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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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望郷

望郷

オオワシの翼を広げ毛先の先まで力を込める
ひとはばたきで大地と別れ足元に社が見える
はばたくたびに空気がはじけ山をちらと見て風を置き去る
達人の矢のように雲を突き抜けると
悠然と白く輝き泰然と夜空を照らす月のなかの月
言葉ならあそこまで飛び上がることできるのに
故郷の三笠の山には飛んで行くことができない

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詩です。百人一首を題材につくりました。
読んでいただ

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幻想

幻想

夜空の白い星々を見上げながら
カササギの橋に降りる霜って
凍った水のあつまりなんだと思った
田んぼの一枚一枚に月はしっかり映るように
しずくの一粒一粒にわたしが映る
水からしずくが生まれるたびに
わたしが孤独でいる世界も増える

こんなことを考えてみたところで、夜は更けていくだけで
誰かがわたしのもとに来てくれるというわけではない
それでも考えてしまうわたしはきっと損な性格なんだろう

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敬遠

敬遠

道はとうに隠されてしまった
燃えカスのように赤いてのひらが
幾千、幾万と重なり合って
アキノソラガグロテスクニアオイ
国中に愛が溢れているのなら
いま踏みつけている葉っぱや枝もきっと愛で
愛の断末魔はひどく軽くてちょっといい音だった
シカガナク
紅葉を踏みにじって小枝をくりかえし踏みつける
シカガナク
まだ若い木をバキバキとへし折る
シカガナク
大きな木に体当たりする
それはビクともせずわたしは立

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水をこわがらない猫

水をこわがらない猫がいる。水をこわがらない猫は、水をこわがらないので、水場に行く。水をこわがらない猫は、まわりにいるのが水をこわがる猫ばかりなので、水をこわがらないことをよくほめてもらえる。だから水をこわがらない猫は、水がこわくない自分のことを、特別な存在なんだと思い、水はほんとうはこわいものではないと主張し、大勢の水をこわがる猫を率いて水場に行き、水をこわがらずに飛び込んでみんな溺れた。
 

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せんぷうきほどのまじめさがほしい

もう拝まないでくれ、もう拝まないでくれ
一月一日は朝を配るたびに祈りを返されて申し訳なくなる
わたしはあそこにいる新聞配達のお兄さんと何も変わらないのに
世界平和とか背負わせないでほしい
「太陽がこのまえそう言ってたんだよね」と
たまたま隣に座った月から聞いた
隣のアパートが無くなったから立ち寄れるようになったらしい
ホコリが自分は美しいものであるかのように舞っている
ぼくはそれを美しいと思った

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再生

再生

目が濁っていなかった頃に見た富士山は
今でもわたしの瞼に残っています
夢のために耐えている人に憧れたのに
ただなんとなく耐える人間になっていました
冬になると肌は冷気で切りつけられ血が流れる
それなのに血が流れていないと肌を切りつけて
ようやく今年も冬がやってきましたね、と火鉢にあたる
気持ちの悪い笑顔で
汚さしか見えなくなってしまいました
汚さがないと白さが分からなくなってしまいました
だからこ

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漂流

漂流

脚で挟んだひんやりと動かない布団
いのちあるあたたかな動きをするものがない部屋
この部屋でもっとも生きものめいているのは
天から長く長く垂れ下がっている月の光
羽のさきっぽのうまれたてみたいな毛で
わたしの顔の表面だけをなでつづける
身体の表面だけをくすぐりつづける
この腕の中で眠るものが欲しいと思う気持ちは
恋と呼んでもいいのだろうか?

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読んでいただきあ

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生きていればいい

乾燥した皺だらけの無数の手が
僕を生きられるように改造していった
一瞬で無数の手に全身を掴まれたかと思ったら
すぐに離れて、その時には僕は呼吸ができるようになっていた
空気を吸うって、広辞苑を呑み込むみたいで、
とても苦しくて、空気の無い海中に飛び込んだら
無数の手がまた一瞬で全身を掴んで
僕を鰓呼吸に改造した
ナイフを取るのもロープを取るのも
手の本数で負けてしまいさきに奪われてしまう
屋上から

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独歩

一年を通じて
風はさまざまなものを運びますが
なにも乗せていない風というのもいいものですね
ただの風はわたしの熱を引き取ってくれます
夏が来たらしい
なにもかも燃やし尽くしてかがやく夏が
夏はきっと燃やして灰になった桜を覚えているでしょう
焦げ付いたように忘れることはできないのだろう
あぁ天の香具山はあんなに遠くになってしまいました
本当に歩いてきたのですね
純白の衣を干す働き者な指先まで
夏の光

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路地裏

大通りより路地裏の方が多い
女性がブーツから生脚を出している
ゴミを荒らしたカラスが翼を広げている
覆面たちが背中を叩き合っている
コスプレイヤーが撮影している
桃太郎が酔い潰れている
マネキンの頭が水たまりに落ちている
クロワッサンと三日月を見比べて居る人がいる
壁にもたれてメイド服が喫煙している
室外機はエアコンの数だけある
家族でドラム缶風呂に入っている
乳首の透けたばあさんが靴磨きをしてい

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栞紐

本から垂れている糸は空中に消えている
その糸はきっと見えなくなっているだけで
地球のどこかで美しい絨毯に編まれているはず
そうでなければこの涙が説明できなくなってしまう

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読んでいただきありがとうございます。
スキやフォローもしていただけるとうれしいです。

止まれ

すこし失敗したスタンプみたいに
消えかけの“止まれ”と
生まれたての“止まれ”が重なっている
消えかけの方は、どうせもう長くはいられないのだから最後くらい許してくれと喚いていて
生まれたての方は、これからやっていかなければならないことの邪魔をするのは勘弁してくれと叫んでいる
どっちも“止まれ”なのにである

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読んでいただきありがとうございます。
スキやフォロ

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正当性

太陽が死んでいくのを見せられても
闇の覆いが不気味に迫り来ていても
じっと耐え寝ずに見張りをしている
あなたはすばらしい
暢気な方々とは違い
あなたの袖は涙を流さずとも濡れている
何枚も重ねずとも
あなたの服は暗く重たくなっている
子どもたちにも背負わせてしまっている
それはあなたのせいではありません
闇のように何もかも塗り潰してしまうもののせいです
もう一度言います
あなたのせいではありません

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三日続いた雨がようやく上がった

詩です。

ベランダにくまのプーさんが干してある
Tシャツ、Yシャツ、エプロン、くつ下
というような並んでいるものはなく
事件性を感じさせる孤独感である
日常的にあらわれる洗濯物はペラペラの布で
胴体が入っていない状態だということがよく分かる
くまのプーさんが干してある部屋は
昨年ご主人を亡くされた大家さんの部屋です
あなたの夢を応援しているよ
と言ってよくアップルパイをくれます
部屋にあかりを灯

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