マガジンのカバー画像

書籍レビュー

87
書籍レビューをまとめたマガジンです。
運営しているクリエイター

#小説

書籍レビュー『三の隣は五号室』長嶋有(2015)私が今いる場所は、かつて別の誰かが居た場所

書籍レビュー『三の隣は五号室』長嶋有(2015)私が今いる場所は、かつて別の誰かが居た場所

【約2300字/6分で読めます】

自分が住んでいる部屋の前の住人を
想像してしまうことはないですか?私は配信サービスなどを利用して、昔の映画やドラマを観たり、昔の音楽を楽しむことが多いのですが、そんな時に想像してしまうことがあるんですよね。

「もしかして、私よりも前の住人がこの部屋で同じものを観ていたかもしれない(あるいは聴いていたかもしれない)」

私が住んでいるのは、築30年程度の借家なの

もっとみる
書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

書籍レビュー『十二月の十日』ジョージ・ソーンダーズ(2013)意味がわかった時、あなたも戦慄を覚える

【約1300字/3.5分で読めます】

ジョージ・ソーンダーズは今、
アメリカで注目されている作家本書の訳者あとがきによると、アメリカでは短編小説の名手として知られ、「作家志望の若者にもっとも文体を真似される作家」なんだそうです。

本作も発行されるとすぐに、『ニューヨーク・タイムズ』で絶賛され、その年のベストセラーリストをトップで独走したとのことです。

そんなことを知らずに読みはじめたがとにか

もっとみる
書籍レビュー『ハイ・ライズ』J・G・バラード(1975)現実の世界にもある階層間の闘争

書籍レビュー『ハイ・ライズ』J・G・バラード(1975)現実の世界にもある階層間の闘争


地を制した人類は
天へとその触手を伸ばした本作を知ったのは、
海外文学を多く紹介した
『やりなおし世界文学』
という本を読んだ時でした。

この本の中で、
「大陸を制した人々が
 今度は上を目指した」

というような紹介が
されていたんですね。

私は建築にも興味があって、
特にそびえたつ高層建築には
憧れすらあります。

本作はそんな高層マンションを
舞台にした物語です。

ロンドンの中心部に

もっとみる
書籍レビュー『家日和』奥田英朗(2004~2006)大きな事件はなくてもおもしろい日常

書籍レビュー『家日和』奥田英朗(2004~2006)大きな事件はなくてもおもしろい日常


「平成の家族小説」シリーズ1作目本作を手掛けた奥田英朗は、
20代の頃から好きな作家でした。

以前、「エッセイの研究」
というシリーズで、
彼のエッセイを
取り上げたことがありましたが、

意外にも note にやってきてから、
奥田英朗の作品をメインで
取り上げるのははじめてです。

本書は短編集で、
各話につながりはありませんが、
「平成の家族小説」シリーズの
1作目という扱いのようです。

もっとみる
書籍レビュー『武蔵野』国木田独歩(1896~1900)独歩が愛した風景の詰め合わせ

書籍レビュー『武蔵野』国木田独歩(1896~1900)独歩が愛した風景の詰め合わせ


一度は訪れてみたい武蔵野国木田独歩(くにきだどっぽ)の
『武蔵野』は中学時代に知り、
いつか読みたいと思っていた作品です。

中学時代の私が本作を
知ったきっかけは、
『鉄腕アトム』でした。

『鉄腕アトム』
「赤いネコ」の冒頭で、

手塚治虫が登場し、
『武蔵野』の一文を
引用していたんですよね。
(作中にも武蔵野が出てくる)

「武蔵野」という地名は、
その時に知ったのですが、
とてもインパ

もっとみる
書籍レビュー『樽とタタン』中島京子(2018)古い記憶は脚色されるリアリティー

書籍レビュー『樽とタタン』中島京子(2018)古い記憶は脚色されるリアリティー


たまたま手にした本を読んでみた年末年始にブックオフで
「本おみくじ」
というものがあり、
買ってみました。

箱に1冊の本が入っていて、
中身はわかりません。

私が買った箱の中から
出てきたのがこの一冊でした。

まったく知らない作家さんですし、
たぶん、こんな機会でもなければ、
手に取ることもなかった本です。

しかし、これがおもしろかったので、
紹介させてください。

本作の主人公は
小学

もっとみる
書籍レビュー『日本沈没』(1973)日本がなくなる時、日本人は何を思うか

書籍レビュー『日本沈没』(1973)日本がなくなる時、日本人は何を思うか

日本の SF 御三家・
小松左京をはじめて読む著者の小松左京は
日本の SF 御三家と称される
大家の一人です。

(他の二人は星新一、筒井康隆)

小松左京の作品は、
はじめて読みましたが、

非常に高度な科学の話が
わかりやすく書かれており、
最後まで楽しく
読むことができました。

本作は氏の代表作であり、
長年にわたって、
さまざまな映像作品にも
なっています。

近年は、TBS の日曜劇

もっとみる
書籍レビュー『檸檬』梶井基次郎(1925)「ままならさ」とともに生きる

書籍レビュー『檸檬』梶井基次郎(1925)「ままならさ」とともに生きる


早世の作家が残した作品群『檸檬』は著者の代表作でもある
短編小説で、はじめて刊行された
創作集のタイトルにもなっています。

この作品は、以前から知っており、
書店の本棚の上に
「レモン爆弾」なるものを置く、
という結末を聞いて、

「一体、どんな話だろう」
と興味を惹かれました。

実際に読んでみると、
精神を患った主人公が
京都の街中をうろつくさまが
描かれた作品で、

街中で観た風景の描写

もっとみる
書籍レビュー『アルケミスト 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ(1988)ひたむきな主人公の探究心が読者の心を打つ

書籍レビュー『アルケミスト 夢を旅した少年』パウロ・コエーリョ(1988)ひたむきな主人公の探究心が読者の心を打つ

ブラジルから生まれた
世界的な大ヒット作本作は'88年にブラジルで出版され、
'93年にアメリカで出版された後に、
67か国語に翻訳され、
世界で3000万部売れた大ヒット作です。

内容は羊飼いの少年が
宝物を追い求めて旅をする
物語になっています。

ファンタジーの世界を
ベースにしていますが、
自己啓発の要素も強い作品です。

王様と出会い、
少年の壮大な冒険がはじまるスペインの羊飼いだった

もっとみる
書籍レビュー『くちぶえ番長』重松清(2005~2006)子どもは子どもなりに、大人は大人なりに楽しめる

書籍レビュー『くちぶえ番長』重松清(2005~2006)子どもは子どもなりに、大人は大人なりに楽しめる

ノスタルジーに浸る重松清の作品を読むのは2冊目です。

重松清といえば、
『流星ワゴン』('02)

『とんび』('08)

といった映像化作品が
多い作家でもありますよね。

数年前に私が読んだのは
『トワイライト』
という作品でした。

書籍レビュー『喜多川歌麿女絵草紙』藤沢周平(1975~1976)歌麿と女たちの物語

書籍レビュー『喜多川歌麿女絵草紙』藤沢周平(1975~1976)歌麿と女たちの物語


謎に包まれた江戸時代の絵師たち喜多川歌麿は、
江戸時代の浮世絵師です。

生年は1753(宝暦3)年、
没年は1806(文化3)年。

一般的には
こう言われていますが、
詳しい生年や出生地、
出身地については不明で、

生年については、
亡くなった年の数え歳からの
逆算で想定されたものです。

歌麿に限った話ではなく、
このように江戸時代の絵師は、
経歴が不詳の方が多いんですね。

特に有名な

もっとみる
書籍レビュー『さよなら、シリアルキラー』バリー・ライガ(2015)連続殺人鬼の息子に生まれて

書籍レビュー『さよなら、シリアルキラー』バリー・ライガ(2015)連続殺人鬼の息子に生まれて

シリアルキラーの息子子どもにとって
「親」という存在は
絶大なものです。

時には、
自分を支えてくれる
バックボーンの一つであり、

時には、
乗り越えなければならない
脅威としても存在します。

本作の主人公の父は、
圧倒的に後者の存在でした。

なぜならば、彼の父は、
21年間で3桁におよぶ
殺人を犯し、

「21世紀最悪の連続殺人鬼」
と呼ばれる男だったからです。

主人公の頭の中には、

もっとみる
書籍レビュー『解錠師』スティーヴ・ハミルトン(2009)運命を狂わせる類まれなる才能

書籍レビュー『解錠師』スティーヴ・ハミルトン(2009)運命を狂わせる類まれなる才能

かわいらしい表紙に惹かれて本書の表紙を見た時に、
ビビッとくるものを感じました。

これまでに
表紙やタイトルに惹きつけられて
思わず手に取った本が

ものすごく自分に合う本だった
というのは、何度かありましたが、

これもまたそんな一冊でした。

『解錠師』とは、
なんとも渋いタイトルですが、
表紙のかわいらしさが
それを中和している印象ですね。

原題は『The Lock Artist』、

もっとみる
書籍レビュー『剣客商売二 辻斬り』池波正太郎(1973)初心者にも親しみやすい時代小説

書籍レビュー『剣客商売二 辻斬り』池波正太郎(1973)初心者にも親しみやすい時代小説

対照的な秋山親子戦後を代表する時代小説家、
池波正太郎の人気シリーズ
『剣客商売(けんかくしょうばい)』の
第二巻です。

このシリーズは、
老剣客・秋山小兵衛(あきやまこへえ)を
主人公とする連作短編小説です。

’72~’89年に『小説新潮』で連載されていました。

秋山小兵衛は、
60代で隠居生活を送る身でありながら、

「おはる」という40歳以上も
年下の妻を持つ、
モテモテの男です。

もっとみる