水の空の物語 第5章 第1話
第五章 春ヶ原の光と影
ガラス戸から、涼やかな夜風が流れ込んでくる。
かすかに若葉の香りを含んだ、緑の風だ。
風花の部屋のガラス戸の向こうには、ベランダガーデンがある。
西洋木蔦、棕櫚竹、ミニバラなどが植えてあり、さわさわとリズムのいい葉音を立てていた。
「本当……?」
瞑想をしていた風花は、飛雨の言葉に振り返る。
「ああ、優月が明日から、藤原の御泉に来る」
「優月さん独りで? みんなも来ればいいのに」
「草花たちは動物のみんなと来るって張り切ってたみたいだけど、霊力で護るのは大変みたいだ。立貴と一緒に春ヶ原を護るってさ」
「……そうだよね」
「優月は長く滞在するみたいだし。霊泉のこととか、霊力が強い精霊のこととか、勉強したいんだってさ」
「じゃあ、協力しないとね」
明日ね。
ちょうどゴールデンウィーク中で、学校が休みだ。
「ねえ、飛雨くん……」
飛雨はいつものように、風花のベッドに寝転がっている。すっかり彼の定位置と化していた。
風花を女と思っていないと、失礼な発言も連発する。
「考えたんだけど、わたしにできるのは優月さんの気持ちを癒やすことくらいなんだ」
「まあ、霊力が身につくまではな」
「優月さん、なにを喜ぶだろうね? 肥料とか霊泉水くらいしか思いつかなくて。……音楽を聴いてもらうのもいいかなって思うけど、どうかな?」
「音楽?」
「わたし、オカリナなら吹けるの」
風花は、机の上に出しっぱなしだったオカリナを手に取った。
暗闇の中、瞳を凝らすようにしていた飛雨は、机の上で視線を止める。
「ちょっと待て……」
オカリナの隣に置いてあった、ヘルメットを凝視した。
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