JW619 くぐりひめ
【景行即位編】エピソード8 くぐりひめ
第十二代天皇、景行天皇の御世。
西暦74年、皇紀734年(景行天皇4)11月。
ここは、泳宮。
岐阜県可児市久々利。
景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)は、弟媛を妃とするため、三野国(現在の岐阜県南部)に行幸していた。
付き従うのは、妃の伊那毘若郎女(以下、イナビー)と、二人の間に産まれた、彦人大兄王(以下、ひこにゃん)。
そして、大連の物部の連の十千根(以下、ちね)である。
一行は、無事に、八坂入彦(以下、ヤサク)の元に辿り着き、弟媛と対面したのであったが、弟媛は、妃になることを拒み、姉の八坂入媛(以下、やぁちゃん)を薦めるのであった。
弟媛「私には、姉があって、八坂入媛と申します。」
ヤサク「我らは『やぁちゃん』と呼んでおりまする。」
弟媛「姉は、容姿も美しく、心も貞潔でございますので、姉を後宮にお召しになってください。」
男(ほ)「媛は、そう申されると、局(部屋のこと)の中に走り去り、戸を閉め切って、一人、涙を流されたのじゃ。」
ちね「昔話と『日本書紀』が、行ったり来たりやね。」
イナビー「大王? どうなさる、おつもりですか?」
シロ「どうすると言われてものう・・・。」
ヤサク「大王! 申し訳ござりませぬ!」
シロ「何じゃ? なにゆえ、伯父上が、謝られる?」
ヤサク「我が、常日頃から、姉を差し置いてはならぬと申しておったゆえ、弟媛は・・・(´;ω;`)ウッ…。」
イナビー「己の想いを押し殺し、姉に譲ったと申されるのですか?」
シロ「なっ!? なにゆえ、そうなるのじゃ?」
ちね「せやけど、ここは、弟媛の言い分に従うしかないでぇ。」
シロ「どちらも妃にすることは能わぬのか?」
ちね「それは無理やね。『日本書紀』には、姉さんの方を妃にしたと書かれてますんで・・・。」
イナビー「身も蓋も無いことを仰るんですね・・・。」
するとそこに「やぁちゃん」が、やって来た。
やぁちゃん「お初にお目にかかりまする。」
シロ「なっ!? 汝が『やぁちゃん』か?」
やぁちゃん「は・・・はい。数日、いえ、月を跨いでの逃亡生活・・・。もう疲れました・・・。」
ヤサク「すまぬ。娘よ。昔話を優先したゆえ、汝が、それまで、どのような暮らしをしておったのか、全く考えにも及んでおらなんだ!」
やぁちゃん「良いのです。父上。おかげで、逞しくなりました。」
シロ「では、すまぬが『やぁちゃん』よ。我の妃となってくれるか?」
やぁちゃん「台本に、そう書かれているのなら、致し方なきこと・・・。もう疲れました・・・。」
ヤサク「許せ! 娘よ!」
ちね「どういう展開やねん。」
男(い)「こうして、大王は『やぁちゃん』を連れて、国中(奈良盆地)に帰ったのじゃ。」
ちね「昔話、続いてたんかい!」
男(ろ)「それからというもの、弟媛様は、局に閉じ籠ったままで、だあれも見かけることは、なかったっちゅうことやわな。」
シロ「何じゃと?」
男(は)「しばらくしてからのことや。こんな噂が流れ始めたんじゃ。」
やぁちゃん「噂?」
男(に)「俺な、日の暮方、奥磯山の麓で、媛様に出会うたわいな。」
男(ほ)「わしも、出会うたわ。けど、なんやら変やったのう。」
ヤサク「奥磯山? 可児市の久々利柿下入会の山じゃな?」
イナビー「二千年後は、ゴルフ場になっているのですね。」
やぁちゃん「な・・・何が、あったのです?」
男(い)「国中の姉君と、それに、大王にも、きっと、恋しい思いをされたんやわなも。」
ヤサク「ん? 我に、ついては?」
男(ろ)「日が西の山に沈む頃になると、弟媛様は、髪を振り乱し、山を歩かれ、やがて、月が昇るのを見ては、さめざめと泣いていなさるというこちゃった。」
シロ「な・・・なんということじゃ。」
男(は)「それも、日が経つにつれ、気も狂わんばかりになられた。ある夕方、髪を乱し、まるで、取り乱した媛が、山歩きをしておられる姿を見たなり、それからは、だあれも、弟媛様を見かける人が、いなくなったそうな。」
ヤサク「おお・・・娘よ・・・(´;ω;`)ウッ…。」
男(に)「何でも、大きな蛇が出て来て、媛を、山奥の洞に、連れ去ったという噂も立ったが、本当のことは、だあれにも分からんわの。」
男(ほ)「以上、久々利の昔話『くぐりひめ』でした。」
やぁちゃん「うう・・・弟媛・・・(´;ω;`)ウゥゥ。」
シロ「許せ! 我の所為じゃ!」
ヤサク「いえ、大王の所為ではありませぬ。これも、定めだったのでしょう。」
イナビー「可哀そうな、弟媛殿・・・(´;ω;`)ウッ…。」
ちね「せやけど、己で、行かへん、言うたんやから、しゃぁないでしょ。」
イナビー「大連殿は、女心が分からないんですね!」
ちね「これって、女心になるんでっか?」
とにもかくにも、弟媛に代わって「やぁちゃん」が妃となったのであった。
つづく
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