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配信ライブはリアルライブの代わりではない。

コロナ禍においてミュージシャン達は皆、それまで当たり前に開催できていた表現の場を奪われてしまいました。

特に2020年春、コロナ禍の最初期にクラスターが発生した場所が「ライブハウス」であると大々的に報道されてしまったことをきっかけに、音楽という文化全体がまるで社会悪のような位置付けとなってしまいました。

この状況に対し、業界全体で感染対策に尽力しながら公演再開の道を模索してきましたが、ソーシャルディスタンスなどの面を鑑みても動員数や演出などで考慮すべき課題は膨大で、社会が徐々に快方に向かっていきつつあっても依然として厳しい状態が続いています。

そもそも00年代、CDの売上などの音楽ビジネスが不況に陥っていた一方で、10年代ごろからはフェス人気などからライブ産業が右肩上がりとなり、音楽業界の主力市場となっていました。それだけに、ライブが開催できない状況は大打撃となってしまったのです。

こういった中で、多くのミュージシャンがコロナ禍を凌ぐための一時的な〈妥協案〉として、無観客ライブの配信を行ってきました。ライブハウスにカメラを設置し、通常のライブと同じように演奏してそれを中継するというこの方法は、当然ながら「リアルライブの下位互換」と化してしまい、熱気の薄れた魅力のないものになっていたように思います。現場に魅力を感じて足を運んでいたお客さんも、「配信なら別に見なくていいや」という方も大多数でしょう。

そのため、配信という"不完全燃焼な形態"に不満を抱き、はやくコロナ禍が明けて元のリアルライブに「戻したい」という声が多く聞かれました。しかし、果たしてそのような発想のままで本当に良いのでしょうか?

リアルライブが何物にも代えがたい魅力があるということは、揺るぎようのない事実です。しかし、コロナ禍になる以前から、病気や結婚・出産、子育て、仕事の事情など、様々な原因でライブ会場へ足を運べないひと、リアルライブを楽しめなかったひとが居たはずで、オンラインライブはそのような人々にまで音楽を届けることのできるチャンスでもあったのです。




オンラインライブのメリット

オンラインライブであれば、動員数の上限もなく、チケットの当落選を気にすることもありません。席によって音響やステージの見えやすさが左右されることもありません。

さらに、観客が居ないことで、あらゆる位置にカメラや照明を設置することができたり、ライブハウスではないいろんな場所から演奏ができるなど、オンラインでないとできない表現オンラインならではの演出の可能性が広がるのではないでしょうか。

映画と舞台がそれぞれ全く別モノの価値があるように、リアルライブとは別の新しい面白さを模索し、提案するミュージシャンも登場しています。

「新宝島」などで知られる5人組バンド、サカナクションもその1つです。

2020年初頭から開催していた全国ツアー中に、社会がコロナ禍に突入してしまい、例に漏れずツアー中止を余儀なくされた彼らは、同年8月に初のオンラインライブを開催しました。ライブハウスからの配信ではなく、スタジオにセットを組み、通常ライブ時のスタッフさんたちに加えてミュージックビデオのチームや監督とも一緒になって演出が行われ、オンラインならではのノウハウをふんだんに取り入れて配信ライブの新しい形を提示しました。

その後も、メンバー全員で回ることができなくなった際には、ボーカルの山口一郎さんによるファンクラブ限定のアコースティックライブツアーが決定し、その前段階として、なんと実際の山口一郎さんの自宅からオンラインライブを配信するなど、オンラインの利点を活かした表現活動を継続してきました。こちらも、自宅にクレーンカメラ水を使った演出、Perfumeなども手掛けるライゾマティクスによる映像エフェクトが施されるなど、ただの垂れ流しのライブ配信ではない、リアルライブの満足感に匹敵する工夫がなされていました。(自宅の部屋が機材で埋まってしまい、期間中、一郎さんはホテル住まいだったそうです。笑)

そんな彼らが、2021年11月20日と21日の夜に、それまでの規模を超えた新たなオンラインライブを開催。このオンラインライブから始まる一連のプロジェクトは、「アダプト」と名付けられました。アダプトとは「適応」という意味です。サカナクションがコロナ渦において、その活動を状況にどう適応させてきたのかを表現するのだそう。

従来、

シングル

アルバム

リアルライブ

オンラインライブ

という順番が普通であるところを、彼らは

オンラインライブ

リアルライブ

アルバム

シングル

という逆の順番で進めることにしました。

そして、オンラインライブで、アルバムに収録される楽曲が初披露

楽曲を発表してしまうと、YouTubeやストリーミングで手軽にいつでも聴けてしまう時代に、昔にラジオなどで新曲発表をかじりついて聴いていたようなワクワク感を作り出したい。とのこと。

彼らは、「コロナ禍にオンラインライブという表現を手に入れたことで、新しい音楽の体験の仕方を創り出せる」と語っています。

なんと、オンライン配信のために、専用スタジオに高さ13mもの巨大セットを建設した様子もアナウンスされています。億単位の予算が費やされているそうです。

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【舞台やミュージックビデオとライブの融合】と銘打たれているとおりの、圧倒的なパフォーマンスに驚愕しました。

新曲も過去曲も数多く演奏されるため、バンドに詳しい人も詳しくない人も同じように楽しめるはずですし、バンドのファンでなくとも、音楽に興味があるひとは体験しておくべき事象であったと確信しました。



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