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ままならないお腹を抱えて、今日も明日も私は生きていく。

水曜日ぐらいからなんかお腹の調子が悪い。
トイレに行くと15分くらいは出られない日が続いている。
夜寝ようとして横になるとお腹がギュルギュルいう音が響いてなかなか寝付けない。
そして朝起きると下腹が重く、水分をとるとトイレに駆け込む羽目になる。
通勤中にもうっすらお腹が痛く、会社につくや否やトイレに向かう。
地味につらい。

元々、高校時代から過敏性腸症候群を患っていて、ストレスがダイレクトに腸に出るタイプだ。

高校に入学してからすぐのテストの日、開始10分で私は違和感を感じた。
手を挙げてトイレに行かせてもらうと、お腹を思いきり壊していた。
その日をきっかけにお腹の不調はずるずる続いた。
とりわけ生理の時期になると、便秘と下痢を繰り返すようになった。
お腹が張ってガスが溜まり授業中におならが出そうでつらい思いをしたし、
食べるとお腹にガスが溜まるから何か食べるのが怖くなり、食事が楽しめなくなった。
お腹のゴボゴボいう音がずっと気になっていたし、友人に悪口を言われているかもしれないと気になって仕方なかった。

辛くて辛くて仕方なかったけれど、勉強を頑張っていい大学へ入れという親の手前、学校を休みたいとも言えず本当に苦しんでいた。
病院でもらう整腸剤やガス止めも効かず、お医者さんにも「ストレスが原因だから受験が終わったら治るよ」と言われる始末であった。
匙を投げられたようなその言葉は、私の心をちっとも軽くしてくれなかった。
いつか治るなんて全く信じられなかった。

……ところが、大学に入ると状況は一転した。
授業のスケジュールにはゆとりがあるし、座席も自由に選べるし好きな時間にトイレに行ける。
『なんて楽なんだろう』
気づいたらお腹の不調は寛解し、人とも不安なく関われるようになっていった。
喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこのことで、私はもともと健康でアクティブで明るい女の子だったかのように自分を認識していった。

しかしこんな安寧の日々は長くは続かなかった。
社会人になるとデスクワークが多いからか、腸のハリがひどくなり胃までも不調が出るようになった。
時々、膨満感で何も口にできなくなったり、胃がドクドク熱くなったり。
ゲップが止まらなくて夜眠れないこともあった。
『次の日、大事な会議なのに』
コントロールできない体を持て余して過ごす夜は、果てしなく長かった。
学生時代と違って責任が増えた分、そのしんどさも倍増した。
いつも心の中で誰かに「自己管理が甘い」と後ろ指を刺されているよう
だった。

そんな日々が続いたある日、親友と食事をした後急激に気分が悪くなり、彼女の目の前で吐いてしまった。

偶然にも、彼女は医学の研究をしている人と一緒に働いている。
腸内環境の研究がどんどん発達しているという話は、学会やいろいろなメディアで耳にすると私に話してくれた。
そんな彼女に教えてもらったのが、「腸内環境を調べる」ということ。
人によって体質は違うから、得意な食べ物と苦手な食べ物があるそう。
腸内環境は「腸内細菌叢」と呼ばれる、いろいろな種類の菌の生態系で構成されている。
そのバランスは食生活や体質によって決まるため、現在の状態を知ることで今後の食生活や健康管理の指針が得られるという。

気になって調べてみると、病院に行かなくても腸内細菌を調べることができるみたいだった。
価格は20,000円ほどで、お給料がすごく多いわけではない私にも手が届く範囲だ。
昨日トイレに駆け込んだあと、もうこれは買うしかないと思い、腸内検査キットをついにネットで購入してしまった。
もう私は徹底的に自分の腸内環境と向き合うことを決めたのだ。


過敏性腸症候群で苦しんでいた高校時代は、こんなサービスがあることも知らなかった。
『ただただ良くなるのを耐えて待つしかない』
『ストレスに負ける自分が弱いんだ』
こんなふうに考えて苦しむ日々だった。

でも今は違う。
自分の状態を調べて、少しでも治るようなアクションを起こすことができる。
コントロールできない自分の体は本当にストレスだけど、せめて知ることができる。
知ったところでコントロールできないかもしれない。
でも、何もわからず苦しむよりも、せめて知れることは大きな救いに思えた。

苦しんでいた高校生の頃の自分は、大学生になって寛解することも、社会人になってからぶり返すことも、そして自分の腸内環境と徹底的に向き合うことを決めたことも、全部全部まったく予想していなかった。
あの頃は先が見えなくて苦しかったけれど、今はもがきながらも少しずつ前に進めているような気がする。
いつかは同じように苦しむ過敏性腸症候群の人を助けるような活動をやってみたいな、と思っている。

ままならないお腹を抱えて、今日も明日も私は生きていく。

《おわり》



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