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『仕事美辞』AYANA

『仕事美辞』AYANA

残念ながら、なのか幸いなことに、なのかわからないですが、私は気楽なパートタイマーなので、現在の仕事に対してなにか不満があるとかはまったくない。

不登校の中学年の息子がいる家庭で、夫と交代で出勤する(なので夫の仕事次第で私の出勤日や時間が変わる)という我儘を受け入れてくれる職場なので、文句は何一つない。

それでも。

数年前、適応障害になってからというもの、私のなかの人生の最優先事項は「2度と適

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『センスの哲学』千葉雅也

『センスの哲学』千葉雅也

本書のパワーワード=餃子は音楽

ドゥルーズの「差異と反復」に依拠しながら「センス」という曖昧なものを千葉さん独特の仕方で紐解いていく。

純文学もゴダールも抽象画も、音楽、リズムだと思って楽しめばいい。繰り返されるもののなかから差異と逸脱を見つけて楽しむのだ、と。確かに私自身、映画を研究していたとき、ショットの数や長さ、カメラと対象物との距離、編集の仕方など、ストーリーに引っ張られすぎないよう注

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『市子』戸田彬弘

『市子』戸田彬弘

あ、シチューはご飯と食べる派なんや。と思った序盤。
同棲している恋人からプロポーズされた市子は大粒の涙を目からポロポロと流し、心の底から幸せを噛み締めている。ように見えた。のに。

翌日にはバッグに荷物をつめ、ベランダから逃げ去ってしまう。BGMがわりに流れるニュースの音声から、事前情報を入れていなくても観客はうっすら気がつく。白骨死体が発見されたことと市子の逃亡が無関係ではないことに。

そこか

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『夜明けのすべて』三宅唱

ネタバレを含みます。

男女の恋愛に依らない作品のなんと尊いことか!となりました。

異性でも同性でも、なんでもかんでも恋愛に繋がらないのが現実の人間関係。なのに、ことドラマに関して恋愛というものは上位を占めていて、惚れた腫れただのもう飽きたし(いや、面白いものもたくさんあるんですけれどね)実際そういうことってないし、なんかもっと他にないですか?ってところに登場したこちら。主人公2人は男女ではあり

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『夏物語』川上未映子

『夏物語』川上未映子

川上未映子が好きだ。
まずはヴィジュアルから入った。ボブがとても似合っていて、結婚式のために伸ばした髪の毛を、翌日真似してボブまで切った。
エッセイの『きみは赤ちゃん』は妊娠前だったのに謎に妊婦心理に共感してボロボロ泣き、妊娠してからも出産してからも何度も読んで何度も泣いた。サインだってしてもらった。

が、小説の方は全部読んでいます!というわけではなく、読んだことがあるのは『わたくし率イン歯ー、

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『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリン

『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリン

仕事に行く時はいつも、水筒に熱いお茶を淹れて持っていく。身体を冷やさないために、夏も冬も熱いお茶。その日は蓋の閉め方が甘かったのか、カバンの中であらゆるものがお茶まみれになった。もれなく、この本も。

大慌てでお茶で濡れたハンカチで拭き、家に帰ってから乾いたタオルで拭いた。波打たないように、少し乾いたら重い図鑑の下に置いた。結局波波になった。読みかけだったけれど、そんなこんなで存在を忘れていたこの

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『かがみの孤城』辻村深月

『かがみの孤城』辻村深月

少し前にアニメで映画化されていましたね。
あまり気に留めていなかったのですが、不登校の話と聞いて読み始めました。

うちは息子が不登校なのです。小学校低学年。保育園の頃から行き渋りがひどく、小学校に上がってもそこまで変化はなく。すこーしずつ休む日が増え、冬休みが終わると、とんと行かなくなりました。

なんで?どうして?みんなできてることがどうしてできないの?育て方が悪かった?なんで?頭の中はそれば

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