この都会(まち)で独り僕は 生きてきたよ「寂しかぁないさ」~読書note-14(2023年5月)~
5月最後の日曜、浜田省吾の35年前の伝説の「渚園」(静岡県浜名湖畔)での野外ライブ映像を、上映している映画館の中で足利市から一番近いMOVIX伊勢崎へ観に行った。浜省好きの友人から、5月上旬に「やってるよ」と教えられていたが、今は全く浜省聴かなくなったし、元々そんな熱狂的なファンではなかったし…なんて思ってたら、公開期間最後の日曜になってしまった。
友人は1988年8月20日のそのライブに参戦していたらしいが、自分は当時大学2年、山岳同好会の男子合宿で、同じ静岡県でも渚園よりだいぶ北東にある南アルプスへ9泊10日で登りに行っていた頃だ。でも、この翌年発売された、渚園でのライブ映像を中心に編集されたミュージックビデオ(VHS)を購入し、その後数年間、テープが擦り切れるほど見まくった。
オープニングは正にそのビデオ同様「A PLACE IN THE SUN」で始まり、続いて浜省の代名詞「路地裏の少年」。徐々に上がる大きな白いフラッグ、ジーンズに白ジャケットで指を鳴らしながら歌うグラサン&バンダナのお馴染みの浜省、もう一気にあの頃にタイムスリップしてしまった。あぁ、間違いなく、恋に仕事に人生そのものに藻搔いていた、20代前半の自分を励まし続けたのは、浜省だったと。
そして、ライブの最後は「ラスト・ダンス」、この曲聴いたの恐らく30数年ぶりかもしれない。浜省自体聴かなくなったし、スマホにも「J.BOY」とか有名どころしか入れてないし。でも、昔物凄く好きな曲だったことを思い出したのと、歌詞が何か自分の今の状況と重なってしまって、涙、涙… ホント、浜省って別れの曲が良いよね。
本でも、今年1月に20数年ぶりに村上春樹を読んで、自分がかつてハルキストだったことを思い出したけど、今度、20代の頃読んでた本を読み直してみようかな。
1.おいしくて泣くとき / 森沢明夫(著)
今年のGWは特に予定も立てず、いつもの近くの河原やちょっと足を延ばした湖畔とかで、選挙で疲れ切った心と体を癒してくれる本を読みまくりたいと思っていた。3月に読んだ「虹の岬の喫茶店」ですっかり著者のファンになったので、きっとこの作品も心がほっこりするのかなぁと期待して購入。
無料で「こども飯」を提供する大衆食堂「かざま食堂」のオーナーの息子・心也が主人公の話と、同様に「子ども食堂」を提供する「カフェレストラン・ミナミ」のマスターの妻・ゆり子が主人公の話、この二つの物語が同時進行していく。
昨年読んだ「月の満ち欠け」(佐藤正午)や「花の鎖」(湊かなえ)の記憶が残っているので、別々の話がいずれは繋がるのだろうと推測しながら読み進める。案の定だが、伏線回収大好きマン、時を繋ぐ話大好きマンの自分にとっては、たまらない展開だった。
奇蹟って物語の中でしか起こらないとは分かってはいるけど、こんなことが実際に起こってほしいなぁと願わずにはいられない。特に、「子ども食堂」のような弱者に寄り添う活動をしている人々、それを利用する弱い立場の人々の人生においては。もちろん吾身にも奇蹟が起きてほしいけど。
2.音楽は自由にする / 坂本龍一(著)
教授への思いは以前このnoteでも書いたが、3月末の逝去を受けて、2009年に出された教授の本格的自伝の文庫本が本屋で平積みされていたので迷わず購入。表紙の手書きの「musik macht frei」(表題のドイツ語訳)の文字と楽譜がカッコイイ。
教授の最初の音楽・ピアノとの出会いが、中々面白かった。お母様が非常に進歩的な方だったようで、彼女が選んだ幼稚園では、「ピアノの時間」というのがあり、毎週みんな順番に弾かされたと。そして、何と作曲もやらされたそうだ。ウサギの世話をした時の気持ちを歌にせよと。4、5歳の幼稚園児が歌詞とメロディーを考える、凄い体験だなぁと。
バリバリの学生運動の章などを読むと、晩年の左派的な活動をしている姿こそが彼本来の姿なのだと納得する。そして、達郎さんや細野さん、ユキヒロさんとの出会い、YMO時代の章が自分としては一番面白かった。YMO結成前のスタジオミュージシャン時代、達郎さんが教授とはウマが合い、毎日のように会って話をしていた、と聞いたことがあったが、ホントなのだろう。
あと、YMO時代からマネージャーをずっとしてきた生田さんが亡くなった時の思いを次のように語る。
教授って、ホント、繊細だったんだなぁと。何とも哲学的で詩的で素敵な文章だよね。
3.博士の愛した数式 / 小川洋子(著)
ちょうど本屋大賞の発表の時期で、本屋で過去の受賞作と並んでこの第1回受賞作が平積みされていて、以前からこの映画にもなったベストセラーの存在は知っていたが、今まで読む機会がなかった。しかし、1月に読んだ「ことり」が凄く良かったので、同じ世界観のような気がして購入。
交通事故に遭い脳に障害が残り、80分しか記憶が持たない博士(元数学博士)と、10年を超える家政婦キャリアのあるシングルマザーの私と、阪神タイガース好きの10歳の息子√(ルート)との、ぎこちなくも温かい驚きと喜びの日々が綴られる。
まさに「ことり」同様の坦々とした日常の物語だった。テーマが小鳥の世話から、博士が発する数字、数式に変わっただけだ。素数、階乗、友愛数、完全数、そして難解な数式と、文系の自分には苦手なものが次々と出てくる。しかし、数学レベルが同程度!?の主人公の「私」にも理解できるよう、博士が説明してくれるし、時には「私」も一生懸命に自分で解いてみたりするので、読み進める手が止まることはない。
先月読んだ「クスノキの番人」でも認知症が一つのテーマだったが、物忘れが激しくなってくることへの恐怖を凄く身近に感じるようになった。毎日、そんな傾向のある父親と一緒に仕事をしているからか。つい、「それさっき言ったでしょ?」とか強く当たってしまう。いずれ自分も歩む道なのに。「私」やルートが博士と接したように出来ればいいのだが。
博士がルートと初めて会った時、「どんな数字でも嫌がらず自分の中にかくまってやる、実に寛大な記号だ」と褒めたように。そして、例え記憶が薄らいでも、素数の美しさや江夏の凄さを語れる博士のような人でありたい。
4.少年と犬 / 馳星周(著)
3年前に直木賞受賞した時に読みたいと思ったが、ようやく文庫本が出たので購入。自分は生まれてこの方、犬、いや動物というものを飼ったことがない。お隣さんが犬を飼っていて、毎日散歩に出かけている姿を見ていると、あぁ毎日必ず否が応でも散歩しなければならないので痩せるかなぁと思ったりもするが、ずぼらな自分が犬の世話など毎日必ず出来るのかと思い直し、やっぱ無理だねと。
多聞という名前(埋め込まれたマイクロチップの情報)の一匹の犬が、南へ西へと渡り歩きながら、傷つき悩み、惑う人々に寄り添った7つの物語。「男と犬」「泥棒と犬」「夫婦と犬」「少女と犬」「娼婦と犬」「老人と犬」「少年と犬」の7章から成る。東日本大震災の際に岩手県釜石市で被災した犬の多聞が、仙台→新潟→富山→福井→滋賀→島根→熊本へと彷徨い歩く。いや、ある目的を持って熊本を目指す。
その道中で、獣と闘って傷を負い、腹を空かせた状態の多聞を、男や泥棒や夫婦や少女や娼婦や老人や少年(その両親)が介抱し、数日共に過ごす。皆傷付いていたり、悩みを抱え苦しんでいる人々なのだが、多聞が彼らに寄り添い、力強い意志を感じる目や立ち姿を見せることで、彼らが一歩前に進む勇気を与える。
そして、ラストは壮大な奇蹟が明かされ、犬を飼ったことのない自分でさえも涙が止まらなかった。解説の北方謙三さんも、「犬が、いや動物というものが持つ力を、私はなんとなくだが信じている。」と仰っている。犬と人間が約1万5000年前から築いてきた関係だからこそ、説得力があり信じたくなる話だなぁと。やっぱ、犬飼いたい。
5.ザ・ロイヤルファミリー / 早見和真(著)
犬の次は馬!?ってか。本屋でこの「華麗なる一族」を彷彿するかの表紙と作家・今野敏さんの「2回目に読んだときは、途中からずっと泣きっぱなしだった。」との帯が目に入ったのと、とある地元の先輩が馬主(本書によると、正確には「ばぬし」ではなく「うまぬし」と読むらしい)になったとの話を思い出し、思わず購入。
尊敬する税理士の父と働くことを目標に同じ道を歩んだ栗須栄治(通称:クリス)、しかし、その父親を亡くしてしまい、約2年間立ち直れないでいたところ、ひょんなことから、人材派遣会社「ロイヤルヒューマン」のワンマン社長・山王耕造の秘書として働くことになる。
馬主一家の波瀾万丈な20年間の物語がクリスの丁寧な言葉で綴られる。第1部が「希望」と題して、「一月」から「十二月」の12章から成る、文字通り「ロイヤルホープ」という馬と出会い、有馬記念に挑戦するまでを描いた物語。第2部「家族」は、「春」から「冬」の4章から成り、「ロイヤルホープ」の子どもである「ロイヤルファミリー」が、またもや有馬記念に挑戦するまでを描いた物語。
自分はギャンブルとしての競馬をやったことがないが、競馬が人々を熱狂させるものだという認識はある。馬券を買う市井の人々だけでなく、本書では馬主はもちろんその家族、そして調教師、騎手、生産農場の方々等々、多くの人々を熱くさせる様子が描かれるのだが、それがクリスの丁寧な言葉で綴られるので落ち着いて読み進められる。でも、なぜか涙がこぼれるのだ。
そして、レースの場面はもちろんクリスも興奮するので、手に汗握る描写になるのだが、解説の今野さんも書かれているが、とにかく作者は「ロイヤルホープ」も「ロイヤルファミリー」も、これでもかというほど勝たせてくれない。そこが、馬も家族(人)も「継承」がテーマの物語であるゆえ、良いアクセントになっている。
自分もまさに今、父親から会社を「継承」するところなので、身につまされる部分が多くて心を揺さぶられた。よく、人生では然るべき時に然るべき人と出会うというけど、人ではないがこの本に今出会うって、凄い運命だなぁと。
6.おまえの罪を自白しろ / 真保裕一(著)
久々に著者の作品が本屋で平積みされていたので、目に入り購入。今年の秋に映画化されるらしい。真保作品を読むのは、3年前に大河「麒麟がくる」にハマって、明智光秀が書かれた小説を読みたくなって買った「覇王の番人」以来か。
政治家一族の宇田家を襲った孫娘誘拐事件、政治スキャンダルの渦中にいる代議士・宇田清治郎に突き付けられた犯人の要求は身代金ではなく、「明日夕方5時までに記者会見を開き、おまえの罪を自白しろ」と。会社経営に失敗し、その借金を肩代わりしてくれた父の命令で、嫌々秘書をやらされている次男・晄司が主人公で、先述の「ザ・ロイヤルファミリー」同様、血がものをいう政治家の継承の物語だ。晄司がこの誘拐事件を通して、秘書として成長するだけでなく、政治家としての血に目覚めて行く。
また、身代金の受け渡しも無く、犯人の要求は代議士のホームページに、IPアドレスを辿れぬ匿名化ソフトを使って書き込むという、警察もお手上げの状況の中、昔ながらの聞き込み捜査で解決の糸口を探る、埼玉県警・平尾警部補がもう一人の主人公。5年前、清治郎の談合疑惑を捜査していたが、圧力をかけられ済し崩しに終わった因縁を持っ。
誘拐事件の見せ場である身代金の要求や受け渡しの場面がないため、タイムリミットサスペンスというより、政界スキャンダルを問う政治小説的な側面が強い。ただ、犯人は誰で、何のためにこんなことを、という晄司と平尾の二つの視点で進む謎解きは充分に面白い。犯行動機は、ミステリーによくあるものだったけど。
しかし、総理、官房長官、幹事長をめぐる覇権争いに、真面目な県議の長男・宇田揚一郎、長女の夫で野心家の市議・緒形恒之に、秘書である次男・晄司との清治郎の後継をめぐる家族の争い、ホント、政治の世界ってウンザリするなぁ。やっぱ俺は政治家にはなれないなぁとつくづく思う。
でも、今のようなボランティア活動を始めるきっかけとなったのは、21年前に読んだ著者の「ダイスをころがせ!」なんだよなぁ。衆院選に臨む友人と共に選挙を戦う物語だった。読み直してみるか。
7.長い長い殺人 / 宮部みゆき(著)
10年ほど前、宮部みゆきさんにハマった時、結構網羅したつもりだったが、これは読んでいなかった。本屋で目に留まったので、思わず手に取り購入。いやぁ、面白かった。何せストーリーテラー(物語の語り手)が財布なんだもん。刑事の財布、少年の財布、探偵の財布、死者の財布等…10個の財布が語る話が、それぞれ独立した10個の短編であり、全て合わさって長編を成している。
一つの轢き逃げ事件から、高額の生命保険金を受け取った被害者の妻・森元法子とその不倫相手とされる塚田和彦に疑惑の目が向けられる。その後、塚田の新妻・早苗が他殺死体で発見される。二人の謀議による交換殺人なのか?後半はいわゆる「ロス疑惑」を参考にしたと言われるように、疑惑の二人がメディアに追いかけられるうちに、スターになっていく。
そして、後の代表作「模倣犯」に繋がるような犯人像が浮かび上がって行く。それにしても、それぞれの財布が、いや財布の持ち主が一人でも欠けていたら、この話は成り立たない。財布が語る、という制約の多い状況にもかかわらず、個々の財布の物語が完結していて、その上で読者がそれぞれの物語を繋ぎ合わせて行くことで、事件の全貌が明らかになる。凄い手法だ。
あまりにも面白かったので、すぐにWOWOWで映像化されたドラマを見てしまった。塚田役の谷原章介さんは小説のイメージ通り、こんなハマリ役ないでしょ!!ってくらい、いけ好かない男を見事に演じてる。そして、何よりも早苗役の西田尚美さんの美しさに驚愕してしまった。今は「LIFE」のコントのせいか!?コミカルなイメージもあるので。
8.お探し物は図書室まで / 青山美智子(著)
本屋で平積みされている本の著者名を思わず二度見する。我が妻と名は一緒で姓も一文字違い、俺より先に文壇デビューしてたら流石に凹んだが。まぁ、(俺も妻も)そんなことは絶対ないのと、以前、福井県立図書館の司書さんがまとめた本「100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集」が面白かったので、きっと、司書という仕事は面白い人や話と出会える仕事なのかなぁと思い、購入。
「何をお探し?」
小学校に併設しているコミュニティハウスの一角にある図書室、そこのレファレンス(図書館職員がお客様の疑問や相談を解決するため、参考となる資料を案内するサービス)コーナーにいる司書・小町ゆかり、不愛想だが聞き上手で、悩む人々の背中を、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録(羊毛フェルト)で、後押しする。可愛らしい名前とは裏腹に、「白熊」とか「マシュマロマン」などと形容される大柄な女性だ。実写化するとしたら、メイプル超合金の安藤なつさんかマツコ・デラックスか。
思いもよらない本に勇気づけられるって、結構あるなぁと。そんなつもりで買った訳ではないけど、今の自分の心境に重ね合わさったり、当てはまるなぁと思ったり、自分では思い浮かばぬような考えに胸を突かれたり。だって、上で紹介した「ザ・ロイヤルファミリー」なんて、まさか競走馬の物語と自分の人生を重ねるとは思わなかったもん。
そんな出会いがあるから、自分は本を読み続けるのだ。
9.52ヘルツのクジラたち / 町田そのこ(著)
一昨年の本屋大賞第1位、「文庫化される」との記事を「既に文庫化された」と見間違い、発売日より5日も早く本屋に行って、店員さんを困らせてしまった。発売日の仕事帰り、早速その本屋に寄ったが、困らせた店員さんはいなかった。ごめんなさい。
「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一匹だけのクジラ。何も届かない、何も届けられない。そのためこの世で一番孤独だと言われている。自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され続けた少年が出会い、一筋の光を見出して行く。
今記事冒頭の「おいしくて泣くとき」同様、読むのも辛くなっていく、子どもの虐待の物語。こういう題材が人気を博すのは、それだけ現代社会で頻繁に起こり、人々が問題だと認識しているからであろう。そして、自分を含め、今の世の中の多くの人々が、そんな「52ヘルツのクジラ」たちの声を聞けてない、いや聞こうとしていないのか。
この物語のラストは、決して夢見物語で終わることなく、非常に現実的な落としどころに落ち着いたのがいい。我が家の近くにも、虐待予備軍と思われるうちがある。それは、自分の勝手な思い過ごしかもしれないし、現実はもっと酷い状況だけど他人がどうすることでもないのかもしれない。「52ヘルツのクジラ」の声を聞こうとする気持ちだけは持ち続けたい。
なんと、5月は結局、9冊も読んだ。GW暇だったからね。今年1月から4冊続きだったので、これで月5冊ペースを取り戻したことになる。まぁ、そんなことはどうでもよく、とにかく本を読むことが楽しい一ヶ月だったなぁ。読んだ本全てが愛おしい。ぼっちでも本があれば生きて行けるかなぁ…
冒頭の浜省の渚園ライブでの夕陽沈む「愛のかけひき」は、クイーンの伝説のライブエイドでの「ボヘミアン・ラプソディ」に匹敵する世界の野外ライブ史上最高峰のライブ映像だと思う。まさか、35年後に「この都会(まち)で独り僕は生きてきたよ 『寂しかぁないさ』 あゝ許して心欠けた僕を」に涙するとは思わなかった。
そりゃ、独りは寂しいさ。
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