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(散文付き)兎に角青春はあの金髪に捧げた。
欲求の壁は日に日に高くなり自らの意思を操作する様になった。「昨日よりかは少し高い。」その位置を保ちながら形成されるその壁を超えた時の快楽は団欒を遮る小鳥の囀りよりも嬉しいものがある。だが超えた時に見える次の昨日よりかは少し高いその壁を見ると多少の儚さを感じる。意味も無く日々自動的に設置されたその壁を超える。視覚化された承認欲求はその儚さを常に体現してくれる。その数字の変動に自らの意思を、感情を操作される。無くなる。すぐ無くなる。消える。少し増える。少し。少し。少し。少し。1日が終わればその感情はリセットされ、また始めから。それぐらいの価値。自動的に形成された感情に自ら愛を注ぐ事でその価値基準は作られていく。超える意味が無くてもその壁を超えなければ潰されるだけ。
「ヤバッ。」
クラスメイトの嘲笑がこのクラスを象徴する存在になっている。僕はいつも意味も無くその光景を汚い窓ガラス越し眺めているだけ。
少し前から、この学校を先月退学した同級生のH君が午後12時頃の昼休みの時間になるとこの学校の校庭に来て校庭のすぐ隣にある僕ら生徒が居る教室を見つめながら何処かに消えて行く様になった。僕らの学校は私立の中高一貫校で僕は現在高校2年生。少し大学受験に対して意識を働かせながらも目の前にある青春に夢中になっている奴が多い時期だ。僕は特に大学に行きたいという気持ちも無く、だからと言って高校卒業後何処かに就職して働きたいとも思っていない。父が生み出した愛余る金を使って少し人生を休む時間に充てたいと思っている。
少しの不安も、気持ちの整理も、来年になってからまた考える予定でいる。そんな僕は毎日僕達を見つめにくるH君がとても羨ましかった。H君が退学する前、H君と校内での会話は一度も無く、退学するまでは存在自体も知らなかった。H君が退学してからH君を知る友達からは「大人しいだけ。」と伝えられた。だが、今彼は濃淡が強く発色が完成しきれてない金髪を僕達に見せてくる。薄く似合わない金髪。似合わないバイク。似合わない革ジャン。何処か淀んだ目。僕はずっと君を見つめていたかった。僕も君の様な似合わない金髪に今すぐにでもしたい。だがこの感情に必要な「勇気」を増幅させる様なものは僕の人生には一生来る事は無い。君が見つめる先に僕が映れば僕も君の様になれるのかな。クラスメイトの友達は嘲笑響く教室で目を尖らせながら鉄緑の東大数学40年分を解いていた。僕は左目で友達を見ながら、右目でH君を見た。左目を少し反らせば視界全体の情報量は右目に映るH君を多くする。また、右目を少し反らせば友達を多く映す。けど今の僕はH君しか映す事が出来なかった。そして時間が経過している事を5時間目の授業の開始を知らせるチャイムで知った。
それは、君を見つめながらだった。