イノシチ公式
文・宮本小鳩と絵&デザイン・モスによるほのぼの擬人化小説「イノシチ」シリーズの連載です。イノシチ(7)にちなんで毎月7の付く日に更新できたら…と思っております。 「イノシチ」についてはこちら→ http://www.inoshichi.com/
僕らは、あろうことか古代遺跡の真ん中で、イノガタさんにより事情聴収を受けることになってしまった。 「こうなったら、何でもお話しいたします。イノシチさんやイノガタさんたちの前では、失礼な真似などできるはずもございません」 ミチナガさんは、やけに改まった調子で、神妙な顔をしていた。 「では、単刀直入にうかがいます。あなたがたはなぜ、このような場所で言い争いなどしていたのですか」 「この男が、我々に無断で、サトコ姫やイノシチさんたちを案内していたからです」 「なるほど。あなたは確か
古代遺跡(3)あの頃僕らは若かった 「ハッ……君たちは!」 カゲヤマさんが、突然現れた三人組に視線を向けた。 「久しぶりね、カゲヤマ君」 コマチさんが、どこかよそよそしい感じであいさつした。 「相変わらずだな、カゲヤマ」 ナリヒラさんもまた、同じような距離感で言った。 「おやおや、ミチナガ氏のみならず、ナリヒラ君にコマチ君まで一緒とは。一体これは、どういう風の吹き回しですかな?」 カゲヤマさんは余裕ありげな感じで返したものの、少しだけ緊張した面持ちに見えた。 「ふん、今さら
イモガラ島・古代遺跡。 かつてここには宮殿が存在し、歴代の王がまつりごとや王室の重要な儀式を行ったりしていた。 王室による支配が終わりを告げ、民主主義の世の中になると、かつて栄華を極めたこの場所もだんだんとすたれていき、今では許可なく中に入ることができなくなっている。 けれども、今日だけは特別だ。この日のためにカゲヤマさんは、事前に入場許可証を取り寄せていた。しかも、サトコ姫ことワール=ボイドへのおもてなしも兼ねているわけで。 そこへお誘いを受けた僕(とシシゾー)、我ながら
「イノシチ君、急で申し訳ないのですが、小生に少しばかり付き合ってほしいのです。サトコ姫を、とある重要な場所へご案内するために」 “イモガラ珍百景調査員”ことカゲヤマさんから、僕のもとに一本の電話が入ったのは、僕とシシゾーが王室ゆかりの場所をいくつか案内してもらった三日後のことだった。 サトコ姫ことワール=ボイドは、イモガラ島での長期滞在を満喫しており、当分の間はこちらでゆっくり過ごすらしい。 そんな中、今度はカゲヤマさんから、ボイドの観光案内への同行を頼まれたわけなのだった
外伝・末裔たちのラプソディ(5) 毎度おなじみ、“末裔トリオ”のミチナガ、ナリヒラ、コマチ。 とある日の昼下がり、彼らはミチナガの大邸宅にて、最高級の紅茶をたしなんでおりました。 「いやはや、ようやく接待も一段落して、心底ホッとしていますよ、私は」 紅茶を一口すすって、ミチナガは長いため息をつきました。彼は、つい先日、ワイル島からのお客様であるサトコ姫を隣の旧邸宅に案内しもてなす、という大役を終えたばかりでした。 たいそうなイモガラ島びいきの彼は、お隣のワイル島の姫君をも
先日からずっと、イモガラ島に滞在中のサトコ姫、またの名をワール=ボイドは、連日のようにイモガラ島の権威ある方たちによっておもてなしを受けていた。 それは間違いなく、国家レベルの機密事項であるらしいのだけれども── なぜかそのたびに、僕とシシゾーも呼ばれてそれに同行する流れになっていたのだった。 「なあイノ、オレたちって別に偉い身分でもないのに、なんで呼ばれるんだろうな?」 いつも元気いっぱい、いかにも庶民代表といったシシゾーが無邪気に僕に尋ねた。 「うーん、そう言われても、
「ねえじいや、今日はどこへ行くのかしら?」 「姫様、本日は旧・王室劇場敷地内の、野外小舞台を特別にご案内いただけるとのことです」 先日に引き続き、僕とシシゾーはサトコ姫ことワール=ボイドの希望により、イモガラ島の由緒ある場所を訪れていた。 旧・王室劇場は、イモガラ島において最も長い歴史と伝統を持つ、誇り高き大劇場である。スケールの大きな演劇やオーケストラコンサートなどを上演し、ドレスコードもあって、まあ正直に言うと、僕らみたいな庶民にとってはちょっと敷居の高い劇場だ。
先日、大好評と大混乱をもたらした“キノコフェスティバル”だったが、結果としては大成功で終えることができた。 この一大イベントのために、お隣のワイル島からイモガラ島に招かれたサトコ姫ことワール=ボイドは、しばらくの間ここイモガラ島に滞在することになった。 「イノ、シシゾー! また会えて本当に嬉しいワ!」 「僕らもだよ、ボイド。元気そうで良かった」 以前、“伝説のキノコ”を一緒に探しに行った仲でもある僕らは、キノコフェスティバルの翌日、改めて久しぶりの再会を果たした。 「ねえ
ついに、イモガラ島民みんなが待ちわびていたこの日がやってきた。 イモガラ島最大のお祭りといえばそう、“キノコフェスティバル”である。 キノコフェスティバルとは、その名の通り、キノコ尽くしの秋の祭典。 会場となるキノコ町大広場には、キノコを使った料理やスイーツの屋台が所狭しと並び、その他キノコグッズの店もあったり、さらにはメインステージでキノココスプレ大会、キノコ曲縛りカラオケ大会、ザ・イヤー・オブ・キノコスターコンテストなど、盛りだくさんの楽しいイベントだ。 「来たぜ来た
イモガラ島にも、秋がやってきた。秋といえば収穫の季節。イモガラ島で真っ先に思い浮かべる収穫祭といえば、“キノコフェスティバル”を抜きにして語ることはできない。 キノコフェスティバルとは、イモガラ島でもトップクラスに盛り上がるお祭りだ。キノコの研究者であるウリ山博士が実行委員長となって、日頃キノコをたくさん食べられることへの感謝を捧げ、これからもさらにキノコを食べまくろうと願う楽しいイベントである。 そもそもキノコといえば、この島のイノシシたちにとっては日常的に親しみ深く、
よく、同じカテゴリーでくくられるものに関して「〇〇シリーズ」と名付けることがある。このイモガラ島でもそのようなものは色々あって、“イモガラ珍百景”の中にも実は存在していた。それが、“虹色”シリーズである。 今回は「虹色のハチミツ極秘生産跡地」、通称“虹色のハチミツ”と呼ばれる場所へやってきた僕、イノシチと親友のシシゾー。 「やっぱりさ、虹色ってカッコいいから“珍百景”になってんじゃね?」 とのんきに笑うシシゾーに、いやたぶん違う、と僕は心の中でツッコミを入れた。 森の中、
イモガラ湖の北側、街道から少し奥へ分け入ったところ。 「今度こそこっちだって! さっき間違えたから、もう大丈夫だよ、イノ」 「何だよその妙な自信、もう暗くなり始めちゃったじゃん」 僕らは、イモガラ島各地にある“イモガラ珍百景”の一つである“星積み塚”という名所を見に来たのだけど、なぜか何度も道に迷ってしまい、気がつけばもう日は落ちかけ、辺りは少しずつ夜への準備を始めていた。 星積み塚とは、こんもりと山のように盛られた土の上に、星のような形をした石ばかりを積み上げて作られた
きらめく星空の下、広々としたプールのそばで、リクライニングチェアに寝そべりながら優雅にカクテルを楽しむ女性の姿がありました。 彼女の名はコマチ。普段は、イモガラ島の古くからの遺跡などを案内するガイドとしてあちこちを飛び回っています。たまに休暇を取って、この高級ホテルの屋上に構えられたプールで過ごすのがお気に入りでした。 コマチのいるプールサイドとは真逆の方で、ザバザバと騒がしい波音を立てながら、ふたりの男がはしゃいでおりました。体格の良い、全身スーツタイプの水着をまとった方が
キノコ町から少し離れた、郊外の草原地帯。 ここに、「祝祭のわだち」と呼ばれる昔からの観光名所がある。 かつてイモガラ島が王族により統治されていた時代、王族に新たな子が誕生したりおめでたいことがあったりすると、それを祝って皆で山車を引いて沿道を練り歩いた。その時に通り過ぎた車輪の跡が今も残されている。 ただ、由緒ある歴史を残そうとするあまり、旧態依然とした保全の仕方には賛否両論あり、もっと便利に利用できる道に改装すべきだとの議論もたびたび起こっているという。 そこには僕らの
イモガラ湖から南西に下った、森林地帯の片隅。僕とシシゾーが、ハイキングついでにあちこち歩き回って、渇いた喉をうるおしたいな、と思っていたところ、僕らの目の前にタマゴのような形をした泉が姿を現した。泉の水面は降り注ぐ日の光を受けてキラキラ輝き、こぼれた光が別の場所を照らすと、青い水面が赤っぽくなったり緑がかったりして見える。まるで虹のようだ。 「うわー、きれいだなあ! オレが一番乗り、っと」 シシゾーが無邪気に感激し、水辺に走っていった。僕は、あわてて彼の白いタンクトップの後ろ
モミジ村の万年氷穴で美味しいかき氷を味わった後、ウリ山博士たちと別れた僕らは、村のはずれの“見守りの岬”を訪れることにした。 「イノ、今日はサツキさんに会えるかな」 とシシゾーが楽しげに言った。サツキさんとは、岬の灯台守をしているキリッとした感じの女性だ。ゲンキンなものだなあ、さっきはうり子さんの前でもじもじしてたくせに、もうウキウキしている。とはいえ僕もまた、以前の思い出がだんだんとよみがえってきたのだった。 「そういえば、初めて灯台に着いた時、歌を歌っていたよね」 「だな