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唯識三十頌 〜伝統と文化の継承〜

九條です。

ウチの宗派である南都六宗のひとつ法相宗ほっそうしゅうの根本聖典とされる経典群の中に『唯識三十頌(ゆいしきさんじゅうじゅ)』という経典があります。これは、ある意味門外不出(他の宗派では読まない)経典です。私は御仏前でよく唱えます。

この『唯識三十頌』は、インド僧の世親(ヴァスバンドゥ)が作成し、唐の玄奘三蔵(三蔵法師)が漢訳しました。日本には飛鳥時代(大化改新の頃)に法相宗の教えとともに伝わりました。

内容は五文字四句(すなわち20文字)を一頌とし、三十頌六百文字から成ります。『般若心経』よりも少し長いくらいの経典ですね。ゆっくりと読んでも10分足らずで読み終わります。

『般若心経』は皆さまもよくご存知で耳にされる機会も多いかと思いますが『唯識三十頌』は、おそらく(法相宗の信者以外は)ほとんどお聞きになったことがないと思います(門外不出ですから)。

また、その意味も非常に難解なもので、たとえこの『唯識三十頌』の文章を読み下せたとしても、その意味は唯識思想の基礎的な知識なしには到底理解不可能なものです。

さて、この『唯識三十頌』は漢文ですが、現在の漢字の読みとはかなり異なった(現在の日本語にはないような)読み方をします。ですから知識のない人は、『唯識三十頌』の漢文の経典を見て同時に実際に唱えている人の声を耳にしても、わけが分からないと思います。

それは、おそらく法相宗が日本に伝わった飛鳥時代(約1400年前)の漢字の読みの「音」が、かなりの部分で残存しているからだろうと思われます。

このように、たとえ文字資料が残っていても読み方が現在とは大きく異なるような、ある意味「無形」の文化は、人から人へと大切に継承されてきたものだと思います。

そして、それはこれからも大切に未来へと伝えて行かなければならない文化だと思います。

『唯識三十頌』の独特の(ちょっと不思議な)読み方には、遥か古代(飛鳥時代)の息吹を感じます。^_^


【参考資料】
◎『岩波仏教辞典』岩波書店 1989年
◎結城令聞『唯識三十頌』(仏典講座19)法蔵館 2001年


©2025 九條正博(Masahiro Kujoh)
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