JW642 力自慢の権現
【景行征西編】エピソード13 力自慢の権現
第十二代天皇、景行天皇の御世。
西暦82年、皇紀742年(景行天皇12)10月。
景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)の一行は、宇奈岐日女神社(大分県由布市湯布院町川上)にて、神事(祭祀のこと)をおこなった。
そして、ここで「ウナ」が、なにやら語りだすのであった。
ウナ「ちなみに、由布院盆地が、かつては湖だったという伝承は、御存知ですかな?」
シロ「湖であったのか?」
いっくん「せやけど、今は、湖やのうて、盆地になってるんやろ? なんで、水が無くなってんねん?」
ウナ「それは、それは、昔のことにござる・・・。」
やぁちゃん「昔話ですか?」
ウナ「ある日、由布岳の神、宇奈岐日女は、力自慢の権現を従え、山の上から、ジッと・・・広大な湖を眺めておりもうした。」
ナッカ「権現って、仏が神になった時に使われる言の葉っすよ? 仏教が伝来してからの言の葉っすよ?」
タケ「中世に生み出された伝承なのであろう・・・。」
ウナ「し・・・して、日女は、権現に向って、こう仰った。『この湖を開けば、底に肥沃なる土地が現れ、多くの民が豊かに暮らせよう。お前の力を以って、この湖の堤を蹴り裂いてみよ。』と・・・。」
おやた「まるで、エピソード84.8の健磐龍命のようじゃな・・・。」
ウナ「し・・・して、権現は『有らん限りの力を以って、御言葉の通りに!』と答え、湖の周囲を一巡りした後、湖壁の一番薄い処を見付け、満身の力で、蹴り裂いたのじゃ。」
もち「そいで、どうなったんや?」
ウナ「湖水は怒涛となって流れ出し、やがて、湖底から現在の盆地が現れたのでござる。」
たっちゃん「豊かな土地を手に入れたのじゃな?」
ウナ「左様。して、里人は、宇奈岐日女を由布院開拓の祖として、大きな社を建てて祀ったのでござる。それが、宇奈岐日女神社にござる。」
シロ「ん? 前回、速津媛という、魁帥(首長のこと)が、九年前の西暦73年、皇紀733年(景行天皇3)に建てたと申しておったではないか? これは、如何なることじゃ?」
ウナ「ロ・・・ロマン?」
シロ「やはり、そうなるのか・・・。」
ウナ「ち・・・ちなみに、堤を蹴り裂いた権現は、川西地区の蹴裂権現社に祀られておりもうす。御神体は、大きな石にござるぞ。」
影媛「その社の鎮座地は、二千年後の地名で言うと、何処になるのです?」
ウナ「由布市の湯布院町中川にござる。」
小左「されど、その権現とやら、如何なる神なのじゃ? 『ナッカ』様が申しておられたように、元は、仏だったのであろう?」
ウナ「そうではあるが、この伝承の権現は、仏にあらず、人が神となったものじゃ。」
モロキ「人が神となる? 死ねば、皆、神になるのではないか?」
ウナ「左様。それゆえ、伝承よりも前に亡くなったのでござろう。」
百足「して、それは、どのような御仁なのじゃ?」
ウナ「その権現が、人であった時の名は・・・。」
シロ「誰か、わかっておるのか?」
ウナ「その名も、道臣命にござる。」
もち「なにぃぃぃ!! 『おい』の御先祖様が、そんげなコツ、しちょったんか!?」
ウナ「どうも、そのようで・・・。」
ヤヌシ「道臣が、ここでも祀られていると知り、驚いたなり!」
もち「呼び捨てするな! 『命』を付けんか! 『命』を!」
ナッカ「なんで『命』が要るんすか?」
もち「何、言うちょるんや! 黄泉国に旅立った人は、皆、神になるんや。当然、人ではなく、神になったんやかい、神様としての呼び方に、せにゃならんやろ?」
ワオン「神様なればこそ『命』が要り様であると?」
もち「じゃが。そん中でも、最も尊い方は『命』ではなく『尊』を用いるんやじ。」
舟木「なるほど! それゆえ、歴代の大王には『尊』が使われているのでござるな?」
もち「そういうことっちゃ。」
ウナ「解説のところ、申し訳ありませぬが・・・。湖の伝説には、後日談も有りまするぞ・・・。」
シロ「その後の物語が有るのか?」
後日談とは?
次回につづく