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手袋

 庭に、ハナミズキの木が一本植えてある。
いつの間にか、高さが三メートル近くになっている。

 子供が小さな頃。
可愛いピンク色に咲いた花を見ては、親父に、
「おじいちゃん、これハナミズの木よね」
と、まさに、鼻の下に鼻水を垂らしながらよく言っていた。
「そうそう、ハナミズの木だよ」
と穏やかに笑っていた。

 その親父が庭の手入れをする時、いつも青い手袋をはめていた。
そして、大きく背伸びをして、庭の作業が終わると、その手袋を木の枝にヒョイといつも置いていた。

 親父が亡くなって、もう十年が経つ。
 青い色は、かなり色あせたものの、いまだ、手袋は枝に引っかかったままである。

 玄関から、おもむろに出て来て、両手に手袋をはめながら、
「やれ、一仕事するかな」
と、人懐っこい顔して現れてきそうな気がする。

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