ショートショート:世界最後の日には
仕事を終え、家に帰ると同棲中の彼女が何やら楽しそうに僕を出迎えた。
「おかえり!今日は遅かったね?」
「ただいま、ちょっと寄り道してて。で、どうしたの?顔にワクワクって書いてあるけど」
「テレビで心理テストやっててさ、ちょっと聞いてみたいなーと思って待ってたの」
「なるほど、そういうことか」
僕の彼女は心理テストやスピリチュアルと言った類のものが大好きだ。
占いもよく行くし、僕に心理テストを出すなんて事は日常茶飯事だ。
だからこそ、慎重に答えねばならない。
以前出された心理テストで好きな動物を問うものがあった。
その問いに「猫」と答えた僕。
すると、とたんに彼女は喋らなくなった。
どうやらその心理テストは浮気の確率を調べるものだったらしく、僕の選んだ猫は浮気率80%で最も高い結果だったらしい。
僕は心理テストといった非科学的なものは一切信じないタイプだが、彼女にとってその結果は大事なものなのだろう。
「じゃあ今から出す問いに答えてね?」
「分かったよ」
たかが心理テストなはずなのに、いつも額に変な汗をかく。
「ではいきます!今日が世界最後の日だとしたら、家族と彼女、あなたはどちらと過ごしますか?」
どんな問題かと身構えたが、要らぬ心配だったようだ。
これなら簡単だ。
「そんなの家族に決まってるよ」
「え」
「僕は世界最後の日、家族と過ごすよ」
「そっか、そうだよね」
僕が彼女と答えると期待していたのだろう。
さっきまでのワクワク顔がどんよりと曇った。
すかさず僕は、仕事用のバッグに手を入れた。
「これ、受け取ってくれない?」
「え?」
「君に似合うと思ったんだ」
僕を見るなり泣きながら右手で顔を覆い、空いた左手を差し出す彼女。
「やっぱり最後は家族と一緒じゃなきゃね」
彼女の薬指には指輪が光った。