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時評

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記事一覧

時評2023年8月号

時評2023年8月号

再読『窓、その他』その他

 同人誌「外出」九号の特集「内山晶太歌集『窓、その他』座談会」では、同歌集が初版から十年を経て新装版として出たのを機に、同人による読み直しを行っている。その作品の完成度の高さ、透徹した世界に、私自身何度この歌集に打ちのめされたか知れない。それゆえ荘厳で近づきがたい感じもあったのだが、座談会はとても深く踏み込んだ内容で、歌集を通して内山作品の本質に迫っていくのが面白かった

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2023年5月号時評

2023年5月号時評

ヌーなんとか        

  これを書いている今日、日本はWBCで優勝したという。伝聞で書くのは試合の開催地も、野球が何人で行う競技かも知らぬほどだからだ。ヌーなんとかの顔もわからない。しばらく優勝に沸いて騒がしいだろうが、この記事が読まれる五月、ペッパーミルも遠い記憶かもしれない。ブームとはそんなものだ。

 下丸子に越して半年が過ぎた。蒲田に出ることも増え、印象も変わってきた。西口広場に

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2023年6月号時評

2023年6月号時評

魔女の歌 

 魔女になりたい。ここ数年、そんなことばかり考えて暮らしている。理由や日々の「ソロ魔女活」のあれこれは書き切れないが、一つだけ述べると、鍛錬としてタロットを引いている。近頃よく出るのはカップのペイジ、奇抜な服装の少年が、手にしたカップから顔を出す魚と見つめ合う絵柄である。

 川上弘美『わたしの好きな季語』は、静かで鮮やかな一冊だ。季語の持つイメージのふくらみを、俳句と自身のエピソー

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時評2023年3月号

時評2023年3月号

いくつですか?

 昨年末、緊急搬送された。夕方からの強い腹痛が一向に収まらず、薬を飲んでも横になっても痛い。夜中いよいよ耐えられなくなった。運ばれた時は歩行も困難な程で、思い当たるのは日常と化した過度の飲酒の他にない。これが膵炎だろうかと思えば、炎症に「炎」の字が入るのも容易に首肯できるほど痛い。
 検査の結果はアニサキス性小腸閉塞だった。アニサキスが胃を越えて、日々の不摂生でむくんだ小膓に入り

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時評2023年4月号

時評2023年4月号

受け継ぐこと

 
 春先は神経を消耗する。数年前の二月、どうにも憂鬱で睡眠薬を肴に酒を飲んでいた。眠気が来ないので量を徐々に増やしたのだと思う。気がつくと所属していた結社の代表に連絡を入れ、退会を申し出ていた。やめたくなった理由は覚えていない。だがその時の感情の強さだけはよく覚えている。二月三月はこの手の憂鬱がしきりに訪れる。

 退会後、別の結社の歌会に遊びにゆき、二次会の席だったか友人たちと

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時評2023年2月号

時評2023年2月号

抒情ではないが、だがいい

               滝本賢太郎

 

 自死に関する本を二冊続けて読んでいた。一つは佐藤清彦『にっぽん心中考』。情死大国日本の心中の事例を細かに紹介する作だ。もう一つは保阪正康『死なう団事件』。原理主義的に過激化した新宗教「死のう団」こと日蓮会青年部の盛衰を描く。内部の裏切りや警察の弾圧の下、日蓮が強調した不惜身命を、彼らは死こそ真の信仰なりと解釈するに到る

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時評2023年1月号

時評2023年1月号

水銀と水飴
 
 九月のはじめ、下丸子へ越して来た。多摩川に近い小さな町で、揚げ物を食わせる店がいやに多い。引っ越しの翌日、最寄りの図書館を訪ねた。特に目当ての本もなく棚を眺めていたとき、道場親信『下丸子文化集団とその時代』という本を見つけた。
 この町は五十年代、労働者運動の中心地だったという。ここで言う運動とは、レッドパージに対する抵抗闘争に限らず、労働者たちが詩を書き、同人誌としてまとめる文

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時評2022年12月号

時評2022年12月号

 令和三年に亡くなった小林峯夫さんのフォーラムがあり郡上市へ行った。フォーラム報告で書ききれなかった作品紹介を中心に改めて紹介したいと思う。

  ほどほどに見るべきは見ついつまでもしがみつく気は いくらかはあ(『五六川』)
  小林くーん歌できたかい送りなさい深夜の電話は章一郎先生(『途上』)
  まっすぐに己見つめて歌にする楽しさ苦悩を教えたまいき

 作品評の時間より。
 一首目、四句目まで

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時評2022年6月号

ひっくりかえす時

 友人の鶴田伊津さんとZoomで長いおしゃべりをした。お互いに高校生の一人娘を持つ育児友達でもある。
「今はいろいろな常識がひっくりかえっているから」「今まで〈相聞〉だとか〈母の愛〉と読まれていた短歌を、ほんとうにそうですか、と読み直す時期が来ていると思う」
 彼女の言葉にハッとした。その通りだ。

・子をもてば女にあればひとりだけ軽くされたるけふのお会計
         

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時評2022年7月号

時評2022年7月号

沖縄と短歌  2022年5月15日、沖縄返還から五十年経過した。それをテレビで見て「ああ今日が」と知る。ただ聞き流してばかりではいけないと思い、歌壇5月号「沖縄と短歌」(沖縄復帰五十年)の特集を読んでいる。あらためて社会詠、時事詠をエンドユーザー(読者)として読むことの難しさを思っている。
 総論で返還の前後から現在まで社会・歴史的な背景、対象を沖縄在住の作者の歌集、雑誌より採取。返還当時に作られ

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時評2022年8月号

時評2022年8月号

 新聞掲載であった子育て漫画「毎日かあさん」の娘さんのブログで告白があった。自分のことを作品にされるのが苦痛であった。学校で皆が自分のことを知っている恐怖。やめて欲しいと訴えても聞き入れてくれなかった。など辛い心境を書いた。(現在は非公開のようだ)面白い、可愛い登場人物と思って気楽に見ていたものが、傷つける結果になっていたことに驚いた。これを受けてSNSで育児日記を公開することの危うさも言われた。

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時評2022年5月号

ナラティブを考える

・幾たびもその名を改められながら大いなる泊(とまり)春にしづかなり
    梶原さい子『ナラティブ』

「ナラティブ」とは臨床心理学の立場から発達した概念で「物語」を表す。同じ「物語」を表す「ストーリー」との違いは、ストーリーが主人公を中心とした起承転結のある物語なのに対して、ナラティブとは語り手の視点から出た現在進行形の物語なのだという。

掲出歌はシベリア抑留の経験を持つ

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時評2022年4月号

携えていく一首
 「歌壇」三月号で連載終了となった「平成に逝きし歌びとたち」の、最終回で取り上げられていた歌人は橋本喜典さんだった。三枝浩樹さんによる歌人論と三〇首選は、よく知っているつもりの橋本編集人の歌人としての足跡を明るく照らし、なんだかくすぐったいような嬉しさで読んだ。
 この記事で初めて橋本喜典に触れた若い読者もいるだろう。語られる場のあるありがたさを感じる。

 過去を生きた歌人の作品

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時評2022年3月号

歌にひかりを当てること「塔」二〇二二年一月号の特集「みんなで短歌かるた」が面白かった。十人の執筆者がそれぞれ一行分五文字ずつ担当し、頭の一文字がその音である歌を選歌している。紹介されているのはどれもいい歌ばかりで、しかし例えば「現代秀歌五十首」として選ぶかと言えば上がってこない歌だと思う。最初の一文字の「音」から選ばれるという切り口が新たな佳作を発掘しているように思った。

 いわゆる「名歌」と言

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