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「国語のひろば」の振り返り①-なぜ国語の教師が読書会を開くのか?-
こんにちは!
今日は、葛飾区で開催してきた小中学生向け読書イベント「国語のひろば」の、半年間の振り返りを書きます。
(国語のひろばについてはこちらをご覧ください↓)
この記事の目的
-お世話になった先生に恩返しがしたい!-
このイベントを実現できたのは、たくさんの先生達のおかげです。
授業を見学させていただいたり、本やブログを読ませていただいたり…偉大な実践に学ばせていただいたからこそ、このイベントを教育的な根拠をもったものにすることができました。
なので…私がどんな実践をしてどんなことが分かったのか、お世話になった先生達に報告するためにこの記事を書きます。
長くなりそうなので、少しずつ書いていきます。
専門的な内容になりますが、国語や教育、子育てに興味のある方には面白いかもしれません!
この記事の要約
塾の子どもたちを見ていると、国語の勉強が面白くなさそうだ。
むしろ、辛そうだ。小中学生が国語をもっと楽しめる・好き・得意になる学び方を編み出したい
それは文章の内容に興味が持てること(=国語の力の土台になる部分)と読みの方略を身につけること(=土台の上に乗っかる技術の部分)を両立させる学び方である必要がある
「読書会」という学び方なら、それを実現できる
この仮説を確かめるために企画したのが、小中学生とその保護者を対象にした「国語のひろば」というイベントだ
0.まえおき -この記事の前提になること-
今まで、私はこんなふうに教育に関わってきました。
この記事は、この経歴を念頭に置いて読むと読みやすいと思います!
■大学~20代半ば:
・大手個別指導塾、少人数指導塾の講師(小学生~高校生の5教科)
■20代後半:
・公立中学校の教員(国語)
・不登校、引きこもり支援NPOの講師(個別指導。中高生の5教科)
・無料塾の講師(経済的に困難を抱えているご家庭が対象。個別指導。中高生の5教科)
■30代~:
・東京で学習塾を開業
…小学生~高校生の5教科。塾長が直接教える個別指導。
中堅の都立高に進学する生徒が多い。
20年弱の指導経験のうち、ほとんどが個別・少人数指導でした(1:1~1:6)
勉強が苦手な子にも、偏差値が70を超えるような子にも教えてきましたが、勉強の苦手な子と接してきた時間の方が圧倒的に長いです
(中学生が受けるVもぎでいえば偏差値40前半~50半ばくらい)。
1.読書会を企画した動機-「国語の勉強はつまらない」を変えたい-
子どもたちの国語の力を伸ばしてあげたい、国語という教科を楽しめるようになってほしい。
そういう想いを持って、私は読書会を企画しています。
なぜかというと…塾や学校で国語を勉強している子たちを見てると、つまらなそうだからです。
文章の中身には興味が向いてなくて、ただただテストの点を上げるために問題集を解いている。
ぶっちゃけた話、そんなやり方で国語の力がつくのは、元からできる子だけじゃないですか。
彼らは本当に一生懸命勉強しているのに、ほとんど「国語」というものを学べていない…そんな現状が、嫌なんです。
頑張って勉強しているんだから、頑張った分だけ力をつけてあげたいじゃないですか。
今の塾や学校の教え方が不十分なら、それを補えるような教え方を開発したい。そう思ったんです。
「国語のひろば」は、小中学生が国語をもっと楽しめるようになり、好きになり、得意になることを目的としたイベントです。
では、具体的にどんなことをすればその目的を実現できるのか?
この記事では以下の手順で、私の仮説を説明していきます。
①まず、国語の苦手な子が問題を解く時の思考に注目します
②次に、国語の得意な子が問題を解く時の思考に注目します
③両者の違いから、国語が得意になるための一般的な条件を明らかにします
④その条件から、小中学生が国語をもっと楽しめるようになり、好きになり、得意になる方法を提案します
主に、小学校高学年~中学3年生くらいまでの子を想定して書いています。
2.国語の苦手な子と得意な子の違いは、どこにあるのか?
両者の違いについて、私は苦手な子と得意な子がそれぞれ問題を解く時の、思考の仕方の違いに注目しました。
※「国語」といっても範囲が広いので、物語文に絞って考えます。
2-1.国語の苦手な子の思考を分析してみる
たとえば、中学生が国語の問題を解く場合を考えてみます。
問題:「お守りみたいな小さなビニール袋をポケットの上からそっとなでた」時の「私」の心情として、適切なものを選びなさい。
ア 〇〇
イ ××
ウ △△
エ □□
こういう問題は、国語の苦手な子もだいたい正解できます。
私は発問をとおして、「この子は、どういうことを考えて正解の選択肢を選んだのか?」という、思考の流れを観察しました。
すると、こんなことが分かりました。
彼らは頭の中で何となく、お守り-銀木犀の花-夏実との思い出 が結びついて、感覚で「私」の心情を連想していたんです。
「結びつけて」ではなく「結びついて」、がふさわしい感じ。
言語化はできてないけど、ふんわりと連想できている状態なんですね。
だから、何となく正解っぽい選択肢が選べている。
でもその子たちに、
・このビニール袋って、どんな袋だと思う?
(古い?傷がついたりしてる?)
・どんなふうになでたんだと思う?
(優しく?ちょっと力が入ってる?)
・「私」は今どこに立ってるんだと思う?
(廊下の真ん中?すみの方?)
みたいなことを聞くと、答えられないんです。
つまり、場面を立体的にイメージできていない状態なんですね。
だから、似た選択肢が複数あったり、本文の言葉が難しくなったりすると、すぐ正解できなくなってしまう。
彼らの情報源が、文字だけだからです。
2-2.国語の得意な子の思考を分析してみる
一方、国語の得意な子は、誰に言われなくてもこの「イメージしながら読む」という読み方ができています。
だから、上に書いたようなことをがっつりイメージした上で「この選択肢以外ないっしょ」と選んでいるんですね。
根拠がとても明確なんです。
文字(=本文)の情報を立体的なイメージで補っているので、似た選択肢が複数あったり、多少難しい言葉が出てきたりしても、きちんと正解できます。
記述式みたいな、オープンクエスチョンにも答えられる。
・国語の得意な子は、場面を立体的にイメージしながら読んでいるので、本文から得られる情報量が多く、理解の解像度も高い。
・国語の苦手な子はイメージしながら読めていないので、文字で書いてあることしか読み取れない。
だから本文から得られる情報量が少なく、理解の解像度も低い。
=行間が読めない
・本文から得られる情報量の違いが、文章理解の大きな差につながっている
これが、子どもたちを観察して感じたことです。
3.「イメージしながら読める」ようになるためには?
それなら、子どもたちに「イメージしながら読みましょう」と教えればいいだけでは…?
と思いきや、そこには大きなハードルがあります。
どうやってイメージすればいいか分からない、という技術的な問題もありますが、一番の問題は…
ほとんどの小中学生は、そもそも国語の文章を読みたくない。
ここです。ここを乗り越えるのが一番難しいんです。
国語の教科書であれ問題集であれ、小中学生は国語の文章を「興味ない」「自分にとって大した意味はない」と感じてるんですね。
「特に何も感じてない」みたいな表現の方が、合っているかも。
その子の心(=興味関心)と文章との距離が、すごく遠いんです。
定期試験対策をしたことのある塾講師なら感じると思いますが、子どもたちって驚くほど教科書を読んでないんですよね。
距離の遠いものを、教師がいくら「具体的にイメージしながら読みなさい」と言ったって、できないんです。
本気でイメージする気が起きないので。
たとえば私、『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(著:綿野恵太)という本を読んだことがあるんです。
ポリティカルコレクトネスと現代の差別の構造について、アイデンティティとシティズンシップというふたつの視点から考えていく、みたいな本なんですが…
私たち大人でも、この本を「具体的にイメージしながら読みなさい」と言われたら、難しくないですか?
なぜ難しいかというと、言葉が難しいのもそうなんですが、ポリコレとかアイデンティティとか、本の内容そのものが、自分の心…興味から遠く離れているからです。
興味のないものをイメージするには、頭の力がめっちゃ必要になるので、面倒くさいんですよね。
どうして俺が、この本のために、そんなに一生懸命頭を働かせなくちゃならないの?という気持ちになる。
(ちなみに私はこの本すごく面白かったです!)
だから、
「イメージしながら読んでみましょう」という、技術の伝授みたいな学び方じゃ、だめなんです。
理屈から入ると、元から意欲や素質のある子しかついて来られません。
「気がついたら、自然とイメージしながら読んでた」みたいな学び方である必要があるんです。
読むことを楽しむ体験が先にあって、「そうやって読むと面白いよね!実は…」みたいに、後から方略を種明かしするような設計が必要なんです。
このやり方なら、今まで国語や読書の楽しさを感じたことのない子たちも、方略読み(※)の世界に入って来られます。
(※…「イメージしながら読む」という読み方も、方略読みの一つです。)
「読むのが楽しい」というポジティブな体験の中に、読みの技術が習得できる仕掛けを埋め込む。
ここが特に大事だと感じていて…
塾とか受験のための国語って、「技術の習得」に終始してるんですよね。
段落同士の関係とか、情景の読み取り方とか。
でもこれってさっきも書いたとおり、得意な子はどんどん得意になるけど、苦手な子にはあんまり効果がない教え方です。
土台の部分である「本文から得られる情報量の違い」を改善しないまま、その上に技術を積み上げようとしてるからです。
この、
・読解力の土台になる「イメージしながら読む力」を自然と鍛えられて
・その上に乗っかる「読み方の技術」も積み上がっていく
そんな国語の学び方があったら…すごくいいと思いませんか?
・国語の得意な子はイメージしながら読んでるから、行間が読める。
だから得られる情報量が多く、文章の内容を理解しやすい
・国語の苦手な子はイメージしながら読めない。
だから得られる情報量が少なく、文章の内容を理解しづらい
・イメージしながら読むための最大の障壁は、子どもが文章を「読みたい」と感じられていないこと
・既存の学習塾では、「読み方の技術」しか身につけられない
・読解力の土台になる「イメージしながら読む力」を自然と鍛えられて、その上に乗っかる「読み方の技術」も積み上がっていくような国語の学び方があったら…?
4.読書会は「イメージしながら読む」方略の入り口として有効である、という仮説
さんざん長く書いてしまってすみません(^^;
ということで、
「小中学生が国語をもっと楽しめるようになり、好きになり、得意になるためには、どんなことをすればいいのか?」
という問いに対する、私の仮説は以下のとおりです。
①「イメージしながら読めるか」が、読解力のカギ
②そうなるためには、まず国語の文章を「読みたい」と感じさせることが必要
③そのために「読書会」という仕掛けをほどこす
例)本文を講師が解説する、BGMをかけたり、お茶をしながら楽しく読む、感想を交換し合ったり、立てた問いをみんなで解決したり、自分の身に引きつけて考えながら読む
④複数人で読むので、本文から得られる情報量が増える。イメージが広がる
⑤「イメージしながら読むってこういうことかー」と、体感として分かる
⑥講師がそれを読みの方略として言語化して、メタ認知させる(=リフレクションの手がかりを作る)
講師:みんながやってるのは「イメージしながら読む」っていう読み方なんですよ。
子ども:へー、こうやって読むと面白く読めるんだ。
⑦「イメージしながら読む」以外の方略も、少しずつ読書会に入れ込んでいく。
リフレクションも、少しずつ強化していく。
⑧「こうやって読んだら面白かった」というポジティブな読書体験の上に、読みの技術が積みあがっていく
=読むことや話すことを楽しみながら、長期的には受験的な学力も身につく。 国語が好き・得意になっていく。
この仮説を確かめようとしたのが「国語の教科書&過去問読書会」であり、そこから派生した「国語のひろば」なんです。
今のところ②と⑥が少し難しいですが、②については「とりあえず一回参加してもらう」ことで解決できると分かりました。
特にコミュニケーションが好きな子は、読書会を通して「読むこと」が好きになりやすい傾向があります。
⑥については、月1回の読書会×6か月では、言語化してメタ認知するには至りませんでした。
しかし、読書会が好きな子にはかなり読みの力がついてきてるなと感じます。
(国語の点数が上がった、論理だてて話せる・書けるようになった、作文がうまく書けるようになって楽しくなったなど)
「読書会って楽しい。推理小説を読んでるみたい!」のように、かなり芯を食った感想を述べる子も複数いるので、方略をメタ認知できる一歩手前くらいまできている感覚はあります。
この部分に関してはこれから実践を重ねて、もっとブラッシュアップしていきます。
5.次回は「国語のひろば」の具体的な内容について書きます!
読書会の目的と意義を説明するだけで5,000字を超えてしまいました(^^;
私の読書会がどんなものなのか、少しでも伝えることができたなら嬉しいです。
次の記事では、「国語のひろば」で具体的にどんなことをやったのか、どんな反響があったのかについて書こうと思います!
記事を読んで分かりづらいところや質問などがあったら、気軽にコメントしていただけると嬉しいです。
それではまた!
補足:
この記事は、言葉の使い方がかなり粗いです。
たとえば、「技術」という言葉と「方略」という言葉を書き分けていません。厳密に書こうとすると話の焦点がぼやけてしまうし、教育関係者以外読めない記事になってしまうためです。
もし違和感のある文章になってしまっていたらすみません!
気になる点などがあれば、コメントやDMをいただけると嬉しいです!