水の空の物語 第5章 第17話
風花は、夏澄たちみんなと並んで、大きな大きな樹を見上げていた。
樹は力強く枝を伸ばし、辺りの全てを緑に染めるように葉を広げている。
息を飲むくらいきれいな緑青色の空間だ。
正確にいうと、夏澄が幻術で映し出している樹だ。
「本当に美しいですね」
感嘆の声をもらして優月がいう。
彼からその言葉を聞くのは、もう何度目か分からない。
「生き生きとして枝葉もよく茂って、健康な樹です。水の精霊の国に暮らす樹は幸せですね」
優月はとてもきれいに微笑んだ。
今日は優月に楽しんでもらおうと、風花は考えた。
霊力がない風花にできるのは、それくらいだからだ。
夏澄たちも風花につき合って、いろいろな遊びを計画してくれた。
まず、夏澄が幻術を使うことにした。
優月が一番喜びそうな、水の精霊の国の樹を見せられるからだ。
蒼天樹という夏澄の国で一番大きな樹に、雨が降る幻影を彼は見せていた。
樹は夏澄たちがいる結界よりも本当は大きい。
夏澄の幻術で、結界の中の風景は広い野原に変わっていた。
すごいよねーっと、風花は飛雨に向かってきゃあきゃあ騒いでしまう。
飛雨も興奮した様子で風花の肩を揺らしながら、言葉になっていない声を飛ばしていた。
夏澄に関することだと、風花は飛雨と本当に意見が合う。
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