JW604 甕襲の犬
【垂仁経綸編】エピソード26 甕襲の犬
第十一代天皇、垂仁天皇の御世。
西暦36年、皇紀696年(垂仁天皇65)。
ここは、纏向珠城宮。
垂仁天皇こと、活目入彦五十狭茅尊(以下、イク)は、大連や大夫たちと共に、語らい合っていた。
イク「新の国が滅びて、十三年・・・。再び、漢の国が、大陸をまとめたって?」
武日「じゃが。劉秀という男が、王様になったみたいっちゃが。」
オーカ「王様ではありません。皇帝にあらしゃいます。」
武日「どっちでも良かっ。」
ニック「さてさて、これが、ヤマトに、何を齎すのか・・・。」
ちね「せやけど、滅んだ国が、再び生まれるやなんて、すごいことやね。」
するとそこに、皇子の五十瓊敷入彦(以下、ニッシー)がやって来た。
ニッシー「父上! みんな! 面白い情報を入手したよ!」
カーケ「面白い? どういうことかね?」
ニッシー「いつの頃の話なのか、それは、よく分からないんだけど、丹波国の桑田邑に、甕襲って男がいたんだ。」
くにお「その男が、何か、やらかしたと?」
ニッシー「実は、その男、犬を飼ってたんだ。」
ちね「犬ぐらい、飼うやろ?」
ニッシー「その犬が、ちょっと特別だったんだよ。」
イク「特別って?」
ニッシー「犬の名前は、足往って言うんだけど、あるとき、山の獣の牟士那を食い殺したんだって。」
武日「牟士那?」
くにお「ニホンアナグマとも、タヌキとも、ハクビシンとも、言われておるな。それが、物の怪になったのであろう。」
武日「そんげな生き物が、おるんやな?」
オーカ「生き物というより、化け物にあらしゃいませんか?」
ニック「どっちでも、ええやろ。」
ちね「ほんで、一件落着っちゅうことですか?」
ニッシー「ここからが、すごい展開なんだよ。なんと、牟士那の腹の中から、八尺瓊の勾玉が出て来たんだ。」
イク「その牟士那は、勾玉を食べてたんだね?」
ニッシー「そうだと思うよ。そして、その勾玉は、石上神宮に有るんだよね。」
くにお「神宮の神宝になっておると?」
ニッシー「うん。僕が、しっかりと管理してるってわけさ!」
ニック「ただの自慢話や、ないかい!」
ニッシー「だってぇぇ。神宝の管理って、すっごく、つまんないんだもん・・・ヽ(`Д´)ノプンプン。」
イク「そんなこと言っちゃダメでしょ。」
するとそこに、一人の男が、やって来た。
男「大王。言挙げに参りました。」
ニッシー「えっ? 誰?」
男「師長国造、阿屋葉にござりまする。」
イク「師長国で、社が建ったんだね?」
阿屋葉「左様にござりまする。つつがなく建ちましたので、言挙げに来た次第にござる。」
ニッシー「えっと・・・師長国って何処なの?」
カーケ「神奈川県の西部になるんだぜ。」
ニック「ほんで、何っちゅう社が建ったんや?」
阿屋葉「その名も、川勾神社にござる。」
イク「師長国の鎮護のため、僕が、阿屋葉に勅を下したんだよ。」
阿屋葉「左様にござりまする。創建の年は、詳らかには分かりませぬが、勅を奉じて、建てたと伝わっておりまする。」
くにお「して、鎮座地は、何処になるのじゃ?」
阿屋葉「神奈川県二宮町の山西にござりまする。」
イク「それじゃあ、阿屋葉。これからも、師長国のこと、よろしくね。」
阿屋葉「かしこまりもうした。」
こうして、川勾神社が創建されたのであった。
そして、あっという間に、十六年の歳月が流れた。
すなわち、西暦52年、皇紀712年(垂仁天皇81)2月1日。
大連を務める、物部の連の大新河こと「ニック」が引退した。
次の大連には、一体、誰が就任するのであろうか?
次回につづく