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今日の1100字小説「絶品コーデ」

 朝のちょっとした散歩のつもりが、長い外出になってしまった。ランチを終えてカナデと外に出ると、少し暑さを感じる。食事をして熱を帯びたのもあるだろうか。

 道ゆく人たちの中に中学生の制服があった。部活帰り?それとも最近は土曜授業をやっているのか?もう冬服を着ている。衣替えの季節か。さすがに暑そうだ。

「このまま歩いたら長袖だと汗ばむかな」

 独り言のように呟くと、カーディガンを脱いで半袖になったカナデが後ろから歩いてきた。

「秋は外であったかく、中で涼しくが基本だよ?着脱が簡単なアイテムがオススメ!」

 衣替えマスターか。こっちは内側を暖かくしている。ファッション雑誌もチェックしているカナデには敵わない。

 「そうだ、せっかく街に出てきたんだから、冬物選ぶの手伝ってよ」

 オシャレマスターがいるなら利用しない手はない。ファッションに疎いと買い物に行くのも後回しにしてしまう。カナデがいれば失敗がなさそうだ。

「え?服買うの?手伝う手伝う!ナオの絶品秋冬コーデ選んじゃう!」

「グルメみたいに言うなよ。“絶品”はファッションに使わんだろ」

 カナデはオシャレの話になるとキャッキャし始める。

 30代ともなればファストファッションは卒業して話題のセレクトショップでとっておきの服を選ぶのだろう…と思っていたが、私はそんな気はさらさらない。安くていい、みんなと同じでいい。でも今日は隣にカナデがいる。

 駅近の商業施設に入っているファッションフロアに連れてこられた。割と有名なブランドの直営店がぐるりを囲っているフロアだ。

「ナオには絶対トレンチコートが似合うと思ってたの。ほらここら辺、あ、これ着てみて!」

 私が言い出したこととはいえ、ものすごい勢いで選びはじめてカナデの手には既に3着のコートが順番待ちをしている。アパレルでバイトしてた経験ある?

「あんまり派手な色は…」

「いや、ちがっ、オレンジ系でも、中を抑えめの色にしたらシックに見えるって。じゃあインナーはこれ!はい着る!」

 さすがに派手だろうと思いながらも試着室に入って仕方なく着てみる。ほらやっぱり…、お…?え…?い、いいかも。鏡を見るとなんだか大人っぽい自分がいた。

 これで出て行ったら、カナデも喜ぶかな。いざ試着室のカーテンを開ける…。ちょっと決めたポーズを取ってみたりなんかして…。

「あ、やっぱダメ!」

 いきなり肩を透かされてキョトンとする。

「なんで?」

 あれ?私はいいと思ったけど、似合ってない?

「アタシのコーデと色、被ってるわ」

「自分の好みに寄せすぎたな!」

 とツッコんだが、カナデが自分と一緒に歩くのを前提にしていることに気づいてニヤけてしまった。


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