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銀の鷹・国輿しラブストーリー

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幼くして一族の指導者として生きることを余儀なくされた一人の少女と、彼女を愛し心から支えた戦士の物語です。
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2020年9月の記事一覧

戦士と姫君|国興しラブロマンス・銀の鷹その13

戦士と姫君|国興しラブロマンス・銀の鷹その13

-ザッ-
あこがれの戦士を目の前に、直立不動の体勢をとる2人に、アレクシードは手を振って構うなと合図してから、彼らの背後にその鋭い視線を流す。

明らかにそれは怒っている視線。顔は平静を保っていても。

マーシュとトミーは、なんかおかしいぞ、と思い、そして、そういえば、とセクァヌの存在を思い出す。

「あ、この少年は怪しいものじゃないんです。
オレ・・い、いえ、私が戦場で落としてしまった物を届けて

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野営地にて|国興しラブロマンス・銀の鷹その12

野営地にて|国興しラブロマンス・銀の鷹その12

セクァヌは、予定より随分遅く野営地へと戻った。

戦のことは考えても仕方がない。

セクァヌはその思いを心の奥に無理やり押し込むと、ともかくペンダントを渡すべくその兵士を探す。

「あ!確かあの人だ!」

友人に説き伏せられたのだろう。
がっかりと肩を落とし、その兵士は勝ち戦でにぎやかに酒を酌み交わしている輪から離れて座っていた。

「ほら!お前も呑めって!」
彼を止めていた男がその男に酒をすすめ

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戦場の爪痕|国興しラブロマンス・銀の鷹その11

戦場の爪痕|国興しラブロマンス・銀の鷹その11

セクァヌの視野に入ってきたのは、2頭の馬に男が1人ずつと、それに続く歩兵らしき男が2人。

「ん?」
前方から疾走してくるセクァヌに、馬に乗った片方の男、もう一人よりかなり年上と思われる男が気付いた。

-ブルルルル・・・-

相手が攻撃してくるようなら、すぐさまそれに呼応するつもりだった。

が、4人とも憔悴しきっており、その様子はない。その上、ぐったりしている男はまだ少年と言える若さ。
そのま

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戦場での落とし物|国興しラブロマンス・銀の鷹その10

戦場での落とし物|国興しラブロマンス・銀の鷹その10

 -カポ、カポ・・-
レイガラント軍と無事合流し、ガートランドによって占拠されている街の1つを解放したスパルキア軍は、次の目的地へ向かう前、陣を張って休憩をとっていた。

セクァヌはその陣営の中を愛馬イタカに乗って回っていた。少年の服装に軽い胸当てのみ、大き目のフードをかぶり、ほぼ上半身を隠した格好をしていた。一人で見回るときはほとんどそうしている。

「おい、待てよ!」
「放してくれ!」
「バカ

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戦士の決意|国興しラブロマンス・銀の鷹その9

戦士の決意|国興しラブロマンス・銀の鷹その9

 翌日、一時の陣を張ったその地を後にし、彼らはレイガラントへと向かうことにする。途中ガートランドの軍との戦闘への対策はすでに練ってある。

兵士が見下ろせる場所に馬上のセクァヌが姿を表す。

朝日を受けところどころ黄金色に光を反射する長い銀の髪を風になびかせ、黄金色に光を弾く鋭い瞳に兵士は魅了され、士気は鼓舞される。

「進軍!」
言葉と同時にセクァヌは勢いよく剣を掲げる。

「おおーーーー!」

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小さき背にのしかかる責務|国興しラブロマンス・銀の鷹その8

小さき背にのしかかる責務|国興しラブロマンス・銀の鷹その8

 「あれから2年半・・・・」
坂道を下りながら、前を駈けるセクァヌの後姿を見つめつつ、アレクシードは呟いていた。

大小の障害はあったとしても、ほぼ順調に事は進み、まだ兵の数は少ないといえども、一応軍と呼べるようなものを持つようになっていた。

スパルキアの銀の鷹姫の名は、今やほぼ大陸全土に知れ渡ったと言っても過言ではなかった。ガートランドの圧制に苦しむ属国や敵対している諸国から援助の申し出なども

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心のふれあい|国興しラブロマンス・銀の鷹その7

心のふれあい|国興しラブロマンス・銀の鷹その7

「お嬢ちゃん!」
ようやくアレクシードが見つけたところ、そこはあの暗闇の地底が広がる裂け目の淵だった。

「お嬢ちゃん!」
飛び込もうとしていたセクァヌを間一髪でアレクシードが抱きとめる。

「何をするんだ?!」

「わ、私・・・こ、こんなの私じゃない・・・・私じゃ・・・」

「何を言ってる?髪の色くらいがなんだ!お嬢ちゃんはお嬢ちゃんだろ?!」

「ううん、違う。私じゃない・・・こんなの、きっと

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希望と絶望|国興しラブロマンス・銀の鷹その6

希望と絶望|国興しラブロマンス・銀の鷹その6

セクァヌから男の事を聞き、探しに来た大臣夫妻からアレクシードは事情を聞かされる。

「そうか、それで・・・。」
名前に『様』をつけて呼ばれることも拒絶するセクァヌに、男は考える。
いくらなんでも族長の姫を呼び捨てにもできない。

「お嬢ちゃん・・・でも、まずい・・か?」
そう呟きながら笑ったアレクシードに、セクァヌはそれでいいとコクンと頷く。

「では、オレの事はアレクと呼んでくれ。」
敬った言葉

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漆黒の世界で|国興しラブロマンス・銀の鷹その5

漆黒の世界で|国興しラブロマンス・銀の鷹その5

 気が遠くなるような暗闇での生活。
1日がいつ始まり、いつ終わるのかもわからない。

壁につけた印である程度季節や月日はわかっても、実際には感じることができない。

その暗闇の中でセクァヌは1つ、2つと歳をとっていった。
これがいったいどのくらい続くのか、このまま死ぬまで続くのだろうか?と、その印を見るだけで絶望的になりながら、それでも耐えていた。

そんな生活の中で、老医師シュフェストは求めつづ

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銀の鷹|その4・奈落の底で

銀の鷹|その4・奈落の底で

-ピチョン・・・ピチョ・・ン・・・-
急流に流されながらも、セクァヌは一応岸に流れ着いていた。
が、そこはやはり光の届かない暗闇の地底。

「こんな小さな子を・・・」
そんな言葉を耳にしながら、セクァヌは気付く。

「ここは・・・?」
暗闇の中、そっと身体を起こしてみる。

「痛っ・・」
流されたときあちこち打ったのか、全身に打ち身や擦り傷を受けていた。
目の前に誰かいるのに全く見えない。

「名

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銀の鷹|その3・恐怖に染まった日

銀の鷹|その3・恐怖に染まった日

「ここ・・・どこ?・・・うっ!」

「姫様!」
見知らぬ部屋の中で目を開けたセクァヌは、身体を動かそうとして首から背中にかけての激痛を感じる。

「姫様、まだ動かないで下さい。傷口はまだふさがってはおりませんので。」

傷口・・・・その言葉をかみしめるように、セクァヌは崖から落ちたときのことを思い出していた。
凍り付きそうなほどの殺気そして、血まみれになって倒れたマーサ。
そして、幼いながらもその

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銀の鷹|その2・砕け散った幸せ

銀の鷹|その2・砕け散った幸せ

 「おぎゃー、おぎゃー・・・・」
「う、産まれたか?」
産屋の前で今かいまかと心配しつつ待っていた時の族長のカイザは、目を輝かせて勢いよく扉を開ける。

「おめでとうございます、姫様です。」

「おおーーー!なんとかわいらしい姫だ。」
使用人の女が抱いてきた赤ん坊をそっと抱き、カイザは喜んだ。

族長が妃を迎えて10年、ようやく生まれた後継者に、その日一族は湧き上がり、族長の館の前の広場は自然と集

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国輿し・ラブロマンス「銀の鷹」その1・銀の姫

国輿し・ラブロマンス「銀の鷹」その1・銀の姫

 「使者殿、では、こちらへ。」
「はっ。」
小国、レイガラントの使者イルバは同じ小国、いや、もはや国は潰えてしまっているにもかかわらず、現在急激にその力をつけつつあるスパルキア軍の陣営を訪れていた。
勿論現在のスパルキアの族長、軍を率いている姫に会う為である。

「姫は目が極度に光に弱いゆえ、陽を遮った場所での目通り、使者殿には無礼かと存じますが、どうかご理解を。」

「いえ、それはすでに承知して

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銀の鷹、Pre・Story

銀の鷹、Pre・Story

 広大な大陸、ローガリア、大小様々な国がひしめくその大陸の山間の谷間に、国と呼ぶには小さな小さなスパルキアと呼ばれた国があった。

 1つの民族で成り立っていたそこは、小さくとも領土拡大を狙う列強諸国からも侵攻されない理由があった。

それは、その一族が持つ特別な力と彼らをその力故に守りつづけている森の意志、大自然のエナジー。

彼らは自然と語り作物の豊穣をもたらし、そして長は代々未来を読む力を有

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