JW629 隼人と熊襲
【景行即位編】エピソード18 隼人と熊襲
第十二代天皇、景行天皇の御世。
西暦82年、皇紀742年(景行天皇12)7月。
ここは、纏向日代宮。
景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)の面前にて、大連や大夫たちが、騒いでいた。
熊襲が朝貢しなかったのである。
前回は、筑紫(今の九州)南部で暮らす、隼人と呼ばれる者たちが、海幸彦(以下、ウーミン)の子孫であると解説されたが・・・。
カーケ「して、熊襲と隼人は、どういう関わりなのかね?」
オーカ「ヤマトに従う者たちが隼人で、従わず抗っている者が、熊襲ではないかと思います。」
くにお「汝の感想ではないか!」
オーカ「仕方ありません。『記紀』には、詳らかなことが書かれておりませんのや。」
シロ「とにかく『オーカ』の申すことに従えば、貢物を送らぬということは、隼人ではなく、熊襲になってしもうた・・・というわけか?」
オーカ「そう考えて、よろしいと思います。」
ちね「せやけど、なんで、送って来んのや? どういうタイミングやねん。」
シロ「タイメン?」
カーケ「もしかすると、ヤマトの陰謀かもしれないんだぜ。」
シロ「我が仕掛けたと申されまするか?」
カーケ「筑紫に兵を送る、絶好の理由になるんだぜ。」
シロ「大伯父上と雖も、許されざる、物言いにござりまするぞ。」
カーケ「されど、筑紫を何とかせねば、任那や加羅諸国が、新羅に喰われてしまうかも、しれないんだぜ。今を措いて、いつ、その機会が来るというのかね?」
シロ「そ・・・それは・・・。」
くにお「ところで、大王・・・。隼人・・・いや、熊襲の住まう地は、何と呼ばれておるか、御存知ですかな?」
シロ「いや、知らぬ。」
くにお「その名も、襲国と申す。」
シロ「襲国?」
くにお「して、その地は、厚鹿文、迮鹿文という者が、治めておりまする。」
シロ「隼人の頭・・・ということじゃな?」
くにお「左様。して、輩が多く、これを熊襲の八十梟帥と呼んでおりまする。」
ちね「それって『ウーミン』の子孫たちってことか?」
くにお「詳らかなことは、分かりもうさず。されど、これだけは言えまする。」
シロ「何じゃ?」
くにお「襲国に、兵を送るべし!」
シロ「『くにお』も、そう考えるのか?」
くにお「隼人たちが治める地に、吾田と呼ばれる地がござる。」
シロ「吾田?」
くにお「初代、神武天皇の妃、吾平津媛は、吾田の生まれとか・・・。」
オーカ「御初代様は、隼人の媛を妃にしていた・・・ということにあらしゃいますか?」
くにお「拙者は、そう考えておる。神武東征を成すことが出来たのも、隼人を味方にしていたからではないか?」
カーケ「たしかに・・・。後背に憂いがあっては、東征は難しいんだぜ。」
オーカ「されど『記紀』を見てみると、吾田は、高千穂の地と書かれております。宮崎県日南市の吾田東や吾田西と、呼ばれる地域にあらしゃいます。」
くにお「実はな・・・。薩摩半島の阿多郡ではないか・・・という説も有るのじゃ。」
オーカ「なんと!」
ちね「もし、阿多郡であれば、間違いなく、吾平津媛は、隼人の媛になるっちゅうわけやな?」
くにお「そうじゃ。ちなみに、阿多郡は、鹿児島県日置市の南部や、南さつま市の北部の辺りとなるぞ。」
ちね「せやけど、それと、此度のことと、どう関わりが有るっちゅうねん?」
くにお「大王、自ら、筑紫に赴き、熊襲の媛を娶らば、神武天皇の再来となる。」
シロ「改めて、婚姻関係を結べと? そう申すのか?」
くにお「遠い親戚と雖も、血が薄まれば、赤の他人・・・。熊襲を隼人に戻すには、それしか、手立ては有りませぬ。」
シロ「そうは申すが、容易く、話が進むであろうか・・・。」
くにお「進まねば、荒事で済ますしかござらぬ。」
シロ「弓矢を以て、収めると?」
くにお「左様。」
ちね「ほんで、ついでに、筑紫の西側も、ヤマトに与させて、一件落着っちゅうことやな。」
カーケ「面白そうなんだぜ。それがしも、付いていくんだぜ。」
オーカ「四道将軍の『カーケ』様が、付いておれば、百人力にあらしゃいますなぁ。」
シロ「いや、大夫の方々には、国中(奈良盆地)を守っていただきとうござる。」
カーケ「そ・・・そうなるのかね?」
シロ「筑紫への御幸に付き従う者については、我が選びまする。」
ちね「ほんなら、大王、自ら、筑紫に向かうっちゅうことで、ええんですな?」
シロ「うむ。筑紫を平らげようぞ。」
こうして、筑紫遠征が決まったのであった。
つづく
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