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心のふれあい|国興しラブロマンス・銀の鷹その7
「お嬢ちゃん!」
ようやくアレクシードが見つけたところ、そこはあの暗闇の地底が広がる裂け目の淵だった。
「お嬢ちゃん!」
飛び込もうとしていたセクァヌを間一髪でアレクシードが抱きとめる。
「何をするんだ?!」
「わ、私・・・こ、こんなの私じゃない・・・・私じゃ・・・」
「何を言ってる?髪の色くらいがなんだ!お嬢ちゃんはお嬢ちゃんだろ?!」
「ううん、違う。私じゃない・・・こんなの、きっとお父様だって・・・」
「姫っ!」
アレクシードのきつい口調とその言葉にセクァヌはびくっとして、男を見上げる。
その涙でいっぱいになった瞳をしばらく見つめてからアレクシードはゆっくりと、言い聞かせるように話した。
「あれほどの思いでようやく脱出できたんじゃないか。あの思いは、そして、オレたちスパルキアの民の思いは髪の色くらいでどうにかなるもんじゃないはずだ。」
「アレク・・」
ぎゅっと彼女を抱きしめてアレクシードは続けた。
「それでも、もし何か言う奴がいたら、オレがそんな奴は許してはおかない。だからお嬢ちゃん・・・そんな事は言わないでくれ。・・・オレには宝石のようにも思えるんだから。」
「アレク・・・・」
わあ~っとそれまで我慢してきたものを吐き出すように、セクァヌはアレクシードの胸で泣き始めた。
「ほら、お嬢ちゃん。」
ようやく泣き止み落ち着いたセクァヌに、アレクシードは後ろを指差して促す。
そこにはセクァヌを心配してやはり探しに来た大臣夫妻とアレクシードの仲間がいた。
「あ・・・みんな・・・・・」
彼らのその気持ちと温かい瞳に、セクァヌの瞳からは再び涙があふれてきた。嬉し涙が。
自然のそして完璧な牢獄だったそこは見張りがいるわけでも見回りが来るわけでもなかった。
しかも人里から遠く隔たった僻地。
が、一応ガートランドの息のかかった者の目を配慮し、アレクシードらは夜間移動することにした。ガートランド本国の領地を離れ、今は属国となっているハラシムに向かう。
そこにはなんとか難を逃れたスパルキア人が息を潜めて暮らしている場所があるはずだった。
彼らと合流し、なんとか一族解放の突破口を見つける、それがアレクシードらの願いだった。
そして、その前に族長の忘れ形見の姫を救い出してそこへ向かえば、団結力はそして士気は、比べ物にならないくらい高まるはずだった。
計画はここまで順調に来、加えて元大臣夫妻という強力な味方もできた。
ガートランドの元大臣とはいえ、現国王と意見を異にし、あの地底に落とされた彼らは、是非もなく協力を申し出てくれていた。
しかも、彼らの情報により、地底内で見つけた水晶やヒスイの鉱床から、十分すぎるほどの資金源となりうる原石を持ち出すこともできた。
その道中、同じ馬上の自分の腕の中にいるセクァヌの月の光を受けて輝く瞳と髪にアレクシードは見入る。
「しかし、本当にきれいだな。」
「え?何が?」
「陽の光を受ければ黄金色に、そして月の光を受ければ銀色に輝く。まるで宝石のようだ。」
「あ・・・あの・・・」
面と向かって褒められ、子供心にもセクァヌは真っ赤になってうつむく。
「これでもう少し歳がいっていたら申し分なかったんだが。」
「もう!アレクの意地悪っ!」
その言葉に、ぱっと顔を上げて文句を言うセクァヌ。
「どうせ私はまだ子供ですっ!」
「はっはっはっはっ!」
拗ねた表情で自分から顔をそむけるセクァヌに、アレクシードは大笑いする。
10歳と23歳。それでもそこに確かな心の触れ合いができていた。