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小さき背にのしかかる責務|国興しラブロマンス・銀の鷹その8
「あれから2年半・・・・」
坂道を下りながら、前を駈けるセクァヌの後姿を見つめつつ、アレクシードは呟いていた。
大小の障害はあったとしても、ほぼ順調に事は進み、まだ兵の数は少ないといえども、一応軍と呼べるようなものを持つようになっていた。
スパルキアの銀の鷹姫の名は、今やほぼ大陸全土に知れ渡ったと言っても過言ではなかった。ガートランドの圧制に苦しむ属国や敵対している諸国から援助の申し出なども確実に増えつつあった。
が、それと共にセクァヌの肩にかかる責任も日を追うごとに増してくる。
後姿の小さな背を見てアレクシードはたまらなく彼女が痛ましく思えた。
そして、そうしたのは自分自身だということを思い出す。スパルキア再興のため、その御旗として、セクァヌを持ち上げた。
それには時々罪悪感をも覚えることもあった。
まだ年端もいかない小さな少女に、その重責はあまりにも痛々しい。が、誰もその立場を代わってやることはできない事も確かだった。
代わりはどこにもいない。
族長の血を引くセクァヌだからこそ一族の意思を統べることができるのであり、そして、あの瞳で来る者を惹きつけ、圧倒させるのだから。
-シュ、シュッ!・・・ガサッサッ・・ドサッ-
「ん?」
馬を走らせながら、木々の合間にアレクシードが何かの気配を感じたのと同時だった。
突然投げられたダガーと木の間から落ちた人影にアレクシードは目をやる。
「刺客か?バカだな・・・その程度でお嬢ちゃんに気づかれないとでも思ったのか?」
気を感じ取る能力、暗闇で培われたそれは、目の見える者では到底察知できそうもないものでも敏感に感じ取る。
一応建前では姫の護衛となっているアレクシードなのだが、オレは単にくっついているだけのおまけなんだろうか、と時に感じてしまうほど完璧な防御本能と化していた。勿論、彼女の攻撃能力も確かである。
が、自分だけには本当の彼女で接していることもアレクシードにはわかっていた。
そこには姫としての責任も体面も何も持たない素顔のセクァヌがいた。
まっすぐにアレクシードだけを見つめ、本心をぶつけてくる素のままの少女のセクァヌが。
まだ子供だということがつくづく残念に思えるときも間々あったが、そんな彼女がアレクシードにはたまらなく愛しく思えていた。
「彼女に代わるものは何もない。スパルキアにとっても、そして、オレ自身にとっても。」
何事もなかったかのように馬を駆るセクァヌの横へ馬を進めると、アレクシードは燃えるような瞳で真っ直ぐ前を見つめている彼女の横顔を見つめていた。