臓腑(はらわた)の流儀 碧(みどり)の涙 その1

こんにちは初めまして。アタシの名前は諸住もろずみうてな。
 迫館市立柳野中学校元3年1組。書道部所属で、当時は柳野中生徒会である紅陽会の書記を務めていました。
 今回は昭和54(1979)年11月に私たちの学校で起こった不思議な事件についてお話しようと思います。

さて、本題に入る前にもう少し自己紹介を続けますね。
 アタシのあだ名は坊主です。女子なのに坊主?って思いますよね。実はアタシは寺の娘なんです。家は仲道町にある、迫館では古い部類に入る日蓮宗華厳寺という江戸時代から続く古刹です。そこの娘である上に、なぜかおデコが広いので、それも合さって坊主と呼ばれているわけ。
 これでも書道2段を持っていますし、紅陽会では4役のうち書記を務めていました。

 その紅陽会役員は会長が同じ3年生で6組の水島孝一郎君。柔道部所属。
 優等生の彼が不良の巣窟みたいな柔道部でよくやっているなと思います。茶帯だそうですが、オリンピックなどで見る有段者の黒帯じゃないので、いうほど大したことはないのかなと思います。
 皆は会長とか水島君と呼びますが、私は1年の時彼と同じクラスだったので孝一郎君、時には孝一郎と呼び捨てにします。彼もアタシのことはうてなと呼ぶかデコと呼びます。失礼しちゃうわね!
 銀縁の眼鏡をかけた見るからに生徒会長然とした秀才ですが、どこかおっちょこちょいで抜けたところもあり、それもあって女子に人気が高いのです。
 書道部の友だちで彼にくびったけのマユミに聞いたら『母性本能をくすぐるタイプ』なんだそうですけど、その頃のアタシたちって、まだ15歳よ。母性本能なんて目覚めるのかしら?

 副会長はまずアタシと同じ3年生で、2年の時から同じクラスで親友の桑坂みどり。
 皆からはみど、みどさんと呼ばれている、女子バスケ部のキャプテンで、身長170センチ近い美人です。
 150センチ足らずで鼻ペチャのアタシとは雲泥の差ですが、そばかす混じりのアタシはキャンディキャンディみたいでそれなりに可愛いと思ってるんだけどな。
 孝一郎は凸凹コンビなんて言って笑います。デコはデコのくせに凹の方だもんなだって、本当に失礼な奴!

 みどは1年生の時に東京から転校して来た子で、転校生で美少女で頭がいいという、テレビドラマのヒロインのように三拍子揃っていたことから、最初の頃は男子もちょっと敬遠して手が出せない雰囲気があるようだったけど、3年経った当時は6組のミッキイこと植村美樹さんと並んで学年のマドンナの地位にありました。
 ミッキィといえば、同じクラスの孝一郎君と熱々だという噂もあれば、孝一郎君はやはり6組の瀬戸裕美子さんとデキてるっとも言われていました。
 何度か孝一郎に生徒会室で問い詰めてみたことがあるけど、そのたびに彼は「俺はみどがいい」とか「デコに惚れてんだよ」なんて調子のいいことではぐらかされました。
 アタシは嫌いなわけではないけど、1年生の頃から知っているから今さらって感じだけど、みどはまんざらでもないよう。まぁ頭のいい2人ならお似合いだけどね。

 もう1人の副会長は2年2組の野添文憲君。14歳ながら身長180センチの偉丈夫で、男子バレー部のエースアタッカーよ。
 ただその巨体の割に控えめな性格で、でしゃばりで押しの強い会長はもちろん、品行方正な美人のみどの前でも借りて来た猫のような有様なのがちょっと可哀想ね.バレーの練習や試合ではうって変わった熱血漢になるらしいけど。まぁ孝一郎とみどのいい補佐役であることは間違いないわね。

 アタシと同じ書記にはやはり3年生で5組の平敬一君、科学部所属。
 アタシよりは大きいけど中肉中背で、野添君からは頭一つくらい小さいけど、彼も優秀で科学部っていうくらいだから、高専を受験するって言っていました。
 ただ高専は公立高校入試が3月頭なのに対して前月2月の受験なので、孝一郎やみどやアタシと違ってもう焦りまくっていたことを思い出します。
 平君なら間違いないと思いましたけどね。

 そして会計に2年生の菊田淳子さんと1年生の澤村恵子さん。菊田さんは吹奏楽部でクラリネットを吹いていました。
 わが校は吹奏楽部の強豪校なので、彼女は2年生ながらすでに2度の全道大会出場経験があります。少しふくよかな身体つきですが、性格はキッパリとしていて、自分の意見は同学年の野添君はもちろん孝一郎君にもハッキリと怯むことなく発言する度胸を持っています。お家は酒屋さんを営んでいます。
 澤村さんは反対にアタシと同じか少しだけ背が高いくらいなのにセーラー服の上からもガリガリに痩せているのがわかります。その頃はまだ必死に紅陽会について行くのが精一杯という感じでしたが、1年生ながら立候補して生徒会役員になっただけのことはあって、芯の強い性格だとアタシは思っていました。確か珠算部に入っていたはずです。

 これでアタシの仲間の紅陽会4役の紹介は終わりです。それと紅陽会顧問の鷺舞信吾先生がいます。

 アタシは習ったことがないけど国語の先生で、怒ると万力のような指で男子生徒のお尻をつねることで「鬼の鷺舞」と恐れられています。さすがに女子のお尻を素手でつねるわけにはいきませんが、それでセーフかというと、擂り粉木の長いような白木の棒を持ち歩いていて、女子の場合はそれでお尻を打たれます。去年卒業した書道部の木下先輩なんかは「一生許さない!」と部室で泣いて悔しがっていたことがあったくらいです。

まだ30代になったばかりの独身の若い先生で、北海道教育大学迫館校時代は陸上部で、短距離走と砲丸投げの選手だったそうです。
 国語の先生なのにいつも黒っぽいジャージの上下を着ています。服装には無頓着なのね!
 そんなに大柄な体躯ではありませんが、砲丸投げで鍛えた力で中学生のお尻をつねったり、叩いたりするものですからたまったものではないようです。

 紅陽会顧問と同時に生活指導部の係でもあり、毎朝のように校門前で棍棒を持って生徒の服装・髪型チェックをしています。ちょっとでも違反があると男女問わず尻バットが飛びます。
 そんな恐怖の一面を持っているようですが、紅陽会では優しく熱心に指導してくれる先生です。

 長くなりました。これでその頃の柳野中学校紅陽会の紹介を終わります。

 写真は筆者(中段左端)が生徒会長時の
四役。メンバーをモデルにしましたが、設定や人格はあくまで架空のものです。

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