ＪＷ６２３　新羅と筑紫と

【景行即位編】エピソード12　新羅と筑紫と

第十二代天皇、景行けいこう天皇てんのうの御世みよ。

西暦77年、皇紀こうき737年（景行天皇7）のある日。

ここは、纏向日代宮まきむくのひしろ・のみや。

地図（纏向日代宮）

景行天皇こと、大足彦忍代別尊おおたらしひこおしろわけ・のみこと（以下、シロ）は、大連おおむらじや大夫たいふたちが居並いならぶ中、任那みまなを始めとする、加羅から諸国しょこくの豪族ごうぞくたちを問とい質ただしていた。　

人物一覧表（大連、大夫たち）

地図（任那、加羅諸国）

シロ「なにゆえ、新羅しらぎに攻め込んだのじゃ？」　

豪族①「詳くわしい事情じじょうについては、全まったく分わからないニダ。」　

豪族②「左様さよう。『三国史記さんごくしき』の『新羅しらぎ本紀ほんぎ』には、何なにも書かれておらず・・・。」　

豪族③「川や、山を巡めぐる争あらそいだったのではないかと・・・。」　

ちね「なるほど・・・。水や、薪たきぎなどの取とり分ぶんを巡って争ったのかも、しれへんのやな？」　

豪族③「その通りハセヨ。」　

地図（加羅の攻撃）

シロ「例たとえ、そうであったとしても、弓矢ゆみやに及およぶとは、何事なにごとか！」　

任那人みまなびと「されど、エピソード477で紹介された、新羅しらぎによる、赤絹強奪事件あかぎぬごうだつじけん以来、我わが国くにと新羅しらぎの仲が悪いのは、御存知ごぞんじのはず・・・。」　

豪族①「それだけじゃないニダ。新羅しらぎは、様々さまざまな国を滅ほろぼし、領土を広げているニダ。ウリ私たち、加羅から諸国しょこくは、その脅威きょういに怯おびえているハセヨ。」　

豪族②「左様さよう。話し合いが通じる相手ではないニダ。」　

任那人みまなびと「ウリ私たちの王こきし、蘇那曷叱知そなかしちこと『ソナカ』様は、大王おおきみの御力添おちからぞえを望のぞんでおりまする。次つぎこそは・・・。」　

シロ「ならぬっ。戦いくさなど、以もっての外ほかじゃ！　新羅しらぎと諍いさかいを起おこしてはならぬっ。」　

豪族①「されど、秋津洲あきつしまの豪族たちは、ヤマトに与くみしていない国と争っているハセヨ。」　

武日たけひ「たしかに『記紀きき』には、何なにも書かれちょらんが、そういうことは有ったやろうなぁ。」　

オーカ「されど、我われらが土蜘蛛つちぐもと呼ぶ、ヤマトに与くみしていない者たちとの諍いさかいは、あくまで、地方豪族同士の諍いにあらしゃいます。」　

くにお「左様さよう。王を戴いただく国との戦いくさとは、比くらべ物ものにならぬほど、小さな争いじゃ。」　

豪族②「では、ウリたちは、泣なき寝入ねいりするしかないと？」　

シロ「そのようなこと、申もうしては、おらぬ。汝いましらに、何なにか有れば、ヤマトは、必ず助ける。されど、こちらから事ことを起おこすのは、罷まかりならぬ。」　

任那人みまなびと「されど、新羅しらぎは、いずれ、牙きばを向けて参まいりますぞ？」　

豪族③「それだけじゃないニダ。百済くだらも、虎視眈々こしたんたんと狙ねらっているハセヨ。」　

地図（百済）

シロ「分わかっておる。そのためには、まず、筑紫ちくし（今の九州）を何なんとかせねば・・・。」　

カーケ「皆みなも知っての通り、筑紫ちくしの西側は、ヤマトに与くみしてないんだぜ。」　

武日たけひ「じゃがその通り。今のままでは、韓郷からくにに人数にんずうを送るのは、難むずかしいっちゃが。」　

くにお「筑紫ちくしの国々が、新羅しらぎと手を結び、後うしろから、攻め込んで来れば、ヤマトは、挟はさみ討うちとなる。」　

シロ「特とくに、奴国な・こくじゃ。漢かんの国くにと通つうじておるそうではないか・・・。」　

オーカ「福岡県福岡市ふくおかし周辺に有った国と言われております。」　

地図（奴国）

シロ「下手へたに突つつくと、大事おおごとになる。」　

豪族①「そこなんですが・・・。どうして、筑紫ちくしを治おさめてから、韓郷からくにに進出しなかったんですか？」　

豪族②「ウリ私も、そう思うニダ。その方ほうが、治おさめやすいハセヨ。」　

くにお「たしかに・・・。地政学的ちせいがくてきに見れば、当然とうぜんの理ことわりじゃな・・・。」　

シロ「されど『記紀きき』の編者へんしゃも、馬鹿では、無かろう。何なにか、理由わけが有るのでは？」　

くにお「どうしても、そう書かざるを得えなかったと？」　

オーカ「作者は、エピソード436から440に掛かけて紹介された、出雲いずもの併合へいごうが関係しているのではないか・・・と考えているようですなぁ。」　

豪族③「出雲いずも？」　

地図（出雲）

オーカ「出雲いずもは、昔から、韓郷からくにと貿易ぼうえきをおこなっておりましたので、その流れで、加羅から諸国しょこくを出雲いずも連合れんごうに組くみ込こんでいたのかもしれません。もし、そうであれば、出雲併合の際に、加羅諸国が付ついてきたと考えられると・・・。」　

ちね「たしかに・・・。『日本書紀にほんしょき』では、出雲いずも併合へいごうのあとに、任那みまな来朝らいちょうの記事きじが書かれてるなぁ。」　

カーケ「もしかしたら、加羅から諸国しょこくは、出雲人いずもびとが、移民いみんして作った国かもしれないんだぜ。」　

豪族①「逆ぎゃくに、ウリ私たちが、出雲いずもに渡わたった可能性も有るハセヨ。」　

シロ「とにかく、今のままでは、新羅しらぎと事ことを構かまえるわけには、いかぬ。許せ。」　

豪族②「では、筑紫ちくしを併合へいごうすればいいニダ。それで、まるっと、問題解決ハセヨ。」　

任那人みまなびと「ウリ私も、そう思いまする。大王おおきみが、お望のぞみであれば、任那みまなは、舟を支度したくし、海から筑紫ちくしを攻めまするぞ？」　

シロ「そう急せくな。まずは、言こと向むけ和やわしの心こころで、進めて参まいる。」　

豪族③「言こと向むけ和やわし？　どういうことニカ？」　

シロ「筑紫ちくしの国々と話はなし合おうて、ヤマトに加わってもらうのじゃ。」　

任那人みまなびと「そのようなこと能あたうのですか？」　

シロ「何なにを言ゆうておる。任那みまなも、そうして、ヤマトに加わったではないか。任那とヤマトが、戦いくさをしたことは無かろう？」　

任那人みまなびと「た・・・たしかに・・・。」　

オーカ「『記紀きき』の編者へんしゃが、今回の記録を知っていたか、どうかは、定さだかではない。『三国史記さんごくしき』の記録が真実であるか、どうかも定かではない。だが、筑紫ちくしよりも先に、任那みまながヤマトに与くみしたのは、紛まぎれもない事実じじつである。これが、筑紫の問題と、どう関かかわってくるのか・・・という観点で、語ってみた次第しだいである。」　

シロ「ん？　『オーカ』？　何なにを言ゆうておるのじゃ？」　

つづく