水の空の物語 第5章 第12話
優しい……。
夏澄にもらった言葉を、心の中で繰り返した。
わらいを堪えようとしたが、できない。
風花は口元を両手で覆って、うつむいた。
「なにやってんだ、風花」
飛雨が呆れ顔をする。
「思い出しわらいは、よくないぞ」
「楽しいことを思い出すのは、いいことだよ、風花」
夏澄が、まぶしい瞳をする。
「風花がわらうと、俺もうれしいよ」
どきどきして、言葉が出なくなる。風花は目一杯の笑顔で応えた。
夏澄くんに届いたかな。そう思ったとき、夏澄が風花の肩に両手をかけた。
「守護の霊力を張らせて、風花」
「え?」
「なにが起こるか分からないから、念のため」
「なにかって、なに? 夏澄くん」
夏澄は困ったようにわらう。
「う、ん……。念のためだよ。もしかしたら、霊力の強い精霊が関係しているかもしれないしさ。……俺の後をつけてた精霊のこともあるし」
夏澄の両手が光り出す。
その澄んだ水色の光はゆっくり伸びて、風花の体を包んだ。
光は薄い衣の形になったあと、風花の服に融合するようにして、消えていった。
やがて、夏澄が手を離したとき、視界の端になにかが映った。
誰ががふわっと結界内に舞い降りてきた。
スーフィアと優月だった。
風花は目をみはった。
優月が苦しそうに、体をふらつかせたからだ。
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