社会的弱者 その3
「更新は難しいです。」
管理職の方からの言葉が響く。
(なぜ?)
確かに周りの先輩達より、数字は取れていない。
受電件数のことだ。
でも、自分なりに、育成係とも訓練の時間を自ら乞い努力をしていた。
その効果も徐々に数字に表れていた。
「会議で決まったことだから。」
自分の訴えは届かない。
「それから…」
SV(スーパーバイザー)からの言葉が続く。
「アーサーさんに関して、周りの女性たちから声が上がっていまして…」
「何のことですか?」
「女性スタッフがお手洗いに立った後、アーサーさんが必ずお手洗いに立つと…お昼休みの時間も一緒にいつもされるとのことで…」
「何を言ってるんですか。そんなのたまたまでしょう。
しかもお昼休みに関してはボクはほぼセンターに2・3番目には出社してお昼休憩希望表に1・2で希望を書いています。
誰か知りませんがその人と被るようにどうやってしているというんですか。」
そう、そこのセンターのお昼休憩は、朝出社した順に、いくつか決められた時間帯の中から希望の時間帯に名前を書くことになっていた。
「それから…」
SVの話しはまだ続く。
「彼氏と別れろと言われた、と。そしてきっとアーサーさんが自分に気があるからそう言っていると…それはやはりセクハラに当たるのでは無いかと思っています。」
「喫煙所でどう思いますか?と相談されたから、自分の見解を伝えただけです。そんな謂れをされる覚えなんて一つもありませんよ。」
「それと…アーサーさんが怖いと仰るスタッフもいまして…同期の皆さんと何か飲み会をした時に、アーサーさんが大声を出されたことが原因と聞いています。それは確かに女性からしたら怖いと思うんですよね…」
「センター内でボクが何かその人に対して、またその人に対してだけではなくとも大声を張り上げたことがありますか?脅したりしましたか?
そもそも、仕事仲間ではありますが、飽くまでプライベートの時間に関してのことですよね。そんなとこまであなた方は首を突っ込むのですか。」
同期の男女のメンバーで、飲み会をした。
その際に嫌いな男の行動が気に食わず、確かにその男に対して怖声を使った覚えはある。その女性に対しての行為ではない。
「そのように多方から声が上がっていることに対して、我々としても少々取り上げざるを得なくて…」
謂れのないストーカー疑惑。
謂れのないセクハラ疑惑。
君を怖いという人がいる。
どれも到底納得のいかない話しだ。
ストーカー?
電子ロックのかかったドアは全て入退室が記録されているはずだ。
そこまで調べたのか?
セクハラ?
アドバイスを求められたから別れた方がいいのではと助言したまで。
私のことをすきかもしれない?
勘違いも甚だしい。
俺は別に好きな女がいる。
俺が怖い?
お前に直接なにか俺がしたか?
他人の好き好みで仕事が成り立つか?
女性が多い職場。
男性が肩身の狭い思いをする。
男尊女卑に対しての世論は高まっているが
”こういう世界”だってあるのだ。
女尊男卑、とでもいうのか知らないが。
一方の話しのみに耳を傾け、こちらの言い分には耳を閉ざす。
そして、決まったことだから、との一方的な解決手段を行使する。
「雇用期間の契約更新はできません」
そうして急に職を失った。
就業先の企業が❌を付けたら、それでおしまい。
それが派遣社員の現実。
就業先の企業の言いなり。
気に食わない人間は容易に切っていく。
しかも、実力云々とはまったく別のところで
そして片方のみの言うことのみを鵜呑みにして
調べれば解ることですら具体的な調査すらしない。
これを権力の暴力と言わずにはいられない。
その様な出来事ののち、すぐに派遣元の担当者と話しをする。
「アーサーさんにとっても、その様な企業先でいつまでも働いていたく無いでですよね?」
「もちろん、こっちから願い下げです。」
そんな強がりが込み上げる。
そんなものは、カラスも喰いやしない。
「なるべく早く次の現場探してみます」
そうして次の勤務先が決まったが、勤務が始まるまで約2ヶ月。
さて、どうしたものか。
了
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あらまきりん 様より拝借