みくりやじゅん

富士山御殿場口を訪れた登山者・観光客との鳥居前での交流記をお届けします。登山の魅力だけでなく、安全性や注意点についても伝えたいと考えています。Noteでは、小説の一部や登山に関するエッセイを公開します。

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  • 富士山御殿場口登山道新五合目: 人間交差点

    富士山御殿場口を訪れた登山者・観光客との鳥居前での交流記をお届けします。富士山登山道で交わる人々の物語を通じて、登山の楽しさや魅力はもちろん、その裏に潜む危険や安全への配慮も描いています。観光客や登山者、そして地元で働く人々の心温まるエピソードを通じて、富士山への理解を深めていただければ幸いです。ぜひご一読ください。

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#1 はじめに(富士山御殿場口登山道新五合目:人間交差点 2021) 

 2013年(平成25年)7月、富士山の世界遺産登録とともに始まった「富士山世界遺産保全協力金」は、五合目を訪れる登山者・観光客のみなさんに、登山道の整備・手洗いの改善等の趣旨を説明して、より多くのみなさんに賛同していただき協力をお願いする募金形式だ。募金の協力をお願いするのは、静岡県から委託を受けた会社が雇用する私達検収員だ。  御殿場口登山道の登山者数は、毎年1万3千人前後で推移している。静岡県側3登山道の中で、例年登山者が最も少ない登山道だ。アクセスは、JR御殿場駅から

    • #42 将来は・・・・?

       大石茶屋までの散策を薦めた親子3人が帰ってきた。「お帰りなさい。如何でしたか?」と聞くと「ありがとうございました。良かったです。一瞬ですが山頂まで雄大な富士山を見ることができました。」と感謝の弁だが、女の子はすねちゃまの様子。「それでは記念に鳥居の前で一枚取りましょうか?」と聞くと「はい、子供だけお願いします」という。    スマホを手に取り撮影の準備は完了したが、鳥居下のすねちゃまは背を丸め、下を向いたままだ。ご両親が「顔をあげて!」「ほら、こっちを向いて」とスマホを構え

      • #41 缶バッチ

         富士山五合目を訪れて、富士山保全に協力していただいた方(千円以上の募金)に、静岡県ではお礼として缶バッチ贈呈している。直径が6cmほどの円形だ。中央に歌川広重の富岳三十六景の図柄を使用している。今年は「薩埵峠」だ。外側は、それぞれの登山道を色で表わしている。赤は須走口、青は富士宮口、緑が御殿場口だ。その上に「2022 富士山保全協力証」とプリントされている。この3登山道の他にレアといわれている紫色の缶バッチがある。富士山には登らないが、毎年4種類を収集しているマニアもいると

        • #40 もう、まだ

           御殿場口五合目の最終バスは、御殿場駅行きの午後5時40分発だ。そのご婦人が下山してきたのは午後4時30分頃だ。鳥居の下で一礼すると大きなため息をついた。中畑さんが「写真を撮りましょうか?」と声掛けする。「いや、いいです。化粧は落ちて髪はバラバラ、こんな姿は残したくないので。でもありがとう」とバス停の待合所に行くと、リュックを下ろしてベンチに腰を沈めた。タオルで顔を拭き終え、またため息。しばらくして少し落ち着いたのか、ご婦人がわれわれのほうに歩いてきた。   「先ほどはお声が

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        #1 はじめに(富士山御殿場口登山道新五合目:人間交差点 2021) 

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          42本

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          #39 ぬるくない? パート2

           7月10日に富士山の夏山登山が開山して1ヶ月。例年、登山中にケガなどで警察・消防への救助要請は4~5件程度なのだが、今年は既に28件と例年の6倍。異常の件数だ。あまりにも安易というか・・・・。そんなことを話していると、一台の車がわれわれの前に止まった。  「どうかしましたか?」と声をかけると、「御殿場署のものです。先ほど電話で『車が側溝に落ちて出られないから助けてほしい』という電話があったので捜しに来ているのですが、こちらに何か連絡はありませんでしたか?」という。「場所は

          #39 ぬるくない? パート2

          #38もったいない

           休日・祝日とその前日は、夜9時から翌朝4時まで2名での深夜勤務がある。夜9時から早朝2時頃までは登山者が少なくポツリポツリだが、深夜2時を過ぎるあたりから登山者の数は一気に増加する。勤務交代の4時までの2時間あまりで89人。保全協力金に換算すると8万9千円にもなる。残念ながら深夜勤務の時間帯は健康チェックが任務で、保全協力金をお預かりすることはできないことになっている。「下山してからお願いします」と言わざるを得ない。残念だし、もったいない」 好天が予測される休日・祝日とその

          #38もったいない

          #37 太鼓のひびき

           開山二日目午後2時頃になると、それぞれの目的を達成した人・断念した人登山客が次々と下山して来た。鳥居をくぐり踵を返して一礼をしてバス停方向に行く人、駐車場方向へ向かう人の後に、5人ほどのグループがやってきた。腰には直径50cmほどの太鼓のようなものを左腰にぶら下げている。そのうちの一人が鳥居に向かって拝礼をして、「ドドド―ン、ドドドド・・・・」と太鼓を打ち鳴らし始めた。登山者・観光客の姿も途切れていたので演奏を聞き入ることにした。心地よいひびきだ。演奏は1分くらいで終わり、

          #37 太鼓のひびき

          #36ぬるくない?

           7月10日の夏山登山開始から数日後、ごく親しい人からラインが入った。「ちょっとぬるい話だけど、転ばぬ先の杖か?」という文面と新聞記事が添付されていた。 「友人と二人で下山中に靴擦れができ、庇って歩いて他のところも痛くなり歩けないと女性から警察に救助要請があった。日没が近いため警察が遭難事案として山岳遭難救助隊が救助に向かい無事保護した。女性は足に軽いケガをしていた。」というものだ。  立秋(8月7日~22日)に入った8月中旬、御殿場口新五合目は晴れ・曇り・小雨・強雨が繰返

          #36ぬるくない?

          #35 三度目の正直

           昨日に続き午後勤務だ。12時ジャストに勤務場所に到着すると、若い二人組が鳥居の元で私の到着を待っていた。「やりましたよ!」と二人組。「そうか やったか。頑張ったね」と私が返す。  話は前日午後に戻る。 午後3時頃、リュックを背負った二人の若者が健康チェックを受け、富士山保全協力金を箱に入れながら「今夜の天気はどうですかねぇ?」というので、「予報では大きく崩れることはないらしいけど、山の天気はわからないから注意だけは忘れないようにね」というと「今日は3回目の挑戦なんです。過

          #34 アッちっち

           今日の午後勤務は、元経営者の中畑さん・元準公務員という板妻さんと私の3人だ。御殿場口登山道新五合目に夜の帳が下りると、風船型照明の周りを除き暗黒の世界となる。聞こえるのは照明用エンジンの音だけだ。登山者・観光客もたまに来る程度だ。そんな時は四方山話に花が咲く。口火を切るのは板妻さんだ。国内・国外情勢から政治・経済、文化・芸能・スポーツはもちろん、地元御殿場・小山・裾野については、微に入り細に入り、人間関係・人脈まで「立て板に水の如く」なんでもござれの幅広い見識を惜しげもなく

          #33 雨着・雨具・レインギア=カッパ(合羽)

           富士山に限らず登山をする時には欠かせない必需品がある。そのひとつが、雨着・雨具、今風に言うならレインギアだ。カンタンに言えば「カッパ」である。防水・透湿・保温・防風性を備えた数万円もする高性能のものから、雨・露をなんとか凌げる千円程度のビニール製の製品まで各種が販売されている。    小雨が降り続く中、御殿場行き最終バスから降りてきた若者二人。ビニールカッパを着て、これから山頂を目指すという。「そのカッパでは山頂を目指すのは無理ですよ」と翻意を促すと、「貴方のカッパ、いいで

          #33 雨着・雨具・レインギア=カッパ(合羽)

          #32 ギネスに挑戦

           7月13日水曜日、富士山夏山シーズン開幕4日目だ。今日は、朝3時45分からの午前勤務だ。勤務早々五合目の鳥居を囲むようにビデオカメラやらマイク放送施設が配置されてゆく。いったいなにごとが始まるのか? と様子を見ていると、責任者らしい人がやってきた。「今日これから、上田瑠偉選手が4登10時間制覇をかけてギネス記録に挑戦しますのでご協力をお願いします。」という。「えっ、聞いてないよ!」なんて言えない。ギネスに挑戦だもの。「わかりました、で何をすればよいのですか?」と聞くと、「上

          #32 ギネスに挑戦

          #31 あわや (富士山御殿場口登山道新五合目:人間交差点 2022) 

           6月中旬、今年もそろそろ富士山御殿場口新五合目での、保全協力金検収員の募集が始まると思い、取りまとめ役に電話を入れた。「実は、組織の大幅な改編で昨年まで勤務していた大部分の人が採用されないことになり、取りまとめ役の私自身も仕事がなくなった。残念だがそういうことなので申し訳ない」と宣告を受けた。ガーン。強烈なアッパーカットにダウン寸前だ。昨年一緒に検収員の仕事をした板妻さんも楽しみにしていたのに。こりゃあ参ったなと思いつつ、ダメ元で会社の採用担当に直接電話を入れてみることにし

          #31 あわや (富士山御殿場口登山道新五合目:人間交差点 2022) 

          #30 See you again

          9月10日金曜日。令和3年富士登山閉山日だ。今日は午前4時からの勤務だ。大坂さん・中畑さんの二人をピックアップして五合目に向かう。「今日が最後だね」「あっ という間の2ヶ月だったね」などと話しながら五合目に向かったが、いつもよりややトークダウンした様子。わずか2ヶ月の勤務ながらチームメンバーの取り組む心意気を感じた。東の空の朝焼けも昨日までよりいっそう輝いているように見えた。 夏山登山最終日が金曜日となり、登山者は早朝からやや多いような気がした。7時前に大石茶屋の従業員が登

          #29 ひとりじゃないって

           午後4時過ぎ、ひとりのご婦人が鳥居の前にやってきた。そして、鳥居から続く登山道の先を心配そうに見上げている。 「どうかされましたか?」と中畑さんが声をかけた。  「主人が一人で富士宮登山道を登り、御殿場登山道を下山して夕方に帰ると言ってましたので迎えに来ました」「連絡はありましたか?」「2時過ぎに下山を開始したと連絡がありました」「じゃあ大丈夫でしょう。普通の人なら3時間半くらいで帰ってきますよ。5時から6時ころには到着するでしょう」と説明すると「じゃあ車で待ってます」と

          #29 ひとりじゃないって

          #28 パワースポット

           富士山登山者から、「富士山世界遺産保全協力金」をお預かりする仕事は、早朝4時からお昼までの早番とお昼から午後9時までの遅番がある。標高1400mの御殿場口新五合目の勤務は、早番・遅番のそれぞれに自然環境が与えてくれる楽しみがある。 清少納言の「枕草子」の趣だ。開山当初の五合目の早朝は寒く春の様相だ。   「春はあけぼの ようよう白くなりゆく やまぎはすこしあかりて 紫立ちたる雲の細くたなびきたる」ところに、一筋のご来光。手を併せて今日一日の無事を願う。振り返れば、ご来光を受

          #28 パワースポット