#1 はじめに(富士山御殿場口登山道新五合目:人間交差点 2021)
2013年(平成25年)7月、富士山の世界遺産登録とともに始まった「富士山世界遺産保全協力金」は、五合目を訪れる登山者・観光客のみなさんに、登山道の整備・手洗いの改善等の趣旨を説明して、より多くのみなさんに賛同していただき協力をお願いする募金形式だ。募金の協力をお願いするのは、静岡県から委託を受けた会社が雇用する私達検収員だ。
御殿場口登山道の登山者数は、毎年1万3千人前後で推移している。静岡県側3登山道の中で、例年登山者が最も少ない登山道だ。アクセスは、JR御殿場駅から富士急行の定期登山バスが運行されている。自家用車なら、国道248号線御殿場市内の「ぐみ沢丸田」交差点を東京方向から来た場合は右折、沼津方向から来た場合は左折して、富士スカイライン(県道23号線)に入れば一本道で間違うことはない。20分ほど走れば2Km先・1Km先・500m先・200m先, そして23号線唯一のトンネルの手前に大きな標識が五合目の方向を示してくれる。ここを右折、1500mほど走れば、第3駐車場・第2駐車場・第1駐車場に到着する。夏山シーズンでも、自家用車の通行規制もなく駐車場まで直行できる。しかも、駐車は無料だ。アクセスは一番良いのに、登山者が少ないのはその位置にある。他の登山道入口は、標高2000m以上の地点にあるのに対し、御殿場登山道新五合目の標高は1400mでしかない。富士宮登山道五合目は標高2400mだ。なんと標高差が1000mもある。
新五合目鳥居をくぐり、15分ほどの大石茶屋を過ぎると、火山灰の登山道だ。次郎坊まで70分、さらに半蔵坊の山小屋までまで140分時間余り。この間、手洗いはおろか身を護る木立・岩塊など何もない。雨風が身体に直撃する。このため十分な装備と体力、いささかの精神力が必要となり、多くの人が安易な他の登山道から山頂を目指すのは合点できる。
「富士山世界遺産保全」に協賛を直接呼びかけ、募金していただいた協力金をお預かりする検収員の仕事場所は、富士公園太郎坊線と御殿場登山道新五合目登山道の交差する鳥居の前だ。メンバーは3人1組。朝4時から13時までの早番、12時から午後9時までの遅番の2交代で、数グループがシフトを組んで、開山中の63日間をカバーする。これから登山をする人、登山を終え下山する人、五合目付近の散策する人、カップル・グループ・家族連れと訪れる人など千差万別だ。これらの人々に「おはようございます」、「こんにちは」、「お疲れさま」と声をかけ、注目していただくことから仕事は始まる。いかに気持ちよく納得して「富士山世界遺産保全」に協力をしていただくか、また御殿場口新五合目周辺を気持ちよく散策・通過していただくか、勝負の第一声だ。
この第一声から、初めてお会いする多くの人と交流が始まる。富士山登山にかける思い、無事下山できた喜び、登頂を断念した悔しい思い、散策に訪れた目的などなど。まさに「人と人の交差点」だ。その中から「心に残った交流」について、思うままに綴ってみた。
2021年10月
みくりや じゅん