卵を落として割ってしまった日
あっと思った時にはすでに手遅れで
地上に激突する2秒前
割れてしまう1秒前
なすすべもなかったその瞬間
目だけはそれをしっかりと捉えていたが
意識だけは認識できずに
2秒前の世界に置いてけぼり
僕の手から溢れ落ちた卵の結末は決定的だった
視線の先で卵はひどくゆっくり
床に落ちて行く様に思えた
床にあたり衝撃により跳ね返るわけもなく
卵の殻に無数のヒビが入っていく
凹んでいく
形が崩れていく
割れた中から溢れだす液体
見える球体
黄色い悲しみ
割れる音が耳に届いた
白く脆い殻は割れて砕けて溢れて
飛び散っていった
先までの美しい形はどこにも見当たらない
内包物を守っていたであろう形には
もはやなんの意味もなくなり悲しき残骸となって
僕の足元に広がっている
壊れてしまった入れ物の中から
溢れた透明な液体と黄色い球体を
慌てて掬っても元には戻らない
泣いたって叫んだってやり直せるわけもなく
指の隙間から垂れていく無力感だけが
手のひらいっぱいに感じとれた
後悔したって何かが変わるわけでもない
目の前の光景だけが真実であり
現実であり事実なのだと認めるしかない
ハンプティーダンプティー
割れた卵にあやまったって
許してくれるわけでもない
慰めてくれるわけでもない
二度と同じ誤ちを犯さない為にも
自分の行いを見つめ直すのもまた自分でしかない
割れた卵が教えてくれた僕の未熟さ
落とした事により産み落とされた痛みの教訓
大人になる為の糧として僕は今日と言うこの日、
卵を落として割ってしまったと
言う事実を忘れてはいけない