松島花山

札幌に住む脳卒中片麻痺の重度身体障害者です。いろいろ不自由はありますが不幸でも可哀想でもありません。毎日楽しく生きています。  アメーバブログにてみんつちというハンドルネームで「われは河の子」というタイトルのブログを掲載中です。札幌市の障がい当事者講師として講演活動をしています。

松島花山

札幌に住む脳卒中片麻痺の重度身体障害者です。いろいろ不自由はありますが不幸でも可哀想でもありません。毎日楽しく生きています。  アメーバブログにてみんつちというハンドルネームで「われは河の子」というタイトルのブログを掲載中です。札幌市の障がい当事者講師として講演活動をしています。

最近の記事

蝉鳴り その1

御堂筋は灼けていた。  その日も私は白いカッターシャツに青地のネクタイを締めて、そろそろ手垢の馴染んで来たクラッチバッグを抱え、炎天の大阪の街を歩いていた。  たった今出てきた大きなホテルでは、随分冷房が効いていると思っていたのだが、私にはもうそのその涼しさを思い出すことができなかった。  その日はある商社の業界研究会があったが、しかしその内実は,青田刈りの二次面接に他ならず、私の前にいた何人かの学生が質問に詰まったり、しどろもどろになったりはしていたが、私は落ち着いて対応で

    • 臓腑(はらわた)の流儀 碧梧桐(みどり)の涙 最終回

      こうして紅陽祭は成功裏に終わり、あとは季節は冬に向かってまっしぐらに進んで行き、アタシたち3年生はいよいよ受験に向けての臨戦体制に入って行きました。とはいっても、その前に翌月に迫った期末テストと二2学期の終業式が控えていましたし、アタシたち4役はその前に離任式も予定されていました。  いろいろあった半年間でしたが、良き仲間に恵まれ、全力を出し切った紅陽祭が最後の晴れ舞台となったような感じでした。  そんな中、紅陽祭の人気投票の集計が終わり、選挙管理委員会からその結果が模造紙に

      • 臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その9

        ど、どうしたんだコレ?」 「アイツが逃げる途中で落ちたんですよ。いや、わざと落として行ったのかな?」 孝一郎君の質問に野添君が答えました。 「一瞬輝く物が地面に落ちたんで、それに気を取られているうちに逃げられてしまって……」 「いや、いい。コレを取り戻しただけでお手柄だ!」 「水島、やっぱりアイツ、怪盗Xが一連の犯人だったんだな?」  そう言ったのは平君でした。 「まぁそういうことになるだろうけど、それはゆっくり検討しよう。先ずはみどにコレを返すのが先決だ。  そうして男子

        • 臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その8

          翌日、最終日と、3日間の紅陽祭は慌ただしく過ぎました。  アタシはクラスの(主に男子が)主催していた射的屋を覗いたり、手伝ったりしながら、書道部の習字パフォーマンスなどに出たりとそれなりに楽しく充実した時間を送っていましたが、心のどこかでみどのエメラルドのことが引っかかっていました。  彼女も普段通りに振る舞ってはいましたが、時折り寂しげな表情を浮かべることもあり、心ここに在らずという感じでした。  でもバスケ部主催による3ポイントフリースロー大会の運営などにも関わっていまし

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その7

          おいおい桑坂、そう泣いてばかりじゃ何もわからん!どうした、いつものお前らしくもない。  困ったな……、野添から校内放送で急に呼び出されたから来てみたらこの有様だ。桑坂が無理なら、水島でも平でも誰でもいいから、事情を説明してくれ!」  いつもは沈着な鷺舞先生が珍しく途方にくれたような様子で首を左右に振りながら言いました。  「いや先生、それは無理です。いつもは僕や会長が馬鹿な話をしているのをたしなめてくれるように、常に大人みたいな態度で、まるで姉か先輩のように振る舞ってはいまし

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その7

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その6

          さて、いよいよ紅陽祭の当日がやって来ました。  早朝にはグラウンドで花火が打ち上げられ、学校中が浮かれているようでした。  前々日の衣装合わせで思わぬ感激を覚えてアタシたちは急遽予定を変更して当初案の寸劇を盛り込むことにし、こういうことが得意な孝一郎君が前日に即興で、一貫したストーリーではないものの、なんとかつぎはぎのシナリオを完成させました。  それに伴い、紅陽祭実行委員たちが、あわてて大道具や小道具を製作してなんとか開会式に間に合わせました。  それは例えば、教室の机に

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その6

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その5

          先生、いつどこで見つかったんですか?」 慌てて孝一郎君が口を開きました。 「ついさっき、6時間目が終わった後に職員玄関の靴箱の上に置いてあるのを、校外写生から帰った美術の小島先生が見つけたそうだ。札幌で吹奏楽部の木村先生が預かったままの巾着袋ごと置いてあったらしい」 「先生、ちょっと私音楽室に行って来ます!」  そう言って着替えもしないままに菊田さんが第二理科室を走り出ようとして扉を開けたかと思うと 「キャッ!」 という声を上げて後ずさりました。 「だ、誰か立ってる……」  

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その5

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その4

          そしていよいよ紅陽祭を2日後に控えた日、紅陽祭実行委員会の奮闘によって、アタシたちのアラビアンナイトの仮装の衣装が出来上がりました。図書室で「千夜一夜物語」を借りてイラストなどを参考にして皆頑張りました。  それから本番に向けて衣装合わせをすることになりました。  生徒会室は手狭なので、平君が科学部の部室として使っている第二理科室を使わせてくれることになりました。平君は科学部の部長です。  第二理科室は大教室の中に実験で使う化学薬品がこぼれても腐食しないように天板にステンレス

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その4

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどりの涙 その3

          ですから吹奏楽部はわが校のいわばエリート集団であり、実際に全道大会の時には、我が四役の菊田さんをはじめ、各委員会の長が集まる中央委員会はその構成員のうち結構な人数が吹奏楽部に在籍していたため、委員会活動も中央委員会開催も難しくなりました。  孝一郎君も「アイツらにそんなことをする意味、つまり動機だな、それが見当たらん。」と言っていました。  でも一抹の不安は、吹奏楽部1年生でパーカッション(打楽器)担当の男子斉藤君が、小学校の時にクラスで万引き騒ぎを起こしたことがあると、澤村

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどりの涙 その3

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その2

          さて、それではいよいよその時起こった不思議な事件のお話です。  それはこの北の街にも木枯らしが吹き始めるその年の11月の出来事でした。  私たち紅陽会役員は、いや柳野中の全生徒が、間もなく開幕を迎える柳中文化祭・紅陽祭の準備に余念がなく、慌ただしい毎日を送っていました。  特に紅陽祭実行委員会は紅陽会四役と全校各クラスの文化委員からなる文化委員会で構成され、その会長には生徒会長である孝一郎君が、同じく副会長にはみどが就任していました。  おかしなことに、そもそも今年度の文

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その2

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その1

          こんにちは初めまして。アタシの名前は諸住うてな。  迫館市立柳野中学校元3年1組。書道部所属で、当時は柳野中生徒会である紅陽会の書記を務めていました。  今回は昭和54(1979)年11月に私たちの学校で起こった不思議な事件についてお話しようと思います。 さて、本題に入る前にもう少し自己紹介を続けますね。  アタシのあだ名は坊主です。女子なのに坊主?って思いますよね。実はアタシは寺の娘なんです。家は仲道町にある、迫館では古い部類に入る日蓮宗華厳寺という江戸時代から続く古刹で

          臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その1

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ 最終回

          そうよ、アレはどう考えてもわからないわ。あれも緑川がどこからか見ていて、それをお狐様に伝えてたってこと?」  靖子も夫に追従する。 「あれも単純な心理トリックなんだ。実演した方が早そうだね」  孝一郎はそう言うと、着てきた革ジャンの内ポケットから一通の封筒を取り出した。 「俺は実物を見て来たから真似をして手製で作ってみた。ヤッコこんな感じだっただろう?」  そう言うと彼は封筒の中から重ねた三枚のカードを取り出して一枚ずつ靖子の前に並べた。カードの上には靖子から見て左から右に赤

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ 最終回

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ その11

          その夜七時、本町にあるアンバサダーの姉妹店であるラウンジ「ノーマ・ジーン」に関係者たちは集まった。   靖子とサムのピーポディ夫妻と孝一郎。今日、月曜日はアンバサダーが定休日のミッキイと塩田、そして退庁したばかりでスーツ姿の後藤検事。そしてなぜかミッキイの夫の加賀谷圭介の姿もあった。  ミッキイは今日はオフなのでラフな格好をしていた。 「ああ、キミちゃん、こっちはいいの。ごく内輪の話だから放って置いてちょうだい。自分たちでやるからお気遣いなく」  8時の開店を前に店内に他に客

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ その11

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ その10

          翌七日月曜日、孝一郎は九時ちょうどに緑川の携帯に電話をかけた。 「昨日お訪ねしました水島ですが、あと二時間ほどで小山さんと一緒にお伺いして、ご寄進を納めたいと思いますのでよろしくお願いします」 「はぁ、それはお早いことで大変結構でございます。 お仕事の方はよろしいんでございましょうか?」 「はい。こうなったら一刻も早い方が気持ちが安心するような気がいたしまして。仕事の方はこんな真冬の正月開け早々は建設屋にとってそんなに大きな案件もありませんし、私がデスクにへばり付いている必要

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ その10

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ その9

          塩田はゆっくりと鼻歌を口ずさみながら慎重に車を運転した。漏れ出るメロディはチャイコフスキーの交響曲第一番「冬の日の幻想」の冒頭部だった。  白狐教団に迎え入れられた孝一郎は、靖子から聞いていたことが寸分違わず繰り返されていることを知った。  ただ今日は何人かで集会のようなことが行われているらしく、玄関を上がって右側にある三部屋のうち、一番右側の部屋から数人の話し声が聞こていた。  孝一郎に隣の部屋で白作務衣に着替えて、俗界の物は何も持ち込まないように告げた緑川は、 「お休

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ その9

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ その8

          明くる年1月5日、靖子は白狐教団の緑川に電話をかけた。  「あの、先日お世話になりました小山靖子ですが……緑川さんでいらっしゃいますか?はい、あの節はありがとうございました……  それでですね、あの後主人とも相談いたしまして、とりあえず20万円のご寄進だけさせていただこうかと……」 「そうですか、それはよかった。早速お狐様にお願いして、貴女の厄祓いをしていただきますね!」 「あ、ちょっと待ってください……実は先日もお話しした、なんだか恋愛関係について問題を抱えている方なんで

          臓腑(はらわた)の流儀 白狐のお告げ その8