水の空の物語 第5章 第15話
『ついさっきのこと……、私と優月が、もうすぐ藤原の御泉に着くってときのことよ』
花を想わせる優しい声で、スーフィアは続ける。
『優月は朝日を浴びる木々が美しいといっていた。穏やかな朝だったわ。そんな暖かい日だったのに。急に空気が変わったの』
スーフィアは一度、言葉を止めた。
『なにか、かすかな霊力を感じたの。宙を行く私たちの斜め後ろに、なにが現れたのよ』
『それって、もしかして』
夏澄の声が震える。
『現れたのは、あの風だったわ。襲われるのは春ヶ原だったはずなのに』
頭の中の声とは逆に、スーフィアは優月の隣で、やわらかく微笑んでいる。
『風は弱くて、今までみたいに四方に流れないで。動きも違ってね。なぜか、まっすぐ優月に向かっていったの』
『優月に? なんで……』
『……間違いかもしれないけど、私は狙われたのは、彼だって感じたの』
スーフィアの瞳に、一瞬悲しみがよぎった。
彼女はすぐに表現をもどし、やわらかくわらう。
風花は体を固くして、手が震えるのを抑えた。 優月さんが、狙われてた? どうして?
『でも、なんでだ? 原因に心当たりはないのか? スーフィア。その風から、なにか読めなかったのか?』
飛雨の苦い声が響く。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?