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書籍レビュー『くちぶえ番長』重松清(2005~2006)子どもは子どもなりに、大人は大人なりに楽しめる

ノスタルジーに浸る

重松清の作品を読むのは2冊目です。

重松清といえば、
『流星ワゴン』('02)

『とんび』('08)

といった映像化作品が
多い作家でもありますよね。

数年前に私が読んだのは
『トワイライト』
という作品でした。

『トワイライト』は、
26年振りに再会した
小学校の同窓生の話です。

30代後半になった
主人公たちの落ちぶれた
姿が描かれた、

なかなか痛々しく
ほろ苦い作品です。

数十年ぶりに
再会する感じが
『20世紀少年』チックでもあり、

(設定が大阪万博の頃に
 小学生だった世代で、
 『20世紀少年』の
 登場人物たちと同世代)

懐かしい感じもある、
おもしろい作品ではありました。

しかし、私自身も当時は、
30代の後半で、その落ちぶれ感に
あまりにも共感したため、

逆に、読み返したいと思う
作品ではなかったんです。

それにしても、この作家さんの
「ノスタルジック」な感じは
いいなぁと思い、

他の作品も読んでみたいと
ずっと思っていました。

そこで2冊目として手にしたのが、
本作でした。

くちぶえ番長、現る

『くちぶえ番長』は、
小学館の学年別学習雑誌
『小学四年生』に連載された作品で、

文庫版では、新たに書き下ろしの
エピソードも追加されています。

主人公のツヨシは、
父、母、犬のワンと暮らす、
小学4年生の男の子です。

プロローグでは、
大人になり、作家になったツヨシが、

小学4年生の頃に書いていた
日記を振り返っているところから
はじまります。

4年生になった時、
ツヨシのクラスに、
一人の転校生がやってきたのです。

その子の名は「マコト」、

男の子のような名前ですが、
女の子です。

表紙のイラストにあるように、
ちょんまげのようなおさげが
トレードマークで、

いつも華麗に一輪車を乗りこなす
活発な女の子でした。

タイトルにもなっている
「くちぶえ番長」とは
マコトのことなんですよね。

転校して早々、マコトは
「番長」になることを
クラスのみんなの前で宣言します。

「番長」といっても、
弱い者にいばり散らす
ガキ大将ではなく、

弱い者を助ける
みんなが頼りにする番長です。

その宣言どおり、
マコトは相手がクラスの
いじめっ子であろうと、
上級生であろうと、

仲間を守るためならば、
果敢に立ち向かっていきます。

そんなマコトとツヨシは
仲良くなるのですが、
大人になってからは
会ったことがありません。

この小説は大人になったマコトが
当時の日記を読みやすく書き直した
という設定で、

ずっと会えていないマコトに向けて、
書いたものなのです。

子どもは子どもなりに、
大人は大人なりに楽しめる

本作には全部で14話の
エピソードが収録されています。

1話分のページ数が
10~20ページ程度で、
本編全体が230ページほどです。

日記から創作された
という設定なだけあって、

文体は子どもが書いたような
シンプルなわかりやすさがあります。

子どもの視点で描かれた作品は、
これまでにも読んできましたが、

ここまでリアルに子どもの感覚が
再現されている作品も
そうそうないような気がしますね。

それでいて、大人の鑑賞にも耐えうる
読み応えのある文章で、
この辺のバランスが素晴らしいです。
(胸にグッとくるシーンも多かった)

もとより、子どもが読むことを
想定された作品なので、
難しい時代背景などは
描かれていません。

ただ、駄菓子屋が
出てくるところなどは、
大人にも懐かしく感じるでしょう。

それでもやはりこの設定も、
詳しく書きすぎていないところが
今の子どもにも違和感なく
伝わるのではないかという気がします。

小学生が読めば、
同時代の子どもの冒険譚として
楽しめるでしょうし、

大人が読めば、
昔の懐かしい思い出が
蘇ってくるでしょう。

ただおもしろいだけでなく、
なぜ、その人物が
こういう行動をとったのか、

そういうことに思いを馳せるのも
また一興です。

夏休みの課題図書として、
親子で一緒に読むのも
楽しそうな本ですので、
この時期にオススメしておきます。


【作品情報】
初出:『小学四年生』(2005~2006)
   文庫版 2007年
著者:重松清
出版社:小学館、新潮社

【著者について】
'63年、岡山県生まれ。
’91年、『ビフォア・ラン』で作家デビュー。
代表作『エイジ』(’99)
『ビタミンF』(’00)
『十字架』(’09)など。

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