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アジア最大規模の人材育成会議「ATDアジアパシフィックカンファレンス2023」参加レポート

人材育成の国際会議としてよく知られているATDのアジア地域でのカンファレンス「ATD Asia Pacific Conference(ATD-APC)」(開催期間:10/24-26)に4年ぶりに参加してきました。
ATDと言えば本場アメリカでの大会(通称:ICE)が有名ですが、2014年から台湾で開催されているこの大会は、ICEに比べるとセッション数はもちろん多くないものの、その分じっくりと参加するセッションを吟味できる利点があり、また、アジアならではの親近感やエネルギーを直に感じられるICEとはまた違った魅力に溢れた学びの場です。

私自身は2014年から2019年まで毎年欠かさず参加していたのですが、コロナの影響でここ3年は参加できていなかったので、今回は本当に待ちに待った参加でした。久しぶりの参加ということもありましたが、セッションの内容はもちろんのこと、日本から参加されていた皆さんや現地の方々とのネットワーキングを通じて、これまでに勝るとも劣らない非常に濃厚で充実した時間でした。

ここでは大会全体のキーメッセージや印象に残ったセッションのポイント等をいくつかご紹介します。


全体のスケジュール

カンファレンス自体は3日間で、最終日の午後は台湾企業を訪問するcompany visitという企画がありました。(詳細後述)
また、カンファレンスの前後にATDのサーティフィケーションプログラムが開催されていました。

キーノートスピーチ

初日に2つ、最終日に3つ(但し1つはWorldSkillsという組織の紹介だったので実質2つ)のキーノートスピーチがありました。
それぞれ簡単に内容をご紹介します。

キーノートスピーカーの皆さん
キーノートスピーチのタイトル

Facing Forward: Developing A Robust Strategic Workforce Plan in the Evolving World of Work

  • 最初のキーノートということもありコンセプチュアルな話が中心。

  • スキルはcurrency(通貨)、経験は学びの旅へのチケット。そのうえで目的地をどう定めるか、一人ひとりのキャリアパスとビジネス戦略、ケイパビリティ、働く場所の多様化等、様々な環境変化が起きている今こそ、ワークフォース戦略やリーダーシップのあり方を見直すタイミング。

  • そうした中で、シンプルに、大事なことに注力して、テクノロジーを活用して、基本的なことと将来を考えようという極めてシンプルなメッセージでした。

Becoming a Multiplier and Developing a Multiplier Culture

  • 「MULTIPLIER LEADERSHIP」というリーダーの像というか在り方を提案していたセッション。

  • Multipleというのは乗数(掛け算)という意味なので、MULTIPLIERS(知性を能力を増幅させる人)とDIMINISHERS(知性や能力を減退させる人)を比較して、その言動や特徴等を参加者も巻き込みつつ、わかりやすく説明してくれました。

  • また、リーダーが良かれと思って取り組んでいること(以下9つ)がリーダーの意図しない形でメンバーを疲弊させる、という耳の痛い話も。クイックレスポンスや楽観的な考え方等、自分自身もやってしまいがちな行動を周囲の参加者とディスカッションしながら内省する時間もありました。

  • こうした環境ではSafetyとStretchの両方が大事、というのがまとめでした。

1.IDEA FOUNTAIN 2.ALWAS ON 3.RESCUER
4.PACESETTER 5.RAPID RESPONDER 6.OPTIMIST
7.PROTECTOR 8.STRATEGIST 9.PERFECTIONIST

Understanding the Opportunities and Limitations of AI and Data Science in the Workplace

  • ペンシルベニア大のCappelli氏はATDでも常連のスピーカーで今回のテーマはAIと仕事の未来。

  • AIが人の仕事を置き換えるぞ!という予想が数年前からされていたが、まだそこまできてない。意外と人とロボットがうまく連携している。

  • ペンシルベニア大では定期レポートの提出をやめた。みんながChatGPTを使って良いレポートを作成するようになってしまったから。

  • アルゴリズムを疑う。これまでのバイアスがかかったデータをベースに機械学習させてもや同じ結果にしかならない。どのようにモデルを作ったかを確認する。(例えば、昇格者をAIで決めたとして、合否の理由を伝えられるか?)

  • データサイエンティストはパターンを探しているだけで具体的な行動は示してくれないし、AIは本当に必要な答えは出してくれない。

  • Cappelli氏は、2016年にもキーノートスピーカーを務めされていて、その時は、「HRは、BAZZワードやFads(流行)"に惑わされるな。もっと視点を拡げて考えよう」というメッセージを出されていて、今回もテーマは変われども、生成AI等のトレンドに飲み込まれずに、しっかりその特徴や限界を見極めて、スマートに使いこなせ!というメッセージを発信してくれていました。(と理解しました)

Recharge Your Leadership

  • 初日と同じくこれからのリーダーシップを4つの観点で「Recharge(再充電)」するという内容。

  • 我々は日々本当に重要なことに時間を避けていない。(調査によると60%程度)

  • 「何が重要か」は人によって違うので、重要性を定義しよう。

  • その他、いくつかポイントを挙げてくれていましたが、「命令と統制」ではなく「信頼とインスパイア(鼓舞)」という点がやはり一番共感したポイントでした。

その他の印象に残ったセッション

やや個人的な志向に偏ってしまいますが、今の自分の仕事である「ピープルアナリティクス」に関連するセッションを中心にご紹介します。とはいえ、ここ数年、ATDではデータ活用の重要性は色々なセッションで語れていて、HRアナリティクスはグローバルでもやはり注目テーマの一つでした。

Setting up a HR Analytics Function

  • スピーカーはCERTISというシンガポールを拠点としたセキュリティ会社のCHRO(トゥエンテ大のドクター!)の方。

  • データ活用のトレンドや重要性等の全体感の話の後に、HRアナリティクスとは何か、HRアナリティクスの成熟モデル、HRアナリティクスに必要なスキル等紹介。

  • 具体的な分析手法や採用効率の分析事例等の実践的な事例紹介もあり、全体感~具体的事例まで非常にわかりやすく内容でした
    →HRの必要なスキルとしての専門性はもちろんのこと、ビジネス、IT、マーケティング、統計手法の理解等も重要。

  • HRアナリティクスを進める上での留意点として、データや分析ありきではなく、ビジネスニーズからスタートする。

  • データはあくまでも過去。ビジネスニーズに即してどうインサイトを出せるか。(経営に対していい質問をすることが大事、最終的にはダッシュボードを使って、データストーリーをつくる、視覚化のスキルも重要)

  • 効果的にデータを示すためにはダッシュボードは有効。

Unearthing Hidden Gems – How Learning Data Can Inform Talent Insights

  • PETRONASというマレーシアのエネルギー供給の大手国営企業のリーダーシップアカデミーのトップの方。L&Dデータとタレントマネジメントをどうつなぐか、というテーマでした。

  • 次世代リーダー育成プログラムとデータ活用の実例を示して頂き、どんなデータを取るとよいか、そのデータのメトリクスは何か等、かなり具体的な事例紹介でした。

  • データ分析によって”隠れた宝石(有能な人材)”が隠れていることがわかる。

  • データ活用の注意点:
    ①データプライバシー ➁インサイトが正しいかを慎重に。誤った解釈、バイアスがかかっていないか ➂継続性

Navigating with AI- Work Transformation and Talent Strategy

  • マイクロソフト台湾のHRの方のセッションなので楽しみにしていたのですが、残念ながら中国語のみということで、スライドのみの理解でなんとか聞きました。

  • 内容はこれまでMicrosoftの取り組みやAI新サービス(copilot)の紹介が中心でした。

  • ただ、VUCAからBANI(Brittle(もろさ)/anxious(不安)/non-linear(非線形)/incomprehensive(理解不能))へ、というトレンド変化の紹介とそれにどう対応するかが提示されていたのはとてもわかりやすかったです。

  • また、Microsoftがカルチャーとして紹介したことで有名になった「グロースマインドセット」が、「Make a difference」に変わっている(変わろうとしている?)点は興味深かったです。

カンパニーツアー

今回はセッションの他に、最終日の午後にカンパニーツアー(会社訪問)という企画があり、BENQというディスプレイやモニターで有名な台湾企業に訪問させて頂きました。これがまたとても素晴らしい企画、学びの場でした。参加者は総勢20名ほどで、日本人は私含めて3名。
ツアーのアジェンダは以下の通りで、会社紹介に始まり、人材育成やESGの戦略、商品デモをして頂きました。

色々と質問があった中で、「会社がいつくかのフェーズで成長しているので、その時々の風土改革の取り組みについて教えてほしい」という質問を日本から参加された方がしたのですが、入社年次が若い方が多く、「誰かわかる人いる?」みたいな感じでザワザワとなって皆さんが相談されているシーンも。形式的に回答するのではなく、真摯に回答して頂こうという姿勢がありがたく感じられました。
英語が社内公用語ではないとのことでしたが、若いHRメンバー含め、皆さん本当に英語が堪能でかつ、とてもスマートで素敵な方々ばかりでした。

大会全体を通じたキーメッセージ


様々な切り口、様々なテーマのセッションがあったので、まとめること自体なかなか難しいですが、あえてまとめるならば、
・環境変化が進む中でのリーダーシップのあり方の変化
・新たなリーダーシップが企業文化を作り、学びを進化させる
・そして、それを支えるためのテクノロジーとデータ活用が大事
といったところでしょうか。
ちなみに、大会を通じてコロナの影響やそれに関する言及はほぼなく、完全にポストコロナを感じられた大会でした。また日本でホットなテーマである「人的資本経営」「ジョブ型」「女性活躍」といった内容は全くと言っていいほど触れられていませんでした。
(コンテクストが違いますし、課題感の捉え方も異なるので、当たり前と言えば当たり前ですが)

ちなみに今大会のテーマは「Looking Ahead: Champion for A Better World of Work」でした。前を向いてより良い世界を!ってことだと思いますが、私自身、今回の台湾滞在中に色々な方からたくさんのエネルギーをもらいました。
(奇しくも最後のキーノートは、Recharge Your Leadershipというセッションタイトルでした) 

ATD台湾のトップGraceさん、ATDジャパン代表野原さんと

最後に

お伝えしたいことはまだまだたくさんあるのですが、ここではすべてをご紹介はできないのでATDジャパンとして簡単な報告会を実施します。当日は日本から参加された皆さんに、「正直、どうでした?」と率直なお話をお聞きしたいと思っています。ATD-APCについてもっと詳しく話を聞きたい方、ATDのカンファレンスに少しでも興味を持って頂いた方、更には、来年は自分も現地に行ってみたい!と思われた方等、ぜひぜひお気軽にご参加してみてください。

アメリカの大会はちょっと。。。という方は、まさにATD-ICEのいい感じのコンパクト版なので、初めてATDの国際会議に参加される方には超おススメです。
日本ではなかなか体験できないとてもユニークでエキサイティングな体験をぜひ皆さんもいかがでしょうか?
※2024年は10/29~31に開催です。(なんともう日程が決まってます)
 
<ATD-APC報告会>
日時:11月22日(水) 18:00~19:20 @zoom
以下よりお申込みください。

そして、最後に絶対にお伝えしておきたいのは、やはりなんと言っても台湾の皆さんの温かさ。もちろんこうしたカンファレンスの特性として参加者自身がネットワーキングを一つの目的として参加している、という点はあるとは思いますが、そうした点を差っ引いて余りあるほど、毎回、台湾の皆さんが温かく迎えて頂けることに感謝感激です。
特に、このカンファレンスで2014年に知り合って以来毎年、温かく迎えて頂けるAさんには本当に感謝。
今回も新たな友人を招いて頂き、新たなネットワーキングができました。


私以外は皆さん台湾の方。新たなご縁に感謝!

<おまけ>

2019年までは単なる一企業のHRパーソンとして、最新の情報収集やネットワーキングを目的として参加していましたが、コロナ禍で参加できなかった期間にATDの理事を務めさせ頂くことになり、今回は初めてATD日本支部の理事としての参加でした。
自分自身初めて参加した2014年は、それこそ右も左もわからずまま、おまけに英語もおぼつかない状態での参加でしたが、当時の理事の皆さんがカンファレンスの参加前・滞在中・そして帰国後のフォロー等、本当に様々な支援をして頂いたおかげで、カンファレンスを120%楽しむことができ、以降毎年参加するきっかけにもなりました。

今回はこれまでとはある意味逆の立場で(ATD理事として)参加したので、日本から初めて参加される方がATD-APCをより楽しん頂けるような場にするため、可能な限りの情報共有やリフレクションの場の提供等を意識的に取り組みました。結果として、参加された皆さんのお人柄にも大いに助けられ、皆さんからは「また来年も参加したい!」とおっしゃって頂いたので、少しは恩返しができたかなと思えた大会でした。来年行かれる方がいらっしゃればもちろん全力でサポートいたします。
この場を借りて日本から参加された皆さん(Nさん、Mさん、Iさん、Kさん)にお礼申し上げます。
ありがとうございました。
 
最後までお読み頂きありがとうございました。

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