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希望と絶望|国興しラブロマンス・銀の鷹その6
セクァヌから男の事を聞き、探しに来た大臣夫妻からアレクシードは事情を聞かされる。
「そうか、それで・・・。」
名前に『様』をつけて呼ばれることも拒絶するセクァヌに、男は考える。
いくらなんでも族長の姫を呼び捨てにもできない。
「お嬢ちゃん・・・でも、まずい・・か?」
そう呟きながら笑ったアレクシードに、セクァヌはそれでいいとコクンと頷く。
「では、オレの事はアレクと呼んでくれ。」
敬った言葉遣いも断られた男は、この際割り切ることにした。
「はい。」
助けに来たといってもそこからの脱出は困難極まりなかった。
裂け目に大木を落とし、そこからロープが流してある。
セクァヌらはその急流に逆らって出口まで行かなければならなかった。
出口まで息が続きそうもない、もうだめだと何度思ったかわからなかった。が、後ろからしっかりと支えているアレクシードの励ましが心に聞こえ、セクァヌは必死に頑張った。
そして、その後は、やはりロープを伝っての決死のロッククライミング。
落ちないようにと巻きつけられたロープがその長い距離の間に身体に食い込む。
ロープを握る手も同じだった。
布を何重か巻きつけておいても、それはすぐ破れ、皮膚も破れ血まみれになる。痛みはますますひどくなる。
が、ここまで来たからにはなんとしても脱出しなくてはならない。このチャンスを逃せば二度とは出られない。
必死の思いで彼らは登った。
それまでためていた脱出への、そして生への最後の執念を燃やして。
「手当てを!」
ようやく這い上がり、はーはー、と肩で息をし、激痛を堪えているセクァヌの手当てを、アレクシードは急ぎ仲間に指図をする。
そこにいた4人のスパルキア人たちは、神への感謝と喜びと共に、セクァヌを、そして、続いて登ってきた大臣夫妻の手当てをした。
「大丈夫か?」
痛みとその為の熱にうなされ3日間横たわっていたセクァヌの目に、やさしく笑むアレクシードの顔が写った。
「アレク・・」
アレクシードに手を添えられてそっと身体を起こす。
そこはセクァヌが落とされた地の裂け目から少し離れた洞窟の中。
「お嬢ちゃん・・」
アレクシードはランプの炎に照らされて輝くセクァヌの瞳に驚いて呟く。
「え?」
「あ、いや・・・何か食べるか?それとも飲みものの方がいいか?」
思わずその瞳に惹きこまれてしまったことに動揺を覚えつつ、アレクシードは慌てて言葉を繋ぐ。
「じゃー、お水を少し。」
「わかった、すぐ持ってこよう。」
その場を離れるアレクシードの脳裏には、セクァヌの瞳が焼き付いていた。ゆらめく炎と共に光を弾き不思議な輝きを奏でる美しい瞳が。
そして、それから3日後、すっかり回復したセクァヌは、ようやくその洞窟からも出る。
「わ~~~・・・」
外の景色を見るのも約3年ぶりだった。
セクァヌより先に外に出ていた大臣夫妻の経験で、目が光に対して極度に弱くなっていることが分かっていた。
アレクシードは夕方になってからセクァヌを外へと連れて出た。
涼しげな風が吹いていた。久しぶりの風を受け、セクァヌは思わず涙していた。
「お嬢ちゃん。」
「出れたのよね、本当に・・あそこから、私・・」
「ああ、そうだ。」
涙目で自分を見上げているセクァヌをやさしくアレクシードは見つめ返す。
そして風に揺れて、その視野に入った髪にセクァヌの目がいく。
「え?」
驚いて後ろでしばっていた髪を前にまわす。
「え?・・こ、これ・・・私の髪・・・?」
黒髪だったそれは、長い地下での暮らしの為、白髪を通り越し銀髪になっていた。
「わ、私・・・・、こんなの・・・・」
『きれいな黒髪だ、セクァヌの黒髪ほどきれいな髪は見たことがない。』と自分を嬉しそうに抱き上げて笑っていた彼女の父の顔が脳裏に写った。
「あ・・・・・・」
途端に真っ青になる。
嬉し涙だったのが絶望のものとなる。
と同時にセクァヌは闇雲に走りはじめた。
「いやーーーー!」
「お嬢ちゃん!」
慌ててセクァヌを追いかけるアレクシード。
が、そこは森の中。
地下で敏捷さをみにつけていたセクァヌは、アレクシードの大人の、しかも屈強な戦士の足でもある意味追いつけなかった。
道なりに走っているのであれば、体格も体力も違う。
すぐ追いつけただろうが、彼女は地下での癖というか、無意識に道でないところへと足を運んでいた。
大人では通れないような岩の間を、藪の中を、それによってできるであろう切り傷をもものともせず、セクァヌはただひたすら走り続けていた。