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ショートショート

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ショートショート(200〜4,000字)をまとめてます。 恋愛ものからシリアスなものまで。 チラ見感覚でどうぞいらっしゃいませ☺︎
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2021年11月の記事一覧

ショートショート:インビジブルハンマー

ショートショート:インビジブルハンマー

東京某所

「麻理…麻理…あああぁぁ!」
「麻理…どうして…」
宙に浮いた娘の足元で泣き崩れる母親と、その母親を抱きしめる父親。
「娘が首を吊っている」
そう通報を受け、駆けつけたのが10分後。
慎重に体を下ろし、状態を確認する。
脈はなく、瞳孔は開いていた。
死んでいる。

死亡した女性は斉藤麻理、18歳。
遺族や友人に聴取したところ、明るい性格で男女問わず人気者だったという。
学校に通いながら

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ショートショート:応援

ショートショート:応援

7月。
厳しい陽射しが照りつける日曜日。
こんな暑い日は、クーラーの効いた部屋で冷たいアイスコーヒーを飲む。
ボトルではなく、水出しのコーヒーだ。
場所は、L字型ソファーの1番右端。
ここが1番テレビが見やすい、僕の特等席だ。
この完璧な空間を整えて日常の喧騒から離れ、のんびりと映画を見て過ごす。
これが僕の休日の楽しみだ。
しかし、今日はそうもいかないみたいだ。

「もう少しでなっつやっすみ〜!

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ショートショート:思い出

ショートショート:思い出

「別れよう」
彼女から放たれたその一言で、3年間にわたる僕らの関係に終止符が打たれた。
大学に入学してすぐ出来た彼女。
大好きだった。
止めたかった。
でも出来なかった。
電話越しにごめんなさいと泣く彼女の声を聞いて、彼女を幸せにできる男は僕ではない事を悟った。

電話を終えた後、僕も泣いた。
ひたすらに。
それから酒を飲んだ。
浴びるように。
そして眠った。
泥のように。

翌朝、スマホの画面を

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ショートショート:秋の夕日に照らされて

ショートショート:秋の夕日に照らされて

僕は今、とても悪い事をしている。
学級委員を務める僕が、こんな事をしてもいいのだろうか。
いや、良いはずがない。
本来なら降りろと言うべきだし、そもそも乗せる前から強く拒否するべきだった。

「ねぇ、もっとスピード出せないの?」
後ろで横向きに座ったまま優が言った。
「馬鹿言え!2人乗りは慣れてないんだよ。て言うか明日先生に何言われるか分かんないぞ」
「あはは!正門出る時にコラー!何やっとるかー!

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ショートショート:世界最後の日には

ショートショート:世界最後の日には

仕事を終え、家に帰ると同棲中の彼女が何やら楽しそうに僕を出迎えた。
「おかえり!今日は遅かったね?」
「ただいま、ちょっと寄り道してて。で、どうしたの?顔にワクワクって書いてあるけど」
「テレビで心理テストやっててさ、ちょっと聞いてみたいなーと思って待ってたの」
「なるほど、そういうことか」

僕の彼女は心理テストやスピリチュアルと言った類のものが大好きだ。
占いもよく行くし、僕に心理テストを出す

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ショートショート:おもかげ

ショートショート:おもかげ

久々に実家へ帰ってきた。
丁度1年ぶりだろうか。
スライド式のドアが少し開きづらいのが懐かしい。
「ただいま」
中に入ると、実家独特のにおいが漂っている。
家を出るまでは気づかなかったにおいだ。
奥へ進み、居間へ入る。
家具、カーテン、壁掛けの絵画まで何ひとつ変わってない。
懐かしい空間に、僕の心は子供の頃へタイムスリップした。

エプロン姿で台所に立つ母。
電子レンジでじゃがいもを蒸しながら、ポ

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ショートショート:やわらかい釘

ショートショート:やわらかい釘

「ただいまー!」
マンションのドアを開けた僕は無駄に元気よくそう叫んだが、その声は1K7畳の狭い部屋に虚しく吸収されただけだった。
北山慎二、27歳。仕事有りの彼女無し。
真っ暗な部屋からは、当然誰の返事も返ってこない。
田舎から上京して早5年。
恋人どころか友人の1人さえいない。
だが寂しいとは思わない。
元々人付き合いが得意でない僕は、むしろ1人でいる時間の方が好きだった。
しかし、取引先で初

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ショートショート:最初で最後のお願い

ショートショート:最初で最後のお願い

とある日曜日。
僕は今、駅前の柱に寄りかかって人を待っている。
今日は同じ陸上部で1つ年上の先輩とデートをする約束をしているのだ。
既に約束の8時を20分過ぎているが、一向に連絡はつかない。
暇を持て余した僕は、しばらく人間観察でもしながら待つことにした。
スーツ姿のサラリーマンに、部活姿の中高生、酎ハイを片手にベンチでくつろぐ中年の男。
周りを見渡すと色んな種類の人間がいる。
と言っても世間はも

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ショートショート:ブラックタキシード

ショートショート:ブラックタキシード

人間の価値観は、育った環境によって大きく変わる。
逆を言えば、環境が変われば人間の価値観は簡単に変わる。
しかし、人間は自分の慣れ親しんだ環境を簡単に変えようとはしない。
何故なら、そこには拒否感、躊躇、畏怖と言った様々な感情がストッパーとなるからだ。
一方で、そのストッパーを壊し、自分の知らない世界に身を投じる事で、どう変化が起きるのかという興味も併せ持っている。
これは人間の真理である。

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ショートショート:完璧な彼女

ショートショート:完璧な彼女

「今日の天気は、曇りのち雨でしょう。」
きた。
遂に来た。
待ちに待ったこの日がやっと。
今日は傘を持参しない。
目的は勿論、彼女との、あれだ。

彼女と付き合うことになったきっかけは、放課後の居残り勉強だった。
2学期の中間テスト。
生徒の学力向上と称し、クラス対抗で平均点を競う企画が催された。
1位にはご褒美を用意しますと言うもんだから、皆やる気になっていた。
一方で僕は青ざめていた。
なんと

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ショートショート:未来視

ショートショート:未来視

瞼が重い。
体も重い。
それでも必ず行かねばならない。
会社というのはそういう場所だ。

「おはようございます」
挨拶をすると、代わりに部長の怒声が飛んできた。
「おい山田!今月のノルマ、クリア出来てないのお前だけだぞ!」
「すみません」
「謝りゃいいって話じゃないんだよ!5年も営業やってて何やってんだ。お前の代わりなんていくらでもいるんだからな!」
食品メーカーに勤める僕は、小売店へ行き、うちの

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ショートショート:余命

ショートショート:余命

とある放課後、「話したいことがあるの」と、彼女から家に招かれた。
ワクワク気分の僕を連れ、黙って自室へ向かう彼女。
横並びにベットに腰掛け、彼女はポツリポツリと言葉をこぼす。
全ての話を聞き終えて、僕は言葉を失った。
彼女は静かに泣いていた。
癌に侵された彼女の体は、もって半年の命らしい。
完全に陽が落ちた頃、見送るよと彼女は言った。
笑顔で手を振る瞳の奥には、恐怖と哀情が透けていた。
僕は力無く

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ショートショート:命の連鎖

ショートショート:命の連鎖

雨の中、未亡人が墓場で泣いている。
どうか夫を返してくれと。
ひたすら泣き続ける未亡人。
女の頬を伝うものは、雨か涙か分からない。
ふと、止む雨。
振り返ると、そこには黒い傘を差し出した黒尽くめの男が1人。
「なぜ、泣いているんだ」
「夫が…」
それ以上は声が出ない。
「お前の命と引き換えに、一つ願いを叶えてやろう」と黒尽くめ。
女は命を差し出した。
こうして、夫は再びこの世に生を享けた。
そして

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