#32 ギネスに挑戦
7月13日水曜日、富士山夏山シーズン開幕4日目だ。今日は、朝3時45分からの午前勤務だ。勤務早々五合目の鳥居を囲むようにビデオカメラやらマイク放送施設が配置されてゆく。いったいなにごとが始まるのか? と様子を見ていると、責任者らしい人がやってきた。「今日これから、上田瑠偉選手が4登10時間制覇をかけてギネス記録に挑戦しますのでご協力をお願いします。」という。「えっ、聞いてないよ!」なんて言えない。ギネスに挑戦だもの。「わかりました、で何をすればよいのですか?」と聞くと、「上田選手の休憩する場所を指定して下さい」と要請された。到着予測は6時前にはという。登山バスの始発は9時以降なのでバス停付近を案内をする。するとスタッフが、選手用の腰かけ、飲料水の入ったクーラー、日除けパラソルなどを次々と設置して行く。スポンサーの幟旗「レッド・ブル」も見える。5時25分過ぎ、「ただいまから5時26分丁度をお知らせします、プ・プ・プ・ピ~ン」と時刻放送も始まる。鳥居周辺の緊張感は否が応でも高まってきた。報道関係者も国営放送の他に欧米人らしき数人がカメラの点検に忙しい。
この間、「上田瑠偉ってだれ、どんな人?」とネット検索。長野県佐久長聖高校出身、早稲田大学を卒業したプロ・トレイルランナーということがわかった。今日の挑戦は
富士山の4つの登山道を11時間以内にすべて走破するということがわかった。御殿場口登山道のアベレージは登頂8時間、下山3時間の11時間だからなんという速さだ。
午前5時30分頃、「山頂に到着」という連絡が入った。富士宮登山道を1時間で駆け登ったようだ。「大石茶屋通過」の連絡が入った。富士宮口登山道を出発してからまだ1時間30分だ。スマホを写真モードにして待ち構えていると、一人のランナーがゆっくりとした足取りで鳥居を通過して準備されている休憩所に向かった。「えっ、だれ この人、本人?」 猛烈な勢いで走って来ると予想していたのでしばし呆然。動画を撮影することすら忘れていた。彼は、用意されていた椅子に座ると靴と靴下を履き替え、ドリンクを1~2口飲むと、スタッフに「じゃあ 行きます」と声掛けして鳥居の下を駆け上がっていった。わずか10分程の出来事だった。と同時にサポートスタッフ・報道陣もそそくさと撤収を始めた。資材を積み終えると「お世話になりました。これをどうぞ」と帰っていった。机の上には飲料缶が3本。中央に赤字で「Red ○○」とあった。
上田選手は、4つの登山道すべてを登山・下山し、山頂も併せて一周して、富士宮口五合目の出発点にゴール。記録は9時間55分。もちろん世界記録 ギネス公認だ。
良い子の皆さんはマネをしないでくださいね。