーフィアは風花たちと心の…
『ついさっきのこと……、私と優月が、もうすぐ藤原の御泉に着くってときのことよ』 花を想…
『それは……。ごめんなさい、できなかったわ』 『霊泉に来たとき、優月が弱っていたのはだか…
風花は、夏澄たちみんなと並んで、大きな大きな樹を見上げていた。 樹は力強く枝を伸ばし…
蒼天樹は水の精霊の国の中央に生えている、国で一番大きな樹だそうだ。 楡の樹に似ているが、大きさはその三倍くらいある。 天に届きそうだから蒼天樹というらしい。 広がっている葉のところどころに、小さな光の粒が輝いていた。蛍の光に似ている。 樹に降った雨の粒が、葉に留まり光を放っているのだ。 雨の名は星水雨というらしい。水の精霊の国の樹だけに降る雨だ。 星水雨は、樹を護る雨だ。 樹の陽差しが届きにくい場所に、光を運ぶ手助けをしている。 そうすれば日