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あの日

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あの日 いつか過ぎ去った あの日の1ページ
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くすり指

くすり指

 目のくりっとした、可愛いい、活発な女の子だった。
中学校の同じクラスなので、何かあれば、別に気にすることもなく教室では喋っていた。

 ある時、どこかで傷つけたのか、自分の左手のくすり指から血が出ていた。

こちらは全く気付かなかったが、
「あれ、南江くん、指を怪我しているよ」
「え?」
「絆創膏を貼ってあげるから、ここに座って」
と、教室の机をはさんで、椅子に座らされる。

 小さな花柄の小

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雨

昔、義母は小さな呉服店を一人で営んでいた。

利発で、明るく、いつも店をのぞけば、笑顔で、

「よく、きたね。
 こっちへ来てコーヒーを飲んでいきなさい。
 雨に濡れるから早くお店に入って」
と、たとえ、他に客がいても私達を丁寧に迎え入れてくれた。

なぜか、訪れる日は雨の日が多かった。

 数年前から、日常生活に支障が出始め、養護老人ホームに入所した。

まだ、自由に面会ができていた頃は、今まで

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手袋

手袋

 庭に、ハナミズキの木が一本植えてある。
いつの間にか、高さが三メートル近くになっている。

 子供が小さな頃。
可愛いピンク色に咲いた花を見ては、親父に、
「おじいちゃん、これハナミズの木よね」
と、まさに、鼻の下に鼻水を垂らしながらよく言っていた。
「そうそう、ハナミズの木だよ」
と穏やかに笑っていた。

 その親父が庭の手入れをする時、いつも青い手袋をはめていた。
そして、大きく背伸びをして

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母の弁当箱

母の弁当箱

 小学校、中学校までは、給食だった。
飢えた時代だったので、給食が余ることなどなかった。
クラスの誰かが休み、おかずが余ってしまうと、決まってじゃんけんをしてクラスの者で取り合いになった。
 嫌いなおかずもあったが、食べ残すことなどなかった。
日々異なるメニューが、昼の給食をとても待ち遠しく楽しみの時間へとなっていた。
殆どのおかずは美味しかったと思う。

 大学4年生の時、卒業した中学校を訪れる

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ビールとお酒

ビールとお酒


ビール瓶の蓋を、なぜだか栓抜きでコンコンと叩き、蓋を開ける。
机の上にあるガラスコップに注ぐ。
泡が勢いよくあふれる前に注ぐの止める。
コップを持ち、一気に飲む、泡が口の周りについている。
「ぷは~」
実に美味そう。


一升瓶の酒を徳利に注ぎ、水を入れたヤカンの中に徳利を入れる。
ヤカンが沸騰すると徳利を出して、おちょこに注ぐ。
口びるをゆっくりとおちょこに近づけ、なめるように飲む。
「ん

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黒板

黒板

 高校3年生になると受験のために、同じクラスでありながら科目によっては、理科系と文科系に分かれて授業を受ける。
 理科系と文科系の違いをロクに知ろうともしなかったが、数学ができなかっただけで、ただ単純に文科系に決めた。

 当然、生徒の数がそれぞれ半分になるわけだから、他のクラスの文科系の生徒と一緒に授業を受けることになる。
 自分は2組だったので、授業は1組の教室で受ける。

 ある時、1組の教

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コスモス

コスモス

朝起きる。
いつものようにカーテンを開き、窓から庭を見る。
と、一輪の小さなピンク色の花が咲いている。
「ん?何?」
ナント、コスモスが咲いている。
そういえば、二か月前に道の駅で買った苗だった。
この秋に咲くだろうと鉢に移していたものだった。

まだ6月。
なのに、咲く?
秋桜?
夏桜になっちゃたなあ。
まあ、どっちでもいいけど、今咲くと秋には咲かないんだろうなあ。
一輪の花が咲くことを、日に日

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