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没男のショートコント

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#ショートショート

没男のショートコント⑨【「私」小説】

没男のショートコント⑨【「私」小説】

 この春、僕は大学受験に失敗した。4月からピカピカの浪人生だ。言われるほど凹んでない。なにせ、予備校のクラスにはいい匂いを放つ大人びた女の子がウヨウヨしている。

 そう、僕は男子校出身で、ピカッピカのドウテイだった。つまり、僕の中の「女子」は中学3年生で止まっていた。ということは、僕の中の女子と浪人女子は少なくとも3年の隔たりがある。

 僕が1年浪人して学んだことは「女子の3年はデカい」。以上

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没男のショートコント⑧【また逢う日まで】

没男のショートコント⑧【また逢う日まで】

 ある夏、息子が彼女を捕まえてきた。彼女は立派な角をしたカブトムシで、虫カゴの中でじっとしていた。

 私の中の彼女は20歳、学生時代の姿で止まっていた。私たちは若いなりに深く愛し合っていたし、なんなら死ぬまで一緒にいるつもりでいた。熱に浮かされていた。当時は。

 彼女は車に轢かれて死んだ。子どもを庇って吹っ飛ばされた。彼女らしいと思った。誰もが彼女を英雄視した。

 私は助かった子どもの手前、

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没男のショートコント⑦【カスタマーハラスメントハラスメント】

没男のショートコント⑦【カスタマーハラスメントハラスメント】

 2024年夏の未明、エセ関西某所の牛丼屋で。

 男はいつものように店員を怒鳴りつけると、牛丼大盛り微妙に汁だく卵乗せに薄めの味噌汁を注文した。白い開襟シャツに金の鎖のネックレスがいやらしく輝いている。

 この男こそカスタマーハラスメントのショウ。お客様でなくても自分は神様だと信じているどうかしちゃってる奴である。

 バイトの男子大学生が震えた手で味噌汁をよそっている。もちろん、「薄めってど

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没男のショートコント⑥【幸福なガソダム】

没男のショートコント⑥【幸福なガソダム】

 きょうも機動戦士ガソダムは道端に立ち、どこか寂しげな様子で地区の平和を見守っていました。機動戦士とは言っても、このガソダムはただの鉄でできていて、背丈は田舎のバス停ぐらいしかなく、アフロ・レイも乗っていません。

 だから、ガソダムはずっとこの道端で、田んぼと森を背に仁王立ちしていたのでした。ジモン軍の侵攻に目を光らせながら。

 ガソダムは自分が生まれたときのことを今でも覚えています。

「こ

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没男のショートコント⑤【人間の尊厳】

没男のショートコント⑤【人間の尊厳】

扉を前に苦悶するすべての同志へーーー

 超エリート新入社員のチェリーボーイYは1時間後、これまでの人生で最も重要なランチを控えていた。かねてから好意を寄せていた取引先の同年代の女と、初めてサシで食事をする機会を得たのだ

 しかし、Yはこの日、受難の時を迎えた。

 Yは緊張からか強烈な便意に襲われたのだ。個室は全て埋まっている。開くことのない扉は無慈悲の謂である。人間の尊厳を揺さぶる、冷たい板

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没男のショートコント④【反-新人賞】

没男のショートコント④【反-新人賞】

 小説家になりたければ、新人賞を獲ればいい。中学校あたりで配布している職業紹介の冊子にも、同じことが書いてある。パティシエになるのと変わらない雰囲気で。

 パティシエは悪くない。新人賞という制度が悪い。人生を棒に振る人間もいる。出版社への持ち込みという手もあるが、近頃原稿ではなく爆弾を持っていく輩が出てきたので、狭き門が閉じた。

 ある出版社は年に一度、登竜門となる新人賞を主催していた。書いて

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没男のショートコント③【ザ・ベスト・オブ・イレバ】

没男のショートコント③【ザ・ベスト・オブ・イレバ】

 ある爺さんが、とんでもない入れ歯をつけてたんだ。ほら見ろよ、コレ。ほら、これ。入れ歯だろ? 普通の。でも、とにかくすげぇ入れ歯なんだよ。

 ここに普通の入れ歯がある。俺の親父の入れ歯だ。さっきの入れ歯とは見分けがつかないだろ? いや、親父の方はちっと汚ねぇか。

 ものは試しだ。トンカチを持ってきた。ガンとやれば、親父の歯は粉っごな。すげぇ入れ歯は? ガンガンガンガン‥傷ひとつつかない。

 

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没男のショートコント②【世直し侍2】

没男のショートコント②【世直し侍2】

 みなさんいかがお過ごしでしょうかー、S市ほか周辺3市町村にお届けしておりますコミュニティーFM‥47.8MHz‥ハイパーFMです!

 本日この時間は、毎週恒例の超子どもたち応援企画「はばたけハイパー子どもたち!」

ふゅーーー!!パチパチ!!

を生放送で、お送りします。

ゲストはなんと!!
本年度青少年読書感想文コンクールで本市どころか本県代表に選ばれました、ハイパー中学生‥S中学校3年の

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没男のショートコント①【神の殉教】

没男のショートコント①【神の殉教】

 人は私を神と呼んだ。人といってもこの宗教施設で共同生活を送った100人に限る。つまり現生の神だ。彼らは私が指示したわけでもないのに、滝に打たれたり瞑想したり、仏典を暗誦したりと修行に精を出していた。

 生活はフルオートで進んだ。金は信者から入った。信者は調理班や医事班、農業班などを組織し専門性を発揮した。施設は一つの村だった。

 神である私は何をしたか。何もしていない。自室にこもり、テレビを

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