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ショート小説集【ふたりの日々】

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【秋のはじまり】のふたりのそれからの物語。毎日投稿の中で思い付いたら追加していきます。まとまったら何か形にしたいと思っています。
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記事一覧

今日の1200字小説「おそくなったお昼」

今日の1200字小説「おそくなったお昼」

このお話の前章は下記リンクをご参照ください。

 柄にもなく少しイライラしている。理由はわかっている。お腹が空いているんだ。営業が朝から二件続いて、訪問先も離れていた。電車移動が長かったのもあって、昼食の時間を逃してしまった。

 遅れてはまずいから三件目の駅までは着いておきたい。まずは電車に乗ることにした。

 外出は社内にいるより気楽でいいが、食事のタイミングを逃すとモヤモヤする。電車内で飲食

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今日の1700字小説「涙の理由《わけ》」

今日の1700字小説「涙の理由《わけ》」

このお話の前章は下記リンクを参照ください。

 あー眩しい。午前中はこの日差しとの戦いかー。会社に来るなり、ガラス張りのオフィスに悪態をつく。二日酔いにこの光度は堪える。なまじ管理職になってめっちゃ明るい壁際の席を用意されてしまった。

 デザインの会社なんだからセンスのいいオフィスに入らなくちゃな!という社長の意向で数年前に移転したが、光の反射でPC画面が見えないだの、西陽で背中が焼かれるだのと

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今日の900字小説「JAZZの絵」

今日の900字小説「JAZZの絵」

このお話の前章は以下のリンクをご参照ください。

 三件の営業を終えた頃には、もう空が赤くなっていた。それでも会社の終業時間までだいぶある。忙しなく移動した一日だったが、速やかに片付けば社内にいるより早く帰れるというのが営業のメリットだ。直帰という概念を作った先人に感謝したい。

 念のため会社に連絡して許可を取る。ただここは普段は来ない郊外の町。電車で帰宅する頃にはいい時間になっているか。

 

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今日の1200字小説「歩く速さで」

今日の1200字小説「歩く速さで」

このお話の前章は以下のリンクをご参照ください。

 太陽の強烈な日差しから隠れるように過ごしていた時期が嘘のように、朝の空気はひんやりとして心地よかった。朝食のバターブレッドとともに休日を噛みしめる。

「お散歩行かない?」

 珍しくカナデから提案があった。散歩か、ちょうど秋の空気を堪能できる。いいじゃないか。私は二つ返事で了承した。

「気持ちいいな、久しぶりの感覚だよ」

「でしょ〜、ふふ。

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今日の900字小説「逃避行」

今日の900字小説「逃避行」

 私から言い出した朝の散歩だったけど、二人してずいぶん長いこと歩いていた。なんの予定もない休日に、何も決めずに外出する、自由でしょ。

「ノープランの逃避行…かな」

 少し早めのお昼は駅の近くのパスタ屋さんに入った。座って話し始めたら、ナオが言ってきた。

「逃避行って何から逃げてるの?悪いことしてないよ」

 私は反論する。

「休日だし、逃げると言ったら現実逃避でしょ」

 別に逃げたい現実

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今日の1100字小説「絶品コーデ」

今日の1100字小説「絶品コーデ」

 朝のちょっとした散歩のつもりが、長い外出になってしまった。ランチを終えてカナデと外に出ると、少し暑さを感じる。食事をして熱を帯びたのもあるだろうか。

 道ゆく人たちの中に中学生の制服があった。部活帰り?それとも最近は土曜授業をやっているのか?もう冬服を着ている。衣替えの季節か。さすがに暑そうだ。

「このまま歩いたら長袖だと汗ばむかな」

 独り言のように呟くと、カーディガンを脱いで半袖になっ

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今日の1600字小説「友達以上のルームメイト」

今日の1600字小説「友達以上のルームメイト」

『僕ルームシェアやってるんですよ!』

『へーホンマか!大変やろ、どんな感じなん?』

 PC画面の中でお笑い芸人さんが話しはじめた。

「あ、ねえねえ、ルームシェアの話してるよ!」

 台所仕事をしていたナオに話しかける。私はリビングにノートPCを持ってきて、ソファーに ぐでっ としながらくつろいでいた。

「なにそれ、YourBoom?」

「これテレビ番組だよ。TValueで観てるの」

 

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今日の1100字小説「ファミリーな朝」

今日の1100字小説「ファミリーな朝」

この物語の前章は以下のリンクへ。

 だめだ、昨日のことが頭から離れない。

 起き抜けのカフェオレを飲みながら、また昨晩のやりとり思い出していた。寝室は別だから寝る時に顔を合わせることはなかったが、向こうが起きて来たらちゃんと話せるか不安だ。

 カナデが急にあんなこと言うもんだから。思わず家族だなんて…。いきなり言って引かれてないか心配だったけど、あいつはやたら喜んでくれたな。

「友達だと思

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今日の1500字小説「秋風が吹く」

今日の1500字小説「秋風が吹く」

 外の空気は、もうすっかり冷たくなってきた。この前“木枯らし一号”が吹いたというニュースを見た気がする。秋風がひんやりと顔のあたりを刺す。

 こんな寒いのに会社行くのやだなぁ。

 真夏にも同じことを言ってた気がする。在宅ワークOKのゆるいデザイン会社だけど、今日は珍しく対面のミーティングが予定されていた。散歩で歩くのは好きなのに、会社に向かうときだけ足が重いのはなんでだろう。

 やっとの思い

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小説「部屋に帰れば」1100字【ふたりの日々】

小説「部屋に帰れば」1100字【ふたりの日々】

 部屋に帰ると、暖気が冷えた体を包んだ。同居人はすでに帰っているようだ。すっかり冬の空気になった屋外との気温差に、ふっと気分が緩んだ。

「さむかったぁ」

 玄関で思わず独り言が出る。

「おかえり〜、もうすぐごはんできるよ」

 カナデはキッチンでグツグツと音を立てる寸胴鍋を煮込んでいた。ホワイトソースの香りだろうか。

「お、もしかしてシチュー?」

 カナデの顔がぱぁっと明るくなる。

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