ゼロ度のエクリチュール「ロランバルト」
ロラン・バルトの「ゼロ度のエクリチュール」という概念について、皆さんはご存知ですか?
この興味深い理論を、わかりやすく解説してみたいと思います。
まず、「ゼロ度のエクリチュール」とは、フランスの文学者ロラン・バルトによって提唱された文学理論の一つです。
1953年に発表された同名の著作において、バルトは文学における「書く行為」に焦点を当て、それを客観的に分析しようと試みました。
バルトが言う「ゼロ度」とは、文字通り「温度がゼロ」を意味するわけではありません。
むしろ、彼は文学作品におけるスタイルや表現が「中立」である状態、つまり、個人的な感情やイデオロギーが排除された状態を指しています。
バルトによれば、このような中立的な書き方は、言葉そのものの純粋な意味を伝えることができると考えられます。
この理論の背景には、1950年代のフランス文学界における「新小説(ヌーヴォー・ロマン)」の動向があります。
新小説派の作家たちは、従来の物語やキャラクター中心の文学から離れ、言葉そのものや表現形式に注目する作品を生み出していました。
バルトはこのような文学の変化を受けて、「ゼロ度のエクリチュール」という概念を打ち出したのです。
しかし、実際に完全な「ゼロ度」を達成することは非常に困難です。
なぜなら、どんなに客観的であろうとする書き手であっても、言葉選びや文体には必ず何らかの選択が介在し、そこには書き手の主観が反映されてしまうからです。
バルト自身もこの点を認識しており、完全な中立性は理想であるとしながらも、それが実現不可能であることを指摘しています。
ロラン・バルトの「ゼロ度のエクリチュール」は、文学作品を分析する際の重要な視点を提供します。
また、私たちが日常的に使う言葉や文章に対する意識を新たにするきっかけともなり得るでしょう。
言葉を通じて伝えられる無限の可能性に思いを馳せつつ、私たち自身もより豊かなコミュニケーションを目指していけると良いですね。