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いつも心にNever mind cafe

中学生の時、近所にあるNever mind cafeというカフェに、母にたくさん連れて行ってもらった。

白くてナチュラルな壁に、布張りのゆったりとしたソファ。
いろんな素材の布でできたかわいいクッションと観葉植物。
ジリジリ暑い日差しの中、家から坂道を登って涼しいエアコンの効いた店内に入ると、一気に大好きな空間に包まれる。

大柄で無口な髭の旦那さんと、前髪ぱっつんで童顔の可愛らしい奥さんが迎えてくれる。

チキンカチャトラを食べて、食後にはアイスの乗ったブルーベリーワッフルを。
デザートを食べたらお会計を……まだ、早い。

アイスティーとともに、至高の読者タイムの始まりだ。

窓辺には並んだたくさんの文庫本から、一冊手に取る。
吉本ばななさんのキッチン、江國香織さんの「号泣する準備はできていた」、村上春樹さんの「海辺のカフカ」、恩田陸さんの「球形の季節」。

今思えば、そのとき手に取った本たちは、今でも私の血肉となっている。

しばらく高校受験で忙しく、Never mind cafeには行っていなかった。
受験が終わって、さぁこれからたくさん行くぞ〜、と思った矢先。

久々にいくと、奥さんがすまなそうな顔で、3月末で閉めちゃうんですよ…と言った。

受験が終わって、高校生になってもたくさん行くぞ、高校できた彼氏と一緒にデートなんかしちゃったりしてさ、と期待に胸を膨らませていた私はたいそうがっかりした。

最後の日、母と二人で来店した。
もう来れないと思うと、ブルーベリーワッフルの最後のひとくちを口に運ぶのが惜しかった。

そんな時、旦那さんがこう言ってくれた。
「本、全部は持っていけないから、好きなの持っていっていいですよ」

……嬉しい!

思い出の本があれば、私はいつでもここを思い出すだろう。

私が吉本ばななさんの「キッチン」と恩田陸さんの「球形の季節」を。
母が江國香織さんの「号泣する準備はできていた」と「泣かない子供」を。
その時いただいた本は、今でも私の本棚にある。

窓辺に置いてあって日に焼けた感じの紙が、愛おしい。


Never mind cafeには、もう行くことができない。
でも、心の奥深くにはずっとその存在があって、わたしを支え続けてくれる。
素敵なカフェでお茶を飲むたび、大好きな文庫本を開くたび、Never mind cafeで過ごしていたときの気持ちになれるのだ。

あの旦那さんと奥さんは、今でもお元気だろうか。
もしどこかで会えたら、Never mind cafeは今でもわたしの居場所です、と伝えたい。

《おわり》

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