ＪＷ６３４　いぬなき山

【景行征西編】エピソード5　いぬなき山

第十二代天皇、景行けいこう天皇てんのうの御世みよ。

西暦82年、皇紀こうき742年（景行天皇12）9月。

ここは、周芳国すほう・のくにの宮城森みやきのもり。

地図（宮城森）

景行天皇こと、大足彦忍代別尊おおたらしひこおしろわけ・のみこと（以下、シロ）の一行は、行宮かりみやを設もうけ、しばらく留とどまっていたのであるが・・・。　

筑紫行幸参加者名簿

シロ「待まっているだけでは、埒らちが明あかぬ。少しでも、筑紫ちくし（今の九州）に近付ちかづこうぞ。」　

いっくん「西に進むっちゅうことですか？」　

シロ「その通りじゃ。穴門あなと（今の山口県西部）辺あたりまで進んでも、障さわり無かろう？」　

地図（穴門国へ）

こうして、一行は、歩みを再開した。　

シロ「日ひが暮くれてきたな・・・。今日は、この地に泊とまろうぞ。」　

やぁちゃん「ここが、吉田宿よしだ・じゅくにござりまする。」　

シロ「ん？　泊とまった処ところにも、地名が付いたのか？」　

やぁちゃん「別に、此度こたびの伝承は、地名と関わり合いは有りませぬ。江戸時代に、吉田宿よしだ・じゅくとして栄さかえたのだとか・・・。」　

シロ「宿場町しゅくばまちになったということは、泊とまるに、申もうし分ぶんない地では、あるのじゃな？」　

やぁちゃん「左様さようにございますね。」　

タケ「ところで、二千年後の地名で申もうすと、何処いずこになりまするか？」　

やぁちゃん「山口県下関市しものせきしの吉田よしだにござりまする。」　

地図（吉田宿：山口県下関市吉田）

するとそこに、一人の男が近寄ってきた。　

男「ようこそお出いでくださいました。」　

シロ「ん？　何者なにものじゃ？」　

男「我われは、伊都都比古いつつひこと申もうしまする。『ツツツ』と、お呼びくだされ。」　

たっちゃん「穴門あなとの豪族ごうぞくで、不敬ふけいな発言をした男じゃな？」　

ツツツ「えっ？」　

たっちゃん「エピソード461にて、任那みまなの王こきし、蘇那曷叱知そなかしちこと『ソナカ』殿どのが着到ちゃくとうした折おり、この国の王は、己おのれだけと宣のたもうたそうではないか！　聞きき及およんでおるぞ？！」　

シロ「そうなのか？！」　

ツツツ「なっ！　なにゆえ、それを！？」　

もち「そいはそれは、聞きき捨ずてならん話やじ。」　

ツツツ「い・・・いや、あの・・・その・・・。」　

ヤヌシ「それだけでなく、夜麻登やまとに対抗するとも言っていたなり！」　

ツツツ「あっ！　そっちは、作者オリジナルで・・・。」　

シロ「して、此度こたび、現あらわれたは、如何いかなる仕儀しぎじゃ？」　

ツツツ「作者が、あの場面だけの登場は勿体もったいないと・・・。心を改あらためる機会を与あたえて、くださったのでござる。」　

舟木ふなき「では、此度こたびの件くだりでは、本来、登場せぬのじゃな？」　

ツツツ「左様さよう。されど、せっかく、穴門あなとに、大王おおきみが参まいられたのじゃ。案内あない出来できるとしたら、我われを措おいて、他ほかにござろうか。」　

シロ「気に入らぬが、理ことわりには適かのうておるな。」　

ナッカ「大王おおきみ？　コイツを許ゆるすんすか？」　

シロ「許そうぞ。作者から頂いただいた出会であいじゃ。無下むげにも出来できまい。」　

ツツツ「かたじけのうござりまする。では、姫菖蒲ひめしょうぶの美しい地を案内あない致いたしましょうぞ。」　

姫菖蒲

こうして、一行は、「ツツツ」の案内という、作者オリジナル設定のもと、花が咲く山に向かったのであった。　

やぁちゃん「なんと、美しい・・・。」　

影媛かげひめ「左様さようにござりまするなぁ。」　

ナッカ「それだけじゃないっすよ。姫菖蒲ひめしょうぶを叡覧えいらんする大王おおきみが、カッコいいんすよ！」　

小左おひだり「流石さすがは『ナッカ』様！　目の付け所が、違いますな。」　

ワオン「いやはや、美景びけいなり・・・。」　

シロ「魅入みいられてしまうのう・・・。」　

リトル「うぎゃう！　うぎゃう！」　

シロ「おお！　『リトル』も喜んでおるぞ。」　

ルフィ「キキッ！　キキキッ！」　

やぁちゃん「これ、ルフィ！　花は、食べ物ではありませんよ！」　

真白ましろ「ワンワン！」　

シロ「珍めずらしく、真白ましろが怒おこっておるぞ。」　

ツツツ「赤子あかごとペット同伴とは、恐れ入りもうした。」　

シロ「作者のオリジナル設定が、発動してしもうたのじゃ。」　

ツツツ「おいじなう？」　

とにもかくにも、花の鑑賞は、一日中、続いたようで・・・。　

野見のみ「大王おおきみ？　日が暮れて参りもうした。そろそろ・・・。」　

シロ「うむ。じゃが、このままで良い。」　

野見のみ「さりながら・・・。」　

タケ「大王おおきみ？　『いぬ帰る』ことを忘れられたか？」　

シロ「左様さよう。忘れもうした。」　

やぁちゃん「大王おおきみの御気持ち、痛いたいほど分わかりまする・・・。」　

百足ももたり「こうして、大王おおきみが『いぬ』ことを忘れたゆえ、山は『いぬなき山』と呼ばれるようになったのでござる。」　

おやた「犬鳴山いぬなきやまと書かれるようになり、転訛てんかして、稲城山いなきやまと呼ばれるようになりもうした。」　

えっさん「その後も、景勝地けいしょうちとして、知られるようになったのであらしゃいます。」　

タケ「ちなみに、この山には、二千年後、福徳ふくとく稲荷いなり神社じんじゃが鎮座ちんざしておるぞ。鎮座地は、山口県下関市しものせきしの豊浦町とようらちょう宇賀うかじゃ。」　

地図（福徳稲荷神社）

福徳稲荷神社（鳥居）

福徳稲荷神社（拝殿）

たっちゃん「父上？　此度こたびのことで、社やしろが建ったのですか？」　

タケ「いや、社やしろそのものは、三つの稲荷いなり神社じんじゃを合祀ごうしして、西暦1971年、皇紀こうき2631年（昭和46）に建てられたそうじゃ。」　

ツツツ「あのう・・・。ホントに、帰らないと・・・。暗くらくなって参まいりましたぞ？」　

大王たちは、無事に帰れたのであろうか・・・。

帰れたと思いたい。

つづく