マガジンのカバー画像

300文字の読書感想文

10
本を読んだ感想を可能な限り300文字程度にまとめるチャレンジをしています。 2024年8月に開催予定の図書館イベントまでの期間限定で始め、その後はどうなるか……。
運営しているクリエイター

記事一覧

【300文字の感想文】<10>八月の銀の雪|伊与原 新

【300文字の感想文】<10>八月の銀の雪|伊与原 新

5つの短編集からなる1冊。
どこにでもあるような日常から話の展開が広がり、伊与原さんならではの焦点に絞りこまれていく。

なにかと何かの対比があり、そこには深くリサーチされた情報があり、ちょっと賢くなれるから伊与原さんの本が好きだ。

読むのも、理解するのも遅い私にとって難解な本数冊をギュギュっと物語として分かりやすくしてくれているのは希望が持てる。
ちょっとずつでも賢くなれるという、希望だ。

もっとみる
【300文字の感想文】<8>宙わたる教室|伊与原新

【300文字の感想文】<8>宙わたる教室|伊与原新

<8>宙わたる教室   伊与原 新年齢も性別も、背景も関係なく、それまでの経験や、実は好きだったり得意とすることを活かすことで歯車が回り始める。
ほかの歯車とうまく噛み合うことで、それはさらに滑らかに回る。

たくさんの歯車は、それぞれに、相互に、サポートされていくし、知らずにサポートしている。
歯車がうまく噛み合わなくなったときは、決まって一方通行になっているのかもしれない。

ガタガタと回らな

もっとみる
【300文字の感想文】<6>終末のフール|伊坂幸太郎

【300文字の感想文】<6>終末のフール|伊坂幸太郎

<6>終末のフール 伊坂幸太郎

物語の中の大きな集合住宅の住人たちは、それぞれのスタイルで残りの人生を生きようとしている人たちだ。
世界が終わるまであと3年。
そう言われたら、私はどんな生活を過ごすのだろうか。

我先にいいものをゲットしてやる!というようなセール会場を思わせる、人の醜さは感じたくない。
だけど、おなかが空いたらイライラしちゃうし、すごい人混みでも食料を求めるのだろうか。盗みを働

もっとみる
【300文字の感想文】<7>あなたは、誰かの大切な人~緑陰のマナ~|原田マハ

【300文字の感想文】<7>あなたは、誰かの大切な人~緑陰のマナ~|原田マハ

旅に行かずして、旅に出たような気持ちになる。
心地よい温度感や風も感じる一章だ。
その場所がどんなところなのか、どんなものなのか、そう気になって調べてみた。
そうすると、本の中身の鮮明さが、より増したようだ。

・ボスフォラス大橋

行ったことはない。
3つもあるのか。
じゃあそのどの橋を渡ったのだろうか。
3つとも渡ったのだろうか。
そんなつまらないことが頭をよぎる。

・シガラボレイ

日本に

もっとみる
【300文字の感想文】<5>額を紡ぐひと|谷瑞恵

【300文字の感想文】<5>額を紡ぐひと|谷瑞恵

執着や葛藤、苦しみだとかそういったものが、ゆっくりと波打つように変化していく過程が見えた。
それらは美しさに変わるものなのだと、初めて気付かされもした。

人の心の奥底に触れるのは怖いものだ。
人の想いを感じ、受け取り、見えないものをかたちにするのは、美しいものをさらに美しくするというのではない。
闇に光が射すことで、美しさに変わるのかもしれない。

戸惑いや気持ちの揺らぎなどが、丁寧に描写されて

もっとみる
【300文字の読書感想文】額を紡ぐひと|谷瑞恵 ~読書メーター感想文ランダム選出のまとめ~

【300文字の読書感想文】額を紡ぐひと|谷瑞恵 ~読書メーター感想文ランダム選出のまとめ~

優しい雰囲気の装丁とタイトルに惹かれ読了。
額装は時を留めるものかと思いきや、作品となることで新たな世界を生み出すものだった。
美術作品が素敵でも、それを入れる額が適当だと魅力も半減してしまう。
中の作品と並んで、額装とは大切なものなのだと知る。
中の作品にふさわしい場所へしまい、且つ、いつでも見られるようにする、という考え方はとても素敵だ。純のために作った額装は特にそう感じた部分だ。
物語は、心

もっとみる
【300文字の感想文】<4>すいかの匂い|江國香織

【300文字の感想文】<4>すいかの匂い|江國香織

<4>すいかの匂い 江國香織

夏を題材にした短編集がないかなと、たまたま見つけて読了したけれど、11話からなるどのお話も、どうもすっきりしない、素直な言葉で吐き出せば、読後感が微妙な1冊だった。

昭和の時代背景のなかにいる物語の主人公たちはみな、重い影の部分が見える。それでも、少し空が低く感じるような時代のなかでは、人と人との距離感が、良くも悪くも近かったことを思い出せる。
途中で離脱もできる

もっとみる
【300文字の感想文】<1>ニッポンのココロの教科書|ひすいこうたろう

【300文字の感想文】<1>ニッポンのココロの教科書|ひすいこうたろう

<1>ニッポンのココロの教科書 ひすいこうたろう

国語というものに学生時代は苦手意識しかなかった。
どうやったって、「筆者の気持ちを考えよ」みたいな問いには、「そんなのわかるはずないじゃん」と思っていた。
自分なりにどう思うか、と聞かれたら答えられるけど、あたかも答えはひとつよ、みたいな問われ方に甚だ疑問しかなかった。

そんな私がこの歳になり、書くことを学び、日本語の難しさを改めて感じ、タイト

もっとみる
【300文字の感想文】<2>推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない|三宅香帆

【300文字の感想文】<2>推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない|三宅香帆

<2>推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない  三宅香帆

「やばい!」
好きなもの、美味しかったもの、なんだってその一言で終わらせられちゃう。
どうやばいのかを深掘りしたくても、表現するには感性を磨かないと出てこないものなのか。
表現できない自分が、どんどんつまらなくなっているようにも感じてしまう。

手順や、書き方はこの本に載っている。
自分の言葉で語ろう。
わかる!語りたい

もっとみる
【300文字の感想文】<3>あなたは、誰かの大切な人|原田マハ

【300文字の感想文】<3>あなたは、誰かの大切な人|原田マハ

<3>あなたは、誰かの大切な人  原田マハ

目の前に広がる本のなかの景色が、丁寧に描写されている。タイトルにあるとおり『大切な人』が1話1話に存在する。
人と人とのつながりの描写はもちろんだが、私は、その舞台となる景色や情景がありありと目の前に広がる魔法に感動を覚えた1冊となった。
言葉の紡ぎかたひとつで、こんなにもその場所に行った気分にさせてもらえるのかと!

6話からなる短編集のなかで、『月

もっとみる