#28 パワースポット
富士山登山者から、「富士山世界遺産保全協力金」をお預かりする仕事は、早朝4時からお昼までの早番とお昼から午後9時までの遅番がある。標高1400mの御殿場口新五合目の勤務は、早番・遅番のそれぞれに自然環境が与えてくれる楽しみがある。
清少納言の「枕草子」の趣だ。開山当初の五合目の早朝は寒く春の様相だ。
「春はあけぼの ようよう白くなりゆく やまぎはすこしあかりて 紫立ちたる雲の細くたなびきたる」ところに、一筋のご来光。手を併せて今日一日の無事を願う。振り返れば、ご来光を受けて山頂から裾野へと山肌が赤く染まる。なんと壮大な景観だろう。
「夏は夜 月の頃はさらなり やみもなほ 蛍の多くとびちがひたる」川のない御殿場口五合目には蛍はいないが、代わりに「無数の 蛾のとびちがひたる」では・・・・・・。
夜9時に風船照明の電源を切ると、あたりは一瞬にして静寂と暗が訪れる。月はなくとも、眼下に御殿場・裾野、遠くは江の島・横浜あたりまで人々の生活が明りを通して見える。自分の「小さなこころ」が洗われるようだ。
雲に囲まれたら何も見えないけれど、雲にも濃い淡いがある。雲が風に吹かれて一瞬ごとに姿を変える。時には、雲と太陽が虹のような彩雲を見せてくれる。見え隠れする富士山が、「人生は無常だ」と教えてくれているように思う。登山者・観光客との交流をとおして、多くの方からもパワーをいただいた。
富士山御殿場口新五合目 鳥居前は、隠れた「パワースポット」かも。